
文・写真/服部朗宏
【画像ギャラリー】連続する急カーブ、急こう配を体験! 都心からのアクセスもいい箱根観光は登山電車でいかが?(12枚)画像ギャラリー首都圏から気軽に足を運べる観光地として古くから愛されてきた箱根。コロナ禍の影響が薄らいできた最近では、気分転換に日帰りで行けるスポットとして再注目されている。箱根への足と言えば「天下の嶮」をくねくねと登っていく箱根登山鉄道。1919年開業の登山電車のこう配は、歯車やケーブルを使わず、車輪とレールとの摩擦だけで走る一般の鉄道としては日本一で、1000mにつき80m上る(1000分の80=『80パーミル』)ほどの急な坂。ちなみに、JRなどの幹線区間では25パーミルでも「急こう配」と言われるほど。急な坂道をぐいぐいと登っていくため、ほかの鉄道にはない独特で特殊な装備や施設も多い。加えて初夏はアジサイ、夏は深い緑、そして秋は紅葉に彩られ、見ても乗っても楽しい路線だ。これから始まる紅葉シーズン、久しぶりの方も初めての方も、いつもはクルマで行くって方も、この秋は登山電車で箱根を目指してみよう。
新宿からロマンスカーにのれば1時間で箱根の入口小田原に到着
箱根登山鉄道の起点は小田原駅だ。ここでJR東海道線と小田急電鉄小田原線に接続している。小田原市内には1956年まで道路上を箱根板橋まで走る箱根登山鉄道の路面電車があり、廃止後に遠く長崎に嫁いだ車両が2021年に里帰りして話題となった。この市内線202号は、箱根口の箱根口ガレージ(報徳広場)に展示されており、小田原駅からはバスやタクシーで5分ほど。小田原の偉人、二宮金次郎の銅像が立つ敷地内にはグリル料理やスイーツを楽しめるカジュアルなカフェもある。
小田原から箱根湯本の間は箱根登山鉄道の路線だが、小田急線から特急ロマンスカーが直通している。箱根登山鉄道の線路幅は新幹線と同じ1,435mm(標準軌)で小田急はJR在来線と同じ1,067mm(狭軌)。
1950年に両線が直通運転を開始してから2006年までは1,435mmの登山線線路の内側にもう1本、軌間1067㎜になるよう線路を敷いて3線とし、小田急の電車を通していた。2006年以降は小田原~箱根湯本間は各駅停車も小田急の電車のみで運転することになったことから大部分の3線区間がなくなったが、登山線の車庫がある入生田駅から箱根湯本駅までの区間は車庫に出入りする電車のために今でも3線となっている。電車の最前部に「かぶりついて」3本のレールが生み出す複雑な配線の面白さを楽しんでみよう。特に分岐ポイントの線路が複雑で見どころだ。ちなみにこの「3線区間」は秋田新幹線と在来線が線路を併用する奥羽本線の神宮寺駅~峰吉川駅間、北海道新幹線の青函トンネル区間を含む中小国信号場~木古内駅間などにも見られる。
引退した箱根登山鉄道の車両がオシャレなカフェに変身!
小田原から2つめの風祭駅にはおもしろい施設がある。その名も「かまぼこの里」。小田原名物のかまぼこ製造で有名な鈴廣が運営する施設で、鈴廣本店のほか、かまぼこ博物館、駅直結でおみやげが揃う「鈴なり市場」などがある。
鉄道ファンにも注目されているのが国道1号を挟んで向かい側に位置する「えれんなごっそ」。和洋の料理が楽しめるレストランの一角に箱根登山鉄道の旧型電車モハ107号が大切に保存されているのだ。オレンジとグレーのレトロな電車は「Café107」として、車内での飲食も可能。多くの「電車カフェ」が内装を大きく変えてしまうのに対し、「Café107」の車内は飲食用に小さなテーブルを設置したり、新しい空調装置を目立たないように設置しているものの現役当時ほぼそのままだ。大画面モニターには沿線風景が映し出され、実際に使われていた車内放送音声が流れるなど臨場感にあふれている。かまぼこをアレンジした107種類もあるというピンチョスなどをつまみながら昭和を感じる車内で乗車気分に浸るのもおもしろい。「かまぼこの里」は駐車場も完備しており、ターンパイク箱根の小田原料金所、小田原厚木道路、箱根新道入口にもほど近いことから、マイカーでの訪問にもおすすめだ。

天下の嶮をあえぐように足を進める登山電車は見どころいっぱい
ロマンスカーの終点である箱根湯本から先は、小型の登山電車に乗り換えて強羅に向かうことになる。箱根登山鉄道の電車は1両の長さが15m弱と小田急やJRの電車より5mも短い。
これは半径30mという鉄道としては極めて急なカーブを曲がるため。この急カーブがあることで車輪とレールとの摩擦が大きくなり放置すると脱線の原因にもなってしまう。通常の鉄道ではレールに油を塗布するが、急こう配では油がスリップを誘発する危険があるため箱根登山鉄道では電車の床下にタンクを設置して水を撒いている。ブレーキにも特徴があり、車輪を締め付けるものだけではなく、非常用にレールを締め付けるブレーキも備えている。車輪を止めても、80パーミルの急坂では止めた車輪とレールの摩擦だけでは止めきれず、滑り落ちてしまう可能性があるため、車両側からレールにブレーキシューを直接押さえつけて強固に止めるのだ。
箱根登山鉄道最新の電車は2014年から導入されている3000・3100形「アレグラ号」。従来の角ばったデザインとは異なり、曲線を多用した窓の大きな電車だ。車体デザインは建築家の岡部憲明氏が手掛けている。「アレグラ(Allegra)」というのはスイス山間部で使われるロマンシュ語の挨拶だそうで、スイスが登場するのは箱根登山鉄道とスイスの登山鉄道であるレーティッシュ鉄道が姉妹鉄道となっているから。「アレグラ号」より以前に登場した1000形「ベルニナ号」、2000形「サン・モリッツ号」もレーティッシュ鉄道のベルニナ線やサン・モリッツ駅にちなんだ名前となっている。
「アレグラ号」の特徴は窓が大きく開放的なことだ。特にドアとドア付近に設けられた展望窓は足元までガラス張になっていて、迫力ある車窓を存分に楽しめる。塔ノ沢駅を出た後の「出山鉄橋」から見下ろす一瞬の渓谷美は楽しみたい見どころのひとつである。
スイッチバックは全国でも珍しくなった鉄道施設
箱根湯本を出ると電車はぐんぐん急坂を上っていく。駅を出て少し進むとただちに80パーミルの急こう配に差し掛かる。全長15mの電車では先頭部と後部の高低差は計算上約1.2mにもなり、乗っていても電車が斜めに傾いているのがわかるほど。「かまぼこの里」に保存されているような旧型電車の時代はモーターをグワングワン鳴らしながら勾配を上っていたが、最新型では騒音はあまり気にならない。いっぽうで急カーブを曲がるときは水を撒いていても車輪がキーキーと音を立て、いかにも苦しそうだ。
急こう配に続く見どころは「スイッチバック」。線路をZ字型に敷いてジグザグに山を登っていく仕組みになっている。箱根登山鉄道には塔ノ沢~宮ノ下間に、出山信号場、大平台駅、上大平台信号場のスイッチバックが3カ所設けられている。スイッチバック地点では進行方向が変わるので、運転士と車掌が入れ替わる様子も見どころだ。なお、信号場というのは列車運転のために設置された業務用の施設であるため一般の乗客は立ち入ることができない。スイッチバックの様子を見るなら大平台駅で降りてみよう。ここでは列車の行き違いもあるので、上下2本の列車が別方向から入ってきていったん並び、再び別方向へ出発するスイッチバック駅ならではのシーンが楽しめる。
3か所のスイッチバックを通り、宮ノ下駅を出ると登山電車の旅はもう終盤。くねくねとカーブを曲がりつつ、高級温泉宿や彫刻の森など箱根観光の名所を横目に見ながら電車は終点の強羅駅へと滑り込む。箱根湯本からは片道約40分の短い旅だが、急カーブや急こう配の連続を見ていると、よくこの電車を100年前に建設したなとの思いを強くする。電車や施設はリニューアルされているが、基本的な部分は1919年の開業時からほぼ変わっていないのだ。
強羅からは2020年にリニューアルしたケーブルカーで早雲山へ、そこからロープウェイで芦ノ湖方面へ足を延ばすが定番の観光コースだ。コロナ禍の影響で以前のような大混雑は緩和されているようだが、インバウンド観光客の訪問が全面解禁されると、再び内外から大勢の観光客が押し寄せることだろう。落ち着いて楽しむなら早めの訪問がおすすめかもしれない。
【画像ギャラリー】連続する急カーブ、急こう配を体験! 都心からのアクセスもいい箱根観光は登山電車でいかが?(12枚)画像ギャラリー投稿 連続する急カーブ、急こう配を体験! 秋の行楽、箱根観光は登山電車でいかが? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。