新車価格の値上げが相次いでいる。2022年7月1日、三菱自動車は8月1日からデリカD:5とミラージュの新車価格を値上げすると発表した。値上げ額はデリカD:5が8万8000円、ミラージュが3万3000円。
トヨタは8月1日に実施したカムリの一部改良で、価格を1万円高めた。ベーシックなXは、メーカーの発表した改良の内容に該当しないが、価格を従来の348万5000円から349万5000円に変更。ただし、トヨタは”値上げ”したというアナウンスはしていない。
マツダは8月4日、CX-30とマツダ3を6万6000円値上げすると発表。
日産は8月22日、ノートを今秋から4400~4万4000円値上げすると明らかにした。さらにリーフの値上げも発表され、現在の価格による受注を9月22日に停止するという異例の措置をとった。まだ値上げ時期や値上げの幅については決まっていないという。
スバルは8月25日、フォレスターの一部改良に併せて値上げした。従来から用意されているツーリングやXブレイクなどのグレードは、ライトのスイッチ切り替えを一部変更して価格を5万5000円高めた。改良を行ったから値上げしても不思議はないが、5万5000円となれば改良に伴う価格換算額を上まわる。
ウクライナ情勢や144円台と急速に進んだ円安などを受け、鋼材や希少金属といった原材料などが値上がりしており、こうした車両価格に反映する動きが広がっている。
そこで、今後の値上げはどうなるのか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカーweb編集部、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱
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■単純な値上げは日本の商習慣に合わない!?
各メーカーの動向を見ると、単純な値上げはほとんど実施されていない。冒頭で述べた三菱は、改良せずに値上げしたが、その理由は「デリカD:5とミラージュは、当分の間、変更する予定がないから」だという。つまり一般的な値上げは、フォレスターやカムリのように、改良の実施と併せて行う。
まだ、三菱やマツダ、スバルのように”値上げ”を発表していないトヨタの関係者からは「単純な値上げは日本の商習慣に合わないから」といった話も聞かれる。要は国内市場では価格に対する関心が高く、機能の向上を伴わない単純な値上げは、売れ行きに悪影響を与えるわけだ。
特に軽自動車/コンパクトカー/ミニバンといった売れ筋カテゴリーは、競争の激しい分野でもあるから、ユーザーは機能や装備と価格のバランスを注意深く確認して買うか否かを判断する。値上げをしたことで売れ行きが下がり、むしろ逆効果になる可能性もある。
冒頭で述べたミラージュはコンパクトカー、デリカD:5はミニバンでいずれも売れ筋カテゴリーだが、この2車種は事情が少し異なる。ミラージュの2022年上半期(1~6月)における1ヵ月平均登録台数は約280台で、ヤリス(ヤリスクロスとGRヤリスを除く)の約6500台に比べると4%程度だ。ミラージュは売れ行きが既に伸び悩み、ライバル車との競争関係も薄れている。
デリカD:5は1ヵ月平均で約1300台を登録するから、高価格車では売れ行きが堅調だ。競争関係も生じそうだが、デリカD:5は外観が野性的で、悪路走破力はミニバンのナンバーワンになる。個性が強く、販売面ではライバル競争がほとんど生じない。
発売から15年が経過したこともあり、販売店では「デリカD:5のお客様には、同じ仕様を何台も乗り継ぐファンが多い」という。デリカD:5は、値上げを行っても売れ行きに悪影響が生じにくいわけだ。
輸入車にも同様のことが当てはまる。価格よりも運転感覚やデザインなどの趣味性が強いカテゴリーで、本国のメーカーが価格を判断する事情もあり、フォルクスワーゲン、アウディ、メルセデスベンツ、BMW、プジョー、シトロエン、ジープ、ボルボなどは値上げを比較的頻繁に行う。
そもそも値上げの原因は、主に原材料費や輸送費の高騰だ。この背景には、新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻があり、直近では円安傾向が大きな影響を与えている。
■今後の値上げの見通しは? 値引きで対処する?
今後の見通しはどうなるのか。自動車メーカーの商品企画担当者に尋ねると、以下のように返答した。
「いつになれば以前の状態に戻るのか、納期の遅れも含めて、見通しが立たない。ある程度まで予想できれば、対策も講じられるが、それができない状態が続いている」。
値上げに対するユーザー側の対策は、機能や装備を入念に確認して、ムダのない買い方をするしかない。「どうせ値上げしてもその分値引きしてくれるから変わらないのでは……」という声も聞かれるが、販売店は次のように説明する。
「販売会社が受け取る1台当たりの粗利は、以前に比べると下がる傾向にある。しかも以前は、メーカーから販売会社に販売奨励金が定期的に支払われた時期もあったが、最近はこれも大幅に減った。クルマの販売に伴う儲けが限られ、車検、点検、ボディコーティング、任意保険などの取り扱いが大切になっている。この状態では、粗利をさらに削る値引きはできない」。
■価格据え置きで装備を減らす隠れ(?)値上げの実態
値上げ以上にユーザーにとって注意を要するのが、価格を変えずに実施される機能や装備の削減だ。改良とは、文字通りクルマを良くすることだから、改良によって機能や装備がカットされていることは想像しにくい。
それが実際に行われている。機能や装備をカットする目的は、コスト低減による実質的な値上げだが、半導体や各種部品の供給不足も絡む。納期遅延を解消するため、一部の機能や装備を省き、それに基づく値下げを行わないと実質的な値上げになるわけだ。要は納期遅延と値上げの2つのニーズに基づいて、価格を据え置いて装備を省く。
例えばN-ONEは、2022年8月に一部改良を実施した。特別仕様車を加えたり、上級グレードの装飾を部分的に変更して、価格は以前と同額になる。
しかし装備内容を見ると、以前は全グレードのワイパーが車速連動型だったが、改良後は一般的な間欠ワイパーに簡略化された。
シートバックポケットは、以前はプレミアム以上のグレードでは運転席と助手席の背面に装着されたが、改良後は助手席の背面のみになって運転席は廃止された。さらに以前のプレミアムとプレミアムツアラーには、抗菌タイプのアレルクリーンシートが装着されたが、これも省かれている。
以上のようにN-ONEは、改良を受けて複数の装備を廃止しており、価格に換算すると1万5000円から2万円の値上げになった。
単純な値上げなら正直だが、装備を省いたことが購入後に分かると、ユーザーは損した気分になる。特に従来型から改良後の新しいタイプに乗り替えた時、運転席シートバックポケットが省かれていると、以前とは車内の整理の仕方が変わってしまう。
このような装備のカットは実は今に始まった話ではなく、以前から6個のスピーカーを4個に減らす、メッキパーツを省くといった変更が行われてきた。
販売店では「本来付いているべき装備がなくなると、お客様はメーカーから裏切られた気分になって満足度も大きく下がる」という。
原材料費や輸送費が高騰しているのに競争が激しく値上げできないと、装備を省きたくなる気持ちも理解できるが、顧客の気分はさらに大きく害されてしまう。何事も正直に対処することが大切だ。
■値上げの方針を示していないメーカーの動向は?
さて、値上げの方針を発表していないトヨタとホンダ、ダイハツ、スズキの動向はどうなのだろうか?
9月1日、トヨタは日本製鉄の間で鋼材仕入れ価格の大幅引き上げに合意。これにより、トヨタが2022年度下半期に系列部品メーカーへ支給する鋼材の価格が今年度上半期に比べ1トンあたり約4万円上がり、3半期連続の値上げとなったという。
さすがに今回の決着で、トヨタも値上げに動く可能性がある。今秋に行われるカローラ、ハリアー、RAV4の一部改良の際に値上げされるのか注視したい。
スズキは6月29日の株主総会で「日常のアシとして使われる軽自動車を中心に販売している当社としては原材料高騰によりコストが上昇したからといって単純に値上げするということに関しては慎重であるべき」という考えを示す一方で「市場の動向を注視しながら今後の価格については検討していく」とも述べ、今後の状況によっては値上げに踏み切るという含みを残したといえる。
ホンダやダイハツ(トヨタの動向次第か?)もまだ値上げの方針を示していないが、今後の状況次第によっては値上げする可能性もある。
いずれにしても、ただでさえ納期遅延が続いているのだから、どうにかして値上げは避けてもらいたいところだ。
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投稿 怒涛の新車価格値上げ! トヨタはいつ値上げ?「値上げしても値引きするでしょ」の真相 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。