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「ビール類」には実は3種類あることをご存じだろうか。日本は法律によってビール、発泡酒、新ジャンルに分かれている。麦芽の使用量が50パーセント以上のお酒はビールに分類され、50パーセント未満だと発泡酒……といったややこしい区別があるのだが、わかりやすい違いが小売価格。現在、最も安いのが新ジャンルという商品群で、ビール類市場の中でも大きな売上比率を占めている。中でも好調な販売をキープしているのがキリンビールの「本麒麟」である。今や同社の看板商品とも言えるに至った理由や今後の展開など、キリンビールの新ジャンルのブランドマネージャー・岸川真さんに話を聞いた。

今のビール市場の状況は? 好調? 低調?

――2020年から3段階で酒税が変更になりました(※)。影響も大きいと思いますが、現在の市場はどのような状況でしょうか。

2020年に酒税改正があって以降、潮目がちょっと変わってきています。現在、ビール、発泡酒、新ジャンルという3つのカテゴリーがあり、酒税の一本化に向けて段階的に価格が近づいていくわけですが、その結果、ビールの価格は下がる一方で、新ジャンルの価格は上がります。その影響で、ビールが好調という状況になっていると考えています。

※2018年の酒税法改正により、2020年10月、2023年10月、2026年10月のタイミングで酒税額が改正される。現在ビール、発泡酒、新ジャンルに分類されるが、最終的にこの区分がなくなり「発泡性酒類」に一本化される。その結果、徐々にビールの税額は引き下げられ、新ジャンルなどは徐々に税額が上がり、その結果、ビールの小売価格は下がり、発泡酒、新ジャンルは上がることになる。

――新ジャンルの魅力の一つが価格帯だと思いますが、やはりその点で影響はあると。

そうですね。ただ、酒税改正よりも、コロナの影響が大きかったと見ています。ライフスタイルの変化が、支出のバランスを変化させたのです。お出かけをしたり、外食でお金を使ったりすることが少なくなった結果、おうち時間を充実させたいというニーズが高まった。その影響で、少し高いビールに消費が移行していると思っています。

――価格帯というわかりやすい違いがなくなっていく中で、「本麒麟」はどういうかじ取りをしていくのでしょうか。

酒税改正で3つのカテゴリーの価格は近づいていくわけですが、価格格差は残ることが予想されるため、日々の中で、我慢せずにビール類を楽しみたいと考えているお客様にとって「新ジャンル」は気兼ねなく飲める存在として求められていくと思っています。

その中で、「本麒麟」はそのブランド力を生かすことができると思っています。というのも、このブランドは「心置きなくビールを楽しみたい」と考えているビール好きのお客様のために、「新ジャンル」の中でおいしい商品ではなく、ジャンルを超えて一番おいしいと感じていただけるものを目指して生まれたからです。

ですから、我々は素材や製法など一切妥協しません。お客様にとって「うまい!」と思っていただくために製法は長期低温熟成という手間暇をかけていまして、通常の新ジャンルの1.5倍ぐらいしっかり熟成させて作ることで、大麦のコクと甘みを感じる飲みごたえもありながら、また次の一口が飲みたくなる飽きなさがある、そんなビールに負けないようなうまさを実現しました。

その結果、2021年の販売数量は発売年度の2018年と比較して約9割増と大きく伸長しています。2022年上半期においても、「本麒麟」は新ジャンル市場全体の伸びを上回る販売状況となっています。ですから酒税改正に関係なく、お客様が一番うまいと感じていただける理想のうまさを引続き追求し、期待に応えていく。それを貫いていきたいと思っています。

岸川真(きしかわ・まこと)さん/キリンビール マーケティング本部 ブランドマネージャー。2010年入社。近畿圏、中四国で量販店向け営業を経験後、2019年よりマーケティング部に異動。2020年から「一番搾り」「本麒麟」のブランドマネジメントを担当し、2022年4月より現職。

「本麒麟」が大事にしたこと

――キリンの新ジャンルといえば、大ヒット商品の「キリン のどごし〈生〉」がありますよね。それぞれどんな違いがあるんでしょうか。

これは明確で、「キリン のどごし〈生〉」はスッキリ・爽快が特徴で、「本麒麟」はコクと飲みごたえを重視しているのが特徴です。もともと新ジャンルでは、「キリン のどごし〈生〉」をはじめ、爽快・キレ系の商品が多かった中で、うまさに向き合って、コクと飲みごたえという新しいアプローチを打ち出したのが「本麒麟」です。

ビールに匹敵する満足感を得られるというのが、このブランドのストロングポイントです。実際に飲んでいただくとはっきりとした違いを感じていただけると思います。ただ、コクと飲みごたえといっても、重たいのではなく、飲みやすく、飲み飽きないという特性を持っています。もう一口飲みたくなる、そんな味わいです。

キリンではじめて製造された新ジャンルが「キリン のどごし〈生〉」

――「キリン のどごし〈生〉」はパッケージも含めて爽快・キレ感がすごいですけど、一方の「本麒麟」はコク感がありますね。社名も入っていて、パッケージデザインも重厚で。

そうです。新ジャンルのブランドで社名を入れるのは実は初めてです。本気、本物といった想いも込めたブランドとして、当初からうまさに向き合って商品をつくりました。

――差別化というと、「プリン体ゼロ」とかわかりやすい付加価値ではなく、味の違いで差別化がしっかりできているのはすごいですね。

ビール市場では「プリン体ゼロ」や「糖質ゼロ」といった機能性に対するニーズはもちろん高いのですが、一方で機能性を持たないビールのニーズもあります。市場規模が大きいので、そこで二分して戦えているのはいいことだと捉えています。当社では「淡麗グリーンラベル」や「のどごしゼロ」という商品もありますので、そういうところもしっかり補いつつです。

キリンの発泡酒といえば「淡麗」

――「本麒麟」は2018年に登場しましたが、最初から「コクと飲みごたえ」にフォーカスされていたんですか?

はい。お客様の嗜好が多様化していく中で、変わらず「本当は我慢せずおいしいビールが飲みたい」というニーズがありました。

――試行錯誤の結果、ついに「本麒麟」がヒットしたわけですね。ヒットしても毎年リニューアルされているそうですが、その意図はなんでしょうか。

「本麒麟」が目指すのは、日常使いしていただけるような、飲み飽きないバランスの良いうまさです。クラフトビールの拡大などによりビールも多様化しており、お客様の嗜好も少しずつ変化しているので、その変化を捉えながら、より日常に寄り添えるような味覚を追求しています。

「本麒麟」

――やはり「おいしい」がわかりやすい?

そうですね。私自身もそうですが、おいしいものを食べたり飲んだりしていると、うまいなぁってちょっと幸せで、心がほぐれる感じがしますよね。仕事終わりの1杯、夕飯と一緒に楽しむ1杯、仲間と交わす1杯、週末にゆったりと飲む1杯……ビールはいろいろな場面で飲まれていますが、やはり根幹には「うまいなぁ」と感じることから来る幸福感があると思うので、お客様にとって重要なのはおいしいかどうか、と考えています。

――キリンといえば「一番搾り」が超・定番商品として存在しますが、定番商品になるために必要な要素を挙げるとすればなんでしょうか。

やはりお客様が求めることに常に向き合い、それを追求しつづけることだと思います。市場の動きの変化や、一時的な変化に惑わされずに、お客様が求めていることに対してグッと腰を据えてやり続けることです。

「一番搾り」

キリンのプロモーション戦略

――新商品を発売したり、リニューアルした際、どういうプロモーションをされていますか?

質の高い広告づくりと、店頭でパッケージなどでのブランディングです。広告でお客様に知っていただき、店頭でお客様が「これ見たことある」商品として買っていただく。この線をつなぐことが重要です。ですから広告だけでなく、スーパーマーケットをはじめとした店頭でどれだけお客様にアピールできるかを重視しています。この方針はずっと続けていることです。

また、お客様からは「本麒麟」に対するさまざまな感想もいただいており「ジャンルを越えてうまかった」「様々な料理に合う」など、まだ飲まれたことのない方にも「本麒麟」のうまさを体験していただけるような施策を実施していきます。

――最後に、今年に入ってwithコロナの意識が高まったこともあって、おうち需要にも変化があったのかなと思いますが、方針を変えていくことは考えていますか?

お客様の声を聞いていると、この2年ほどのコロナ禍でのおうち時間の過ごし方を工夫していく中で、その気楽さのある心地よさを感じている方が多くいらっしゃる印象を受けています。引き続きおうち時間を充実させたいと考える人は多い一方で、これから生活に関わるさまざまなものの値上げが起こり、節約もしなければならない。

そんな中でも、うまいビールを心置きなく飲むことができる、そんな日常の楽しみがお客様の毎日にあり続けるように、今のご支持をより拡大していきたいと思っています。「本麒麟」はお客様の1日を満足させられる商品だと信じていますので、そういうお客様を一人でも増やしていき、お客様の幸せな時間を創出していこうと思います。


「本麒麟」

https://www.kirin.co.jp/alcohol/beer/honkirin/