2022年7月21日、中国のBYDが日本の乗用車市場にEVで参入すると発表した。これが日本メーカー、そして日本にとってどれほどの脅威を示すものなのか? 自動車評論家 国沢光宏氏が解説する。
※本稿は2022年8月のものです
文/国沢光宏、写真/BYD、ベストカー編集部 ほか、撮影/平野学
初出:『ベストカー』2022年9月26日号
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■中国車の進化のスピード感は日本の4年分を1年で進むイメージ
BYDの日本進出は、2010年にリーフを出して以後、電気自動車についちゃ“鎖国”を続けてきた我が国にとっての黒船になるかもしれません。
実際、直近の12年、日本の電気自動車はほとんど進化してこなかった。考えていただきたい。欧州における2010年と言えば、リチウム電池を搭載した電気自動車など一車種もなかった。
なのに今や50車種を超えるモデルが登場し、販売比率だって10%に届こうという状況。
日産サクラが売れて今年やっと1%に届くだろうと言われている日本は、客観的に評価したら電気自動車後進国です。
さてBYDだ。ベストカーを読むようなクルマ通であっても、中国車と聞いたら実物も見ないでガラクタと考えることだろう。
確かに15年前のBYDといえばパクり車ばっかり作ってましたね。けれど中国のモーターショーに行くたびに進化していた。日本にとって最も厳しいのは、人材の流出だと思う。
誰でも知っているような車種の実験担当者やデザイナー、サスペンション屋さんなど複数。衝突安全のプロみたいな人だっている。
日本だけでなく欧州メーカーの優れた技術者まで揃えているから凄い!
さらに驚くのが進化のスピード感。日本の4年分を1年で進むイメージでいいと思う。
鎖国していた12年間で追いつかれ抜かれようとしている。そして抜かれたら追いつくのは難しいかもしれない。
■充放電可能回数3000回。1回の充電で300kmなら90万km
そもそも決定的なのが電気自動車の中核となる電池。私は以前からリン酸鉄電池を高く評価している。
正極にコバルトやニッケル使う3元系リチウム電池と違って燃えない(熱に強いだけでなく釘を刺しても大丈夫)。
そして充放電可能回数3000回を超える。1回の充電で300km走れるなら90万kmということになる。
材料のリン酸鉄は稀少金属じゃないため安価。電気自動車用の電池として考えたら申し分ない。
今まで日本の技術者にリン酸鉄リチウム電池の話を聞くと、皆さん一笑に付す。伝家の宝刀である全固体電池を振りかざせば、すべて切り倒せると思っているようだ。
リン酸鉄リチウム電池を使うBYD車は、20万km走っても電池容量は新車に限りなく近い状況だと思っていいだろう。
もちろん熱に強いため、急速充電を繰り返した時の耐久性だって高い。長い寿命を持っていれば、リセールバリューだって期待できる。
■今回のBYDの発表は日本にとって「けっこう深刻」
今回BYDが発表した内容、中国の自動車産業を見てきた私からすると、日本にとって「けっこう深刻な状況」のように思う。
BYDは中国の政府系自動車メーカーじゃないため、経営難=破綻。昨今の中国の政情を考えたら中国一本足打法は危うい。
日本と言えば、世界3位の自動車販売台数というだけでなく、ユーザーのレベルだって高い。日本でクルマを売れれば世界で通用する品質や性能と言ってよかろう。
BYDとて、日本で簡単に売れるとは思ってない。それだけに本気で勝負に来ているのだった。
日本の自動車メーカーにとって当面の心配事は価格。仮にヤリスクラスの『ドルフィン』が250万円くらいだったとしよう。
今年の補助金を考えると200万円切り。東京都なんか150万円だ。90万km使えるクルマが150万円! 供給台数に余裕あったら、補助金の予算を使い切ってしまう。
補助金なくなったら日本製の電気自動車なんか高くて買えない。海外市場だけじゃなく鎖国を続けてきた我が国でも猛威を振るう可能性大だ。
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投稿 マジでヤバい! 2023年は本当の本当に正念場!!! 「新たな黒船」中国BYD来襲で日本に迫るタイムリミット は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。