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ショート動画アプリ「TikTok(ティックトック)」がデジタル庁と連携で、普及が伸び悩むマイナンバー制度の啓発動画を始めたことがネットの保守層を中心に物議を醸し出している。

TikTokがデジタル庁との連携で始めたマイナンバー啓発動画(バイトダンス社プレスリリース

フィフィさん「安全保障そっちのけ」

ティックトックを巡っては、運営会社のバイトダンスが中国の大手ネット企業で、アメリカ国内では今年6月に同社の従業員が米国内のセンシティブな情報にアクセスしていたと報じられるなど、欧米各国では、経済安全保障の観点から中国側への情報流出の可能性を警戒する向きが強くなっている。しかも、そうしたティックトックへの警戒動向を、“親中派”と目されてきた朝日新聞が7日に報じた直後のタイミングでの啓発動画スタートには、保守層も呆れるほどの「間の悪さ」だ。

バイトダンスはこの日午前、前日からショート動画の公開を始めたことをプレス発表した。グーグルニュースでは、深夜23時の時点で大手の報道機関で記事化した動きが見られないが、時事通信のサイトには、ニュースリリース配信サービス経由で転載された記事がアップされるなど次第に拡散。ツイッターでは発表に気づいた保守層がビビッドに反応した。

元タレントで、近年は政治的な発信でも注目を集める千葉麗子さんは「安全保障上の観点から問題視されているTikTokをわざわざ使うの?」と疑問視。

タレントのフィフィさんも「この国の安全保障そっちのけで、若者に媚びてマイナンバーの普及ってか、TikTokの普及に貢献してどうするのよ。危機意識低すぎ情けない」とデジタル庁の対応を嘆いていた。

そして、岸田政権発足時に初代経済安全保障担当相に任命された小林鷹之衆院議員は「政府内で十分に検討した結果の取組なのか??」と驚いたように反応していた。

この小林氏のツイートを引用したのが経済安全保障に詳しいジャーナリストの峯村健司氏。「あり得ない愚策。ティックトックの情報漏洩のリスクは解消されていません。アプリに対する政府の危機感のなさには呆れるばかりです」とコメントした。

デジ庁に降り注ぐ保守層の厳しい眼差し

ここにきて、保守層の間では、デジタル庁が安全保障の観点から機能不全ではないかと不信感が強まっている。

まず槍玉に上がったのが、岸田政権発足時から先の内閣改造までデジタル担当政務官を務めた山田太郎参院議員。今夏、経営者時代に北京航空航天大学で名誉教授を務めていたことが保守層の間で問題視された。同大学は、人民解放軍が兵器開発などで関係性のある「国防7校」の1校。山田氏はブログやSNSで釈明に追われた。

そしてこの日のティックトックとの連携で、保守層の矛先は就任まもない河野太郎デジタル相にも向けられつつある。河野氏といえば昨秋の自民党総裁選に出馬した当時、親族が経営する機械部品メーカー、日本端子が中国企業と合弁で設立した現地子会社を巡って中国共産党との関係が取り沙汰される騒ぎも起きた。

牧島かれん前大臣との交代式に臨んだ河野氏(デジタル庁サイト)

当時の騒ぎを、河野氏は「根も葉もないデマ」だと反論してきたが、総裁選当時、ライバルだった高市早苗氏を支持する保守層を中心に騒動はヒートアップ、ネガティブキャンペーンを連日繰り広げた。その記憶が浅くない中、保守層は今回の啓発動画について

デジタル大臣は河野太郎。ダダ漏れTikTokを使うセンスはさすが。危険性を知らないわけがない。

太郎が親中ぶりを発揮しましたね。

などと日本端子の騒動を蒸し返すような書き込みも相次いだ。

ただ、河野氏の大臣就任はまだ1か月。この間、官民とも夏休みシーズンを挟んでおり、一般的には、役所と企業が提携してのキャンペーン動画がこれほどの短期で進んでいるとは考えづらい。このあたりは前述の山田前政務官を追及した政治アナリストの渡瀬裕哉氏でも「内閣改造後に直ぐに決められるわけがないので以前から決まっていたんだろうなと思う」と冷静な見方を示した。

しかし、ティックトックを巡っては、アメリカの連邦通信委員会(FCC)が、アップルやグーグルに対し、両社のアプリストアから削除するように要請。政府や軍関係者による使用はトランプ政権時代から継続して禁止されている。今回のデジタル庁の対応は、アメリカの同盟国でありながら安全保障上の危機意識の差が浮き彫りになった格好だ。

先述したように、経済安保相経験者である小林氏が反応したこともあり、与党内でも問題視されるのは必至だ。「ポスト岸田」へ捲土重来を期する河野氏にとっては党内の求心力を取り戻したい点からも、霊感商法対策に次に注目されそうな事案でどう対処するか問われることになる。