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クルマという商品が(何も仕様を変えずに)為替や供給部品の都合で値上げすることになる功と罪は?

 今、ありとあらゆるモノが値上げされている。2022年10月から食品だけでも6500品目以上が値上げを予定しており、都市ガスや火災保険といったライフラインや生活に直結する料金についても値上げが予定されている。

 実は2022年夏から国産車も値上げされているのだが、クルマという商品が為替の変動や半導体など供給部品の都合で値上げされてしまうのはどうなのか? ユーザーとしての目線だけでなく、メーカー、販売店の視座からも渡辺陽一郎氏に細かく分析してもらった。

文/渡辺陽一郎、写真/MITSUBISHI、NISSAN、AdobeStock(トップ画像=tamayura39@AdobeStock)

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■クルマが値上げする功罪とは?

値上げの背景には、原油価格の高騰やコロナ禍、そしてロシアのウクライナ侵攻などさまざまな要素が複雑に絡み合っている(pla2na@AdobeStock)

 2022年7月1日に、三菱のデリカD:5とミラージュが値上げに踏み切った。車両自体に変更はないが、デリカD:5は8万8000円、ミラージュは3万3000円値上げされた。

 値上げの背景には、原材料費や原油価格の高騰がある。新型コロナウイルス禍にロシアのウクライナ侵攻も加わり、最近では円安傾向も生じている。これらが製造コストや輸送費用を高め、さまざまな商品が値上げされた。クルマも例外ではない。

 クルマの値上げには、いろいろなパターンがある。最も多いのはフルモデルチェンジやマイナーチェンジの時に価格を高める方法だ。

 モデルチェンジを実施すると、今なら大半の車種が安全装備や運転支援機能を向上させる。そうなれば値上げもしやすい。実際に高まったコストより、価格上昇を少し増やせば、目立たずに実質的な値上げを行える。

 例えば、車間距離を自動制御できるクルーズコントロール、車線の中央を走行できるようにパワーステアリングを制御する運転支援機能は高い人気を得ているが、製造コストの上乗せは意外に小さい。

 衝突被害軽減ブレーキが装着された車両なら、そのセンサーや制御メカニズムを応用して、運転支援機能を追加できるからだ。

 仮に従来は衝突被害軽減ブレーキだけを装着していた車種に運転支援機能を加えた場合、利便性や快適性の向上を考えると、価格が5万円程度高まっても不思議はない。マイナーチェンジやフルモデルチェンジの時なら、このような値上げを実施できる。

■改良を伴わない値上げが少ない理由

三菱 デリカD:5。三菱によるとデリカD:5とミラージュは「しばらくは改良や変更を実施する予定がないため」値上げに踏み切ったという

 それなのにデリカD:5とミラージュが単純な値上げを実施した理由は何か。三菱では「この2車種については今後、しばらくは改良や変更を実施する予定がないから」と説明した。

 見方を変えると、これからマイナーチェンジや改良を予定している車種には値上げのチャンスも訪れる。敢えて価格だけを高める必要はない。

 単純な値上げが珍しい背景には、ライバル同士の競争もある。特に今の国内市場では、軽自動車が新車販売されるクルマの40%近くを占める。次にコンパクトカーが多く、ミニバンとSUVが同程度で続く。

 これらのうち、軽自動車とコンパクトカーは経済性が重視されるから、価格と燃費が売れゆきを大きく左右する。

 販売店からは「軽自動車の場合、ライバル車の同程度のグレードと比べて価格が1万円高かったり、燃費数値が1.0km/L悪かったりすると、売れゆきに悪影響を与える」という話が聞かれる。コンパクトカーも同様だ。

 ミニバンは、軽自動車やコンパクトカーに比べて価格が高いが、主なユーザーは就学年齢に達した子供を持つ世帯だ。出費にシビアだから、値上げも難しい。

 SUVも売れゆきの多い車種は、コンパクトなヤリスクロスやカローラクロスだ。価格の安さも大切な特徴になる。以上のように売れ筋のカテゴリーは、すべて値上げが難しい。

■値上げがしやすいカテゴリーもある?

先代と比較して100万円以上の価格アップとなった新型日産 フェアレディZ

 逆に競争の緩やかな販売規模の小さなカテゴリーは、値上げもしやすい。例えばスポーツカーの新型フェアレディZは値上げを実施した。先代型のバージョンSは484万8800円だったが、新型の同グレードは606万3200円だ。ターボを装着して安全装備を充実させたが、その変更で価格が122万円高くなった。

 GT-Rも発売された時の2007年は777万円だったが、今は最も安価なピュアエディションが1082万8400円だ。発売時点に比べて300万円以上も値上げされ、比率に換算すると今の価格は1.4倍に達する。

 ミニバンのような価格競争を伴う売れ筋カテゴリーでは、GT-Rのようにマイナーチェンジを繰り返して価格を1.4倍まで高めることは許されない。

 輸入車も価格にこだわるユーザーが少ないと判断され、VW、メルセデスベンツ、プジョーやシトロエンなどは、値上げを頻繁に実施する。テスラも今年に入って3回値上げした。輸入車は、価格設定の方針が日本車とは大きく異なる。

 それでもこれからは、日本車でも値上げされる車種が増え始める。前述の通り原材料費や原油価格の高騰に円安傾向まで加わり、今の価格では、いよいよ収支が成立しなくなるからだ。

■価格変更と納期のビミョーな関係

昨今の納期の遅延も価格変更を難しくしている要因のひとつとなっている(Ivan Traimak@AdobeStock)

 そこで問題になるのが納期の遅延だ。従来の納期は特殊な車種を除くと1カ月から2カ月に収まったが、今は6カ月から1年を要することも多い。そうなると値上げの発表も6カ月から1年前に実施せねばならない。契約した時の価格が200万円で、納車時に支払う金額が210万円というワケにはいかないからだ。

 そこで210万円に値上げして販売したところ、納車される6カ月から1年後には経済状態が変わって値上げする必要がなかったことも考えられる。そうなると価格競争で不利になってしまう。

 仮に値上げして、価格競争力で不利になり、短期間で再び値下げしたのでは値上げされた時に購入したユーザーから叱られる。

 このように値上げをしなければ、メーカーや販売会社の得られる利益が減り、一度値上げをすると、価格を簡単に元には戻せずライバル車との競争力も弱まってしまう。どちらを選んでも、メーカーや販売会社の損失に繋がる可能性が高い。

■メーカーもユーザーも暗中模索

 特に困るのは、先の状況を見通せないことだ。新型コロナウイルスやウクライナ侵攻を含めて、今後の見通しが立てば、メーカーも値上げするか現在の価格で耐えるかの計画を立てられる。しかし、今はそれもできない。暗中模索の状態だ。

 ユーザーとしては新車を買うか、それとも今使っている愛車の車検を取って乗り続けるか、その選択を早めに行いたい。時間が経過すると、納期の遅延に値上げまで加わる可能性があるからだ。

 今の値上げを迫られる状況はユーザーだけでなく、販売会社、メーカーのすべてを不幸にしている。1日も早く平穏な毎日が戻ることを祈りたい。読者の皆様もご自愛ください。

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