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 警視庁の旧第三交通機動隊、第七方面交通機動隊などに所属し、22年間、白バイに乗ってきた元隊員の洋 吾(ようご)氏は、警視庁伝説の白バイ隊員だ。月に80件、年間1000件もの違反切符を切ってきた。3年連続で取り締まり件数の警視庁トップに輝き、警視総監じきじきによる表彰も受けた。そんな洋 吾氏は著書『白バイ隊員 交通取り締まり とほほ日記』で、白バイ隊員という「生き物」の生態を明かし話題だが、本記事では「交通取り締まり」という仕事の真実に迫っていただいた。1回目は、白バイ隊員に求められる最優先事項のこと。それは「違反切符」の「売上げ」。目標ノルマの達成だった。


白バイ隊員 交通取り締まり とほほ日記
白バイ隊員 交通取り締まり とほほ日記

文/洋 吾


■白バイの白は「平和と清潔」を表したものだが……

 敬礼! 背筋がすっと伸び、右手が自然に上がる。警察官としてずっと身体に染み付いている動作だ。私は退職までの33年間、警視庁の警察官として勤めてきた。しかもそのうちの大半、約22年間は白バイ乗りだった。

 あなたは白バイのことをどう思っているだろうか。大嫌い? それともカッコいい? 白バイに対する印象は、その人の運転習慣に直結しているかもしれない。仕事でクルマに乗る機会が多い人ほど、白バイのことが苦手、もしくは嫌いなのではないだろうか。なんたって、すきあらば交通違反で取り締まられてしまうからだ。

 できればあまり会いたくない存在かもしれない。白バイの「白」は、「平和と清潔」を表すと言われている。だから、白バイ隊員には、交通の治安を守る「平和の戦士」としての期待がこめられている。青い制服と白い大型バイクは子どもたちの憧れでもある。

 ただし、実際の白バイ乗りの勤務は、「平和と清潔」や「平和の戦士」とはほど遠い。警らに出れば、顔や白いマフラーは排気ガスで真っ黒になる。おまけに夏場は汗ダラダラ、冬場は鼻水タラタラ……。近くで見るととても汚いのだ。その上業務で求められるのは交通の「平和」というよりも、違反切符という売上げなのだから。

■白バイ隊員の評価は取り締まり件数がすべて

 実際、白バイ乗りの成績や評価は、取り締まり件数がすべてである。そういう厳しい世界にあって、私は3年連続で警視庁トップを経験したこともある。警視庁のトップクラスの取り締まり切符件数は、個人で年間1000件ほどだ。月間換算なら80件以上となる。トップになると警視庁本部の警視総監室内で総監自らが表彰してくれる。現役時代、私は3年連続で総監室入りをした。実績競争が厳しい白バイ乗りの世界にあって、トップを経験した私だからこそ、白バイ界の現実を語れると自負している。

交通取り締まりを専門とする交通機動隊の白バイ乗りたち

■詰め所のホワイトボードには月間ノルマ数

 警視庁が、どれほど違反切符の売上げを重要視してきたかは、白バイ隊員たちが属する交通機動隊の詰め所の様子からも伝わってくる。2000年ごろの実話である。

 小隊部屋である事務室のホワイトボードには、月間ノルマ件数が露骨に記載されていた。飲酒運転と二輪車取り締まりは基本中の基本。その上、重量制限違反、シートベルト、駐車禁止……の新交通三悪、さらには移動オービスなど、目新しいノルマもあった。まさに種目別ノルマ、目がまわりそうだった。

 2001年からは、種目別ノルマに交差点違反が仲間入り、警視庁は交機隊同士の売上げを競い合わせることになる。同じ中隊内にあっても、小隊同士がライバルとなった。本格的なノルマ地獄の幕開けだった。

 上からの試練はいつものこと。そんな上からの命令に絶対服従なのが警察官という生き物なのだ。文句を言いながらも、若い隊員たちは与えられたノルマ達成のため、黙々と切符切りに専念していった。

■恐怖! 実績低調者部隊の公開処刑

 種目別ノルマが強化され、黙々と仕事をこなす若い隊員たちがいるいっぽうで、まったくそうではない残念な隊員もいた。取り締まりの技術に関しては個人差があるのは仕方のないことなのだが、まったく結果を出せない隊員がいたのである。こういった隊員は、小隊ノルマの足を引っ張る原因となったし、実際ノルマがクリアできなければ、「戦犯者」として陰口を叩かれた。

 「戦犯者」の多くは、親方日の丸の公務員世界ならではの生き方を貫いている人だった。仕事をしない……、そしてできないからといってクビにはならない。また減給もないのを知り尽くしているのだ。世間では信じられないことだと思うが、実際、白バイの世界に限らず警察官の世界にはこうした人物が何割かは実在したのだ。

 そうした状況を見かねてか、当時の副隊長があるプロジェクトチームを立ち上げた。その名も「実績低調者部隊」だ。読んで字の如く、各小隊から仕事のできない、売上げが極端に少ない実績低調者ばかりを集めた部隊である。集められたのは10名ほどの残念な隊員で、毎日勤による警ら専従チームだ。1カ月の期間限定、切符一人100件という絶対必達のノルマが課せられた。

■月間ノルマの達成後には、翌月のノルマが示される

 そんなタスクフォースの肝心な成果だが、無事、全員ノルマ達成であった。結局、やればできるのであった。徹底的にケツを叩けば、できるのが警察官であり、白バイ乗りだった。

 さて、毎月毎月の月間ノルマ、苦しい時は月末最終日の夜間でようやく達成という時も幾度かあった。ホワイトボードの種目別違反の数字がそれぞれゼロになった時がその月のノルマ達成の瞬間であり、小隊全員が笑顔で安堵するのだった。だが、それから数時間後……、ホワイトボードには小隊長によって新たなる翌月のノルマ数字が示される。あっという間のリセットで、小隊全員がガックリするのだった。


白バイ乗りのことがもっと知りたい方は洋 吾氏の著書『白バイ隊員 交通取り締まり とほほ日記』をお読みください。


白バイ隊員 交通取り締まり とほほ日記
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