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※画像はイメージです(alxpin /iStock)

今夏、中国海軍が敵からの電子妨害とドローン群の攻撃に備えた演習を実施した。中国海軍はドローン群を脅威と感じており、さまざまな対抗策を研究している。同時に、その『脅威』を敵に向けるべく、ドローン群(自律分散する複数のドローン)を在来型兵器と組み合わせた、より効果的な海上自衛隊と米海軍に対する攻撃方法を模索している可能性がある。

海上自衛隊も中国軍同様にドローンからいかに防御するかの研究のみならずに、ドローンを使った敵軍への攻撃方法としても同様の戦術を構築していく必要があるだろう。

電波妨害とドローン群のハイブリッド演習

8月20日にCCTV(中国中央電視台)の軍事チャンネルがWeibo上に、中国海軍の駆逐艦が敵からの電子妨害とドローン群の攻撃を想定した演習の動画を投稿した(※元々の動画のリンクが切れていたため、代替としてYouTubeのCCTVチャンネルを引用する)。

動画の内容としては、中国海軍駆逐艦側のレッドチーム(東側ではレッドチームが味方側)と敵側のドローンで対艦攻撃を行うブルーチームに分かれて、演習開始直後にブルーチームが電子妨害を展開しつつ、ドローン群を発射。この電子妨害により駆逐艦のレーダーが、一時的に使用不可能になった。

その後、駆逐艦側はレーダーを復旧させドローン群を探知するも見失った。その後、駆逐艦側は再びドローン群を探知して、搭載している対空砲である730型CIWSによって撃墜にが成功した。

ドローン群の迎撃の難しさ

本件は何を意味しているだろうか?それはドローン群の迎撃の難しさだろう。

ドローン群による対艦攻撃は、対艦ミサイルと比べると

  1. 一機当たりの威力がとても小さく撃沈するほどの破壊力がない
  2. 射程がとても短い
  3. 現段階でドローン群同士の高度な制御は実用化されていない

というデメリットを持つ。

しかし以下のように

  1. 艦艇のレーダーにでも命中すれば探知力を大きく落とすことが出来る
  2. 小型な目標なために探知が難しく、艦対空ミサイルを使った迎撃も難しい
  3. 小型船から発射ができ、奇襲に優れている
  4. ミサイルより費用が安い
  5. 相手の処理能力を超える多くのドローンを費用的にも発射能力的にも打ちやすい

とメリットも擁しており、決して侮ることはできない。

ドローン群にからの艦艇の防御は難しい。例えば米国は、2012年の米海軍大学院の ”UAV swarm attack protection system alternatives for Destroyers”のシミュレーションでは、恐らく世界で一番の防空性能を誇る米海軍のイージス駆逐艦でさえ、現行のCIWSとその数では、突入してくる8機のドローン全てを迎撃することができないという結果になった。しかも、この研究ではレーザーや煙幕や電子妨害を組み合わせても全機撃墜は不可能だったという。

参照元:日本企業所有タンカーにドローンが自爆攻撃 死者2名にとどまらない衝撃とは(2ページ目) | 文春オンライン (bunshun.jp)

先ほど紹介した演習の映像では、ドローン群の迎撃が成功で終わったが、人民向けの広報でもあるためネガティブな面は出せない。しかし動画から確認できる範囲でも、現行の艦艇では①ドローン群を見失う、②迎撃手段が複数の目標を対処するのに向いていないCIWSしかない、など難しいことが分かる。

※画像はイメージです(sommersby /iStock)

中国海軍が模索する新しい戦い方

この演習は、ドローン群の防御の難しさだけではなく、中国軍がドローン群と電子妨害を使った新しい戦術を模索している可能性も考えられる。なぜならドローン群の研究に積極的であり、中国海軍が脅威だと考えている攻撃方法を中国が見過ごすわけがない。

戦術的観点から考えれば、こうした攻撃方法を採用した場合、レーダーが電子妨害を受けて探知能力が大きく落ちた中、ただでさえ小さく探知しづらいドローンの発見は難しくなる。

実際に中国海軍も一度は失探している。

そうなればドローンの奇襲力はより高まる。また電子戦部隊もドローンがレーダーに突入すれば任務が完了なので、即座に退避ができる。その後は、対艦ミサイルでより効果的に艦艇を沈めるなり機能を奪うことができる。

戦略的観点から考えれば、有事で米海軍と中国軍と軍事衝突した場合、米海軍が中国軍の小型艇から発射されるドローンと、電子妨害受けながら交戦した場合、米海軍が本来の戦闘力を発揮できない“非対称戦”に追い込まれる可能性がある。

日本と自衛隊の課題

どこの国にでも当てはまるが、急速に発達しているドローンに対抗策が追いついてない。

ドローン群の迎撃策として、米海軍はレーザーを使った方法とドローン群の電波を解析するソフトを研究している。米空軍はマイクロ波とレーザーを組み合わせたシステムで数十機のドローンの迎撃に成功した他、THORと呼ばれる大出力マイクロ波妨害装置を研究している。日本もレーザーと大出力マイクロ波装置を研究し始めた。しかしアメリカと違ってデータも予算が少ないという現状がある。

電子妨害の対策として、電子防護力を高める、複数のレーダー波を使用する他にも、発信源に突入する自爆ドローンを使用する方法がある。しかし敵国の領土に弾着する可能性や、速度が遅く逃してしまうというデメリットもある。

日本はドローン群を自前で持っていないため、ノウハウも知見も浅い。その為。対策を研究するにしても時間が掛かるだろう。それと電磁妨害の同時攻撃はさらに遠い話ではないか。少なくとも公開情報で管見の限りない。

防御策の研究と、非対称戦を相手に強制する手段として、自衛隊も中国軍が研究しているドローン群と電子妨害の配備と組み合わせを考える必要がある。そうでなければ自衛隊艦隊は将来の海戦で不利になりかねない。