もっと詳しく

 オートポリスで行われた2022スーパーGT第7戦決勝。GT500クラスでは、各所で抜きつ抜かれつのバトルが展開されたが、なかでも、100号車STANLEY NSX-GTの山本尚貴と24号車リアライズコーポレーション ADVAN Zの平手晃平が繰り広げた2位は、お互いの経験と意地がぶつかり合ったバトルとなった。

■冷静に相手を観察しチャンス伺うも、決定打に欠いた平手晃平

 ポールポジションからスタートした24号車は、前半担当の佐々木大樹が序盤から後続との差を広げていく走りを披露。一時は2番手の100号車(牧野任祐)に対し、7秒近い差をつけた。

 ピットウインドウが開いた22周目を皮切りに後続が続々とドライバー交代を済ませるなか、24号車は安定したペースで周回を重ね、27周目にピットイン。平手がマシンに乗り込みコースに復帰するが、ここで先にピットストップを終えていた17号車Astemo NSX-GT(塚越広大/松下信治)と、100号車の先行を許した。

「ちょうどピットアウトしたときに、100号車に(前に)行かれてしまいましたが、そこからペースが上がり追いついてからは、ずっと山本選手の後ろにくっついていました」と平手。GT300との混走で一瞬引き離される場面もあったというが、ペース的には24号車が優っていた。

「途中、トラフィックで少し離れたりすることはあったのですけど、山本選手のクルマはタイヤがけっこう厳しかったみたいで、(トラフィックが)クリアになると、僕が追い詰めていくという展開でした」

「昨年も違うチームでしたけど、かなりオーバーテイクできていましたし、僕もこのコースは好きなので、最後の何周かで攻略できればなと思っていたのですが……彼(山本)も良いところを抑えるので、なかなか抜くに抜けなかったです」

 特に2回目のフルコースイエロー(FCY)が解除された54周目以降は、1秒を切る接近戦となり、平手も何度もインを伺おうという素振りをみせチャンスを伺っていたが、残り4周で最大のチャンスが訪れる。

 最終コーナーを立ち上がって100号車のスリップストリームに入った平手は、アウト側から並びかけにいくが、山本もしっかりとイン側のラインを塞ぎ、ポジションの入れ替わりはなかったが、平手の経験と冷静な観察力が光ったシーンだった。

「彼のクルマ(100号車)は曲がっていなかったので、イン側に飛び込みさえすれば、抜けると思ったんですけど、彼もイン側を開けないように、ギリギリまでインを抑えて、僕が外に行ったのを見て、ちょっと寄せてきて……うまい曲がり方をしていましたね」と平手。

「あれで、僕が無理に外から回り込んで抜きにいったら、彼は曲がりきれなくて(僕のクルマに)当たったり、押し出されるのではないかなと思いました。外からかぶせていく抜き方はやらない方がいいなと思ったので、どうしてもイン側に飛び込みたかったんですが……なかなか、そこは開けてくれなかったです」

 その後も、100号車の背後について隙を狙ったが、コースの特性もあり、なかなかスリップストリームに入ることができなかったという。

「メイスストレートにつながる最後の右コーナーや、100Rはエアロ(ダウンフォース)が必要なので、前にくっついて立ち上がることができないんですよ。真後ろにくっついて立ち上がれれば、もっと早めに抜くことができたかもしれません」

「確かに僕たちの方がブレーキは(奥まで)いけていたし、曲がっていたので、スリップが効いている状態でストレートに入っていければ、もっと余裕でいけたんですけど、どうしても回り込むコーナーで前のクルマにつかなければいけなかったので、そこは難しいところがありました」

「よほどGT300に引っかかったりなどがあれば、一気に攻めていけるんですけど、今回はそういった巡り合わせもなくて、チャンスを見出せなかったです」

 第4戦富士に続いて“悔しい3位”となった24号車だが、「でも、良いバトルができて良かったです」と平手。「オートポリスでここまで戦闘力があるタイヤをみつけることができたので、これは来年に向けて活かせていける部分かなと思います」と、かなり手応えをつかんでいた様子だった。

2022スーパーGT第7戦オートポリス GT500クラス3位表彰台を獲得した佐々木大樹/平手晃平(リアライズコーポレーション ADVAN Z)
2022スーパーGT第7戦オートポリス GT500クラス3位表彰台を獲得した佐々木大樹/平手晃平(リアライズコーポレーション ADVAN Z)

■今季の課題が格闘しながら24号車を抑えきった山本尚貴

 一方、終始24号車を抑え込む走りを徹していた100号車の山本。「向こう(24号車)の方が圧倒的にペースが良かったんですけど、要所要所で抑えながらも、相手が平手選手だからこそ、無茶はしないだろうけど、チャンスがあれば飛び込んでくる選手だから、お互いに自分たちの経験を思い切りぶつけ合いながらレースはできたんじゃないかなと思います。でも……キツかったです」と、レース後はすべてを出し切ったという表情をしていた。

 100号車は前半スティントで2番手を死守した牧野が22周目にピットイン。ここ最近では定番となっているミニマム周回でドライバー交代をする作戦をとったが、昨年との違いは“良いペースを維持できない”ところにあると、山本は説明する。

「昨年の調子が良かったときは、(スティントの)最初から最後までコンスタントに高いペースを維持できていました。今年うまくいっていないのが、(スティント内の)どこかにピンポイントに合ってしまっていて、平均値が上げられないのです。今回のレースで言うと、前半に合っていて中盤から後半にかけて落ち込んでしまいました。それがSUGOのときは前半はダメだったのですけど、後半で巻き返した感じでした。昨年みたいに最初から最後まで常に良い状態で走りたいし、それを目指しているんですけど、そこが今年はなかなかできていないです」

 今大会では、各チームともピックアップに悩まされる部分があったが、それ以上にタイヤのグリップダウンが100号車にとっては大きな課題となっているようだ。

「ピックアップよりも、単純にタイヤ(のグリップ)がなくなってしまうという問題をずっと今年抱えています。それが分かっていたから、タイヤのセーブをしながら17号車を追いかけていたのですけど、一気に途中でタレた感じでした。これが予選だとセクター1と2は良いけど、セクター3で落ちてしまいました」

「“予選に関しては1周”、“決勝に関しては1スティント”それを常に速く走れないのです。その課題は分かっているのですけど、それをクリアしきれていないです」

 それが今回も顕著に現れた。山本が担当した後半スティントの最初は17号車に迫る勢いを見せていたが、40周目を過ぎたあたりから形成が変わり、24号車の平手に追われ続ける展開となった。

 ここで3番手に後退してしまうと、100号車のふたりはチャンピオン獲得の可能性が潰えてしまう状況だったが、レース中はそのことを把握していなかったという山本。とにかくポジションを守ることに必死になっていたという。

「優勝はかなりかけ離れたところにいってしまったので、現実的に2位を守るというのが最良の結果という状況でした。幸い4番手との差はありましたけど『3番手になって表彰台に乗って帰れればいい』とは微塵も思っていなかったです。今できるベストを尽くすのが自分の仕事なので、そういった意味では『2番手をなんとか守って帰らないといけない』という思いで走った結果が、ああいった走りになったと思います」

「僕も平手選手もお互いの手の内を分かっているとはいえ、それぞれのタイヤやクルマの状態が刻々と変わっていく状況でした。そのなかで相手が終盤に少しペースが落ちた感じがあったので、それはラッキーでしたが、逆に自分の方がもっとペースが落ちるかもしれなかったので、経験だけではどうにもならない部分もありました。あとはGT300との巡り合わせなど、できる限りのことをやりました。最後はかなりキツかったですけど、なんとか2位を死守できたと思います」

 これで、今季2度目の2位表彰台を手にし、ランキング首位とは17ポイント差ではあるが、逆転チャンピオンの可能性を残した山本。しかし、その表情に笑顔はなく「純粋に速さで勝てたわけではないので、あまり嬉しくはないですけど、最低限のことはできたのかなと思います」と締めくくった。

2022スーパーGT第7戦オートポリス 優勝を飾った松下信治を祝福する山本尚貴
2022スーパーGT第7戦オートポリス 優勝を飾った松下信治を祝福する山本尚貴