ひと口にトラックといっても、いすゞや三菱ふそう、UDトラックス、そしていま何かと話題の日野自動車といった、業界でいうところのシャシーメーカーもあるが、そのシャシーの上に載せるボディをつくる架装メーカーもとても大切な存在だ。
架装メーカーは、バンやウイングボディなどをつくるカーゴ系のメーカーとダンプやゴミ収集車などをつくる特装系のメーカーに大別されるが、今回はカーゴ系メーカーの中からパブコの新たな取り組みにスポットを当ててみたい。
文/フルロード編集部 写真/フルロード編集部・パブコ
*2020年6月発行トラックマガジン「フルロード」第36号より
四社横並びのメーカー完成車シフト
神奈川県海老名市に本社工場を構えるパブコは、1901年に設立された日本で最も歴史のある架装メーカーの一つである。ちょっと変わった社名のパブコ(PABCO)は、Pearl-Line All Brothers Corporation、「真珠は1つでも美しいが、それが輪になるとさらに美しさが増す」を由来としている。
また、日本フルハーフ、トランテックス、日本トレクスと並ぶカーゴ系四大架装メーカーのうちの1社で、従業員数は約600名を数える。
ダイムラートラックグループに属する三菱ふそうトラック・バスの100%子会社だが、架装メーカーというのは基本的に「全方位外交」なので、トラックシャシーはどこのメーカーでも「ウェルカム」だ。
ところで、架装メーカーが手がけるトラックボディには、メーカー完成車と「民需」と呼ばれる一般的な注文生産車がある。
四大架装メーカーはそのどちらも手がけているが、近年は、トラックメーカーや販売会社はもとより、ユーザーにもメリットのあることが再認識され需要が急速に伸びていることから、カーゴ系の大手架装メーカーは各社ともメーカー完成車に軸足を置いたシフトを組んでいるのが現状だ。
バンやウイングボディを主体とするメーカー完成車の中でも、特に大型のウイングは完成車のすう勢を占めるに至っており、その勢いが止まらない。
しかしながら、トラックの架装の成熟期の象徴であるメーカー完成車は、技術的にそれほど突出したものはなく、製品特徴の差異がほとんどない、いわば四社横並びの製品という側面がある。
ということは、サッカーなどでいうところの「数的優位」が物を言い、下手をすれば「価格の叩き合い」を誘発する懸念がある商品ということになる。
計画生産ができるメーカー完成車は、架装メーカーにも多大なメリットをもたらすものだが、四社横並び体制がもたらす自縄自縛的なジレンマが垣間見えるのもメーカー完成車の世界なのである。
「独自性」を打ち出したパブコの新展開
こうした中でパブコは、メーカー完成車に関しては、先行する3社にやや水をあけられているが、それだけにメーカー完成車に縛られず、思い切って新たな事業展開に踏み出すことができる立ち位置にいた。
そして、その動きは早くも加速していた。パブコは今年から主軸となる新商品を投入。新たな事業展開は、ちょっと予想外の奈良という地で、すでに始まっていたのだ。
奈良県大和郡山市にあるパブコ近畿工場は、それまで別会社だった(株)パブコ近畿を2014年に統合したもので、本社工場である相模工場につぐパブコの第2工場である。従業員数は約120名。年間売上は約20億円で、基本的に100%自主生産だ。
パブコがここ近畿工場で開始した新たな事業展開が平ボディに特化した生産で、これまで並行して生産していたウイングやバンボディを段階的に減らし、今年からはすべて平ボディのみに切り替えるという。年産720台を目標としており、この規模の平ボディ専用の生産工場は日本でも唯一無二の存在となる。
そのパブコ近畿工場を訪ね、その狙いと進捗状況を聞いた。お話は、パブコ本社から営業・商品戦略本部本部長の西山友貴取締役、営業・商品戦略本部特販部の齊藤直樹エキスパート、近畿工場からアフマドヴ・ケナン工場長、近畿製造部近畿生産管理課の刑部(おさかべ)昭彦課長、生産本部近畿製造部近畿技術課の薮内貴之課長である。(編集部注:役職等は取材時。現在の役職は、アフマドヴ・ケナン氏はパブコ代表取締役社長、西山友貴氏は取締役生産本部長、刑部昭彦氏は近畿工場長)。
平ボディに特化したパブコ近畿工場
「ここ数年間、近畿工場ではウイングやバンの生産を相模工場に移管しつつ、平ボディに特化した生産工場にすべく、工場のレイアウトを改善し、建屋や施設の強化など積極的に設備投資をしてきました。それと同時に品質保証体制の拡充ということを進めました。
新車の状態で不具合を最小にすることが一番大切ですが、平ボディは鉄を使うクルマが多いので、いかに錆びないボディをつくるかということから、サプライヤーさんと組んで事前に材料に電着塗装を施したりしています。
また、修理に際してもいかに迅速に対応するかが肝心ですので、今年中にサービス専用工場を設立する予定です。
では、なぜ近畿工場を平ボディに特化した専用工場にしようとしたかですが、2017年以降に立てたビジョンとして、まずパブコ全体としてウイングやバンのみならず、もっと競争力のある分野で強みを発揮しようという方針がありました。
ちなみに現在のパブコの生産ボリュームは、ウイングやバンが約9割、平ボディが約1割になります。幸いにして近畿工場は、パブコ近畿の時代から平ボディの製造に関して50年におよぶノウハウがありますから、これが大きな強みになります。
また、市場背景を考えると、物流事業者さんの経営スタイルが大きく変化している、そのいっぽうで平ボディを手がけている地方の架装メーカーが1社、2社とだんだん減ってきています。
そうした中で、旧来のままでは平ボディの今日的ニーズに応えられないのではないかと考えました。では、いま平ボディに求められているニーズとは何か。
それは高品質・短納期・即戦力といった要素ではないかと考え、近畿工場をそういったニーズに即した平ボディ専用工場にしようと考えたわけです」。
平ボディ復権の目玉となる「ザ・ブロック」
パブコでは、民需の平ボディを特殊平ボディと呼んでいるが、近畿工場ではこの特殊平ボディとともに、もう1つのエポックメークな平ボディの生産が準備されていた。それが大型平ボディ「ザ・ブロック」だ。
ザ・ブロックは、いわば大型平ボディのメーカー完成車というべき存在で、パブコが有する実績と先端技術を融合し、堅牢で安全性に優れた高品質ボディを実現したもの。
さらに必要充分な装備を標準で採用し、充実した仕様とすることでユーザーニーズに応える短納期を実現。加えて積み荷・条件・用途に合わせて最適な仕様になるよう豊富なオプションも用意し、即戦力となる大型平ボディを目指しているという。
「ザ・ブロックの開発の経緯ですが、民需の大型平ボディの納期が非常に長くかかっている、少しでも早くユーザーさんにクルマをお届けするにはどうしたらいいかという話がそもそもの始まりでした。
そこで、1つ1つ問題と課題を洗い出し、短納期につなげるには、どういった生産体制を組めばいいかを考えました。
一般的な民需の平ボディのスケジュールの場合、営業担当から仕様書を発行してもらって、部品の手配、内容の確認をして、必要な図面を作成し、そこでさらに部品を手配し、部品製作、組み立て~完成までの生産、納車という流れになりますが、パブコでは従来からこの工程にかかる日数をできるだけ短縮してきました。
業界の中でもかなり競争力のあるリードタイムだと思いますが、ザ・ブロックの場合、仕様があらかじめ決まっているので、部品の手配や図面の作成などが大幅に短縮できますから、この製造にかかる日数を従来比で3分の2程度に縮め、短納期を実現しようと考えています」。
ライン生産が可能なウイングやバンと異なり、平ボディの製作はかなり複雑で、手のかかる工程が多い。一般的な平ボディメーカーでは工程数は7つくらいだというが、パブコ近畿工場の場合、これを19工程まで細かく分割しているという。
すなわちシャシー改造、シャシー配線、前処理、搭載、鳥居部品製作、アオリ製作、横根太加工、土台製作、根太組、艤装1、特装、木工、艤装2、ボディ塗装、キャブ塗装、キャブ配線、仕上げ、補修塗装、検査などで、細かく工程を分けることで、短納期化を実現。さらに工程の自動化なども取り入れながら今後とも各工程の強化を図っていく考えだ。
「ただ、自動化といっても、平ボディにはどうしても手づくりの部分が多く、従業員のスキルを必要とします。たとえば溶接などは技量を要しますし、その育成には時間がかかります。この部分をどう改善できるかが今後の課題になっています」。
(後編に続く)
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