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ライバル車と比べて分かるスペーシアベースの優位点

 2022年8月にスズキから、新しいカタチの軽商用車「スペーシアベース」が登場した。ライバル争いが激化するこのカテゴリーで、スペーシアベースの優位点はどこにあるのか? ここでは、エブリイバン、軽乗用車のスペーシア、そしてホンダN-VANと比較する!

文/渡辺陽一郎、写真/SUZUKI、HONDA、ベストカーweb編集部

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スペーシアシリーズに4ナンバーの商用車が登場!!

軽乗用車のスペーシアのボディを利用しながら商用車に仕立て直したスペーシアベース

 軽自動車は、新車販売台数の40%近くを占める売れ筋カテゴリーで、大半の車種が国内専売だ。海外では売られず、日本のユーザーを見据えた開発を行う。

 しかも軽自動車は薄利多売の商品だから、コストも抑えねばならない。少ない開発費用で堅調に販売できる商品を開発する必要があり、既存の車種をベースにした派生モデルも有効な手段になっている。そのために全高が1600mmを超える売れ筋の軽自動車は、その多くが複数のタイプをそろえる。標準ボディとカスタムなどのエアロパーツ装着車が多い。

 スズキスペーシアは、特にボディタイプが豊富だ。標準ボディのほかに、エアロパーツを備えたカスタム、SUV風のギア、さらに2022年8月下旬には、商用車のカテゴリーに属するスペーシアベースも加えた。4種類をそろえて「スペーシアシリーズ」を構成する。

 そこで気になるのが、スペーシアベースの位置付けだ。スズキには軽商用バンとしてエブリイがあり、軽乗用車のスペーシアも選べるから、双方の中間に位置するのがスペーシアベースになる。

エブリイバンにはないスペーシアベースのメリットとは?

2015年2月に発売された現行のエブリイバン。軽キャンパーのベース車両として人気があるワンボックスタイプの軽商用車

 まずエブリイバンとスペーシアベースを比べると、車両の基本的な造りがまったく違う。スペーシアベースは、乗用車のスペーシアと同じく、エンジンをボンネットの内部に収めて前輪を駆動する。その点でエブリイバンは、エンジンを前席の下に搭載して後輪を駆動する。

 エブリイがこのレイアウトを採用する理由は、荷物の運搬を目的にするからだ。エンジンを前席の下に搭載すれば、スペーシアのボンネットに相当するボディの前側を短く抑えられる。そうすれば室内空間、特に荷室を長く確保できる。スペーシアベースの荷室長は1205mmだが、エブリイバンは、最も長いグレードなら1910mmだ。スペーシアベースよりも約700mm長く、荷物の積載性も大幅に向上する。

 また荷物は車両の中央から後部に搭載するから、たくさん積んだときは、後輪の荷重が増える。車両が発進するときの荷重も、後方に向けて移動するから、重い荷物を積む商用車では後輪駆動が圧倒的に有利だ。

 特に雪道で坂道発進をする場合、前輪駆動車に重い荷物を積むと、まったくスタートできないこともある。登り坂では停車時でも後輪荷重が増えており、そこに荷物の積載まで加わると、雪上では前輪はほとんどグリップしない。商用車には、さまざまな意味で後輪駆動が相応しく、エブリイバンもこの方式を採用した。

 従って荷室長が1205mmに収まり、積載時の発進性にも不安のある前輪駆動のスペーシアベースは、ライト感覚のプチ軽商用バンだ。エブリイバンのように大きくて重い荷物を積むことはできないが、独自のメリットを備える。

 まずスペーシアベースは、スペーシアと同じ前輪駆動のボディを使うから床が低い。前後席ともに、エブリイバンに比べて乗り降りしやすい。さらにスペーシアベースは、荷室の床も低く、路面からの高さは510mmだ。650mmのエブリイバンに比べると、荷物も出し入れしやすい。

 運転感覚も異なる。エブリイバンは床が高く、全高も1895mmに達する。そのために重心も持ち上がり、峠道などを走ると曲がりにくい。対するスペーシアベースは、前輪駆動で床が低く、全高もGFが1785mm、XFは1800mmだ。エブリイバンほど重心が高い印象は受けず、峠道を走っても、運転感覚は自然な印象だ。

 乗り心地も違う。エブリイバンの最大積載量は350kgだから、足まわりも硬めに設定されるが、スペーシアベースは200kgだ。エブリイバンほど重い荷物に対応する必要がなく、乗り心地にも配慮している。

 そしてスペーシアベースは、軽乗用車から派生した軽商用バンだから、エブリイバンが採用しないサイドエアバッグ、車間距離を自動制御できるクルーズコントロール、キーレスプッシュスタート、ロールサンシェードなどを用意する。

 燃費も大きく異なる。エブリイバンは荷物の積載に対応したエンジンとトランスミッションを採用しており、2WDのWLTCモード燃費は4速ATが14.6km/L、5速AGS(オートギアシフト)は16.4km/Lだ。それがスペーシアベースなら21.2km/Lに達する。

 以上のようにスペーシアベースは、エブリイバンに比べて荷物を積む性能は下まわるが、運転感覚、走行性能、乗り心地、装備、燃費性能などは、軽乗用車のスペーシアに近い。エブリイバンよりも優れている。

後席の使い方で選び分けられるスペーシアとスペーシアベース

スペーシアベースでは4つのモードで室内空間を自由にアレンジできるマルチボードを全車標準装備。写真はデスクのように使える上段モード

 それなら軽乗用車のスペーシアと、スペーシアベースを比べたらどうか。基本的には同じクルマだが、スペーシアベースは軽商用車だから、後席をコンパクトに格納できる。この状態では、荷室長が1205mm、荷室幅は1245mm、荷室高は1220mmになり、エブリイバンには及ばないが、スペーシアよりは荷物を積みやすい。

 さらに後席を格納せずに背もたれだけを倒すと、ベンチのようになる。マルチボードをデスクのように使うと、リモートワークのスペースとしても活用できる。マルチボードの高さを変えて、前席をリクライニングさせて連結すると、車内が平らな空間になる。クッションを利用してデコボコを埋めると、車中泊にも使いやすい。

 その代わりスペーシアベースでは、後席の造りは簡素化された。軽商用車の規格に沿って、後席よりも荷室面積を広く確保したから、後席を使うと足元空間が大幅に狭い。後席は緊急用で、実質的に2人乗りだ。

 つまり軽乗用車のスペーシアをベースに、車内の中央から後部の使い勝手を多彩に変更したのがスペーシアベースと考えれば良い。この機能を得るため、軽商用車の規格を活用した。

 スペーシアベースの価格は、スペーシアの標準ボディとほぼ同じだ。従って4名で快適に乗車できる後席が欲しいときには軽乗用車のスペーシア、2名以内の乗車で、リモートワークや車中泊を楽しみたいならスペーシアベースと使い分けられる。

 そしてさらに広い荷室が欲しいときは、エブリイバンを検討する。エブリイには、5ナンバー車として届け出される軽乗用車のワゴンもあり、後席の快適性を向上させたり、装備を充実させることも可能だ。

スペーシアベースと成り立ちが近いホンダN-VANの特徴とは?

N-VANは、センターピラーレスドアを採用。助手席側開口部幅は1580mmを実現。シートアレンジでは、運転席を除いた車内全体がフラットな荷室になる

 このほかスペーシアベースに似た軽商用バンとして、ホンダN-VANもある。N-BOXの派生車種だから、成り立ちはスペーシアベースに近い。ところがN-VANの事情はもっと切実だ。かつてホンダは、エブリイバンのような専用設計のアクティバンを自社開発していたが、コストで折り合いが付かずに生産を終えた。

 そこでN-BOXをベースに、コストを抑えて開発されたのがN-VANだ。前輪駆動のN-BOXをベースにした軽商用車なのに、後輪駆動のアクティバンのユーザーまでカバーせねばならない。つまりN-VANは、エブリイバンのあるスペーシアベースと違って、ホンダの軽商用バンを1車種で背負って立つ存在なのだ。

 ただしスペーシアベースとエブリイバンの比較で述べた通り、N-VANの荷室長は、エンジンをボディの後部に搭載したアクティバンに比べて大幅に短い。

 そこでN-VANは、助手席まで後席と同じように小さく格納できる構造とした。助手席、後席ともに座り心地は悪いが、運転席以外をすべて平らな荷室として活用できる。左側のピラー(柱)はドアに埋め込み、前後のドアを両方ともに開くと、開口幅が1580mmまで広がる。

 助手席と後席を畳めば、リヤゲートではなくボディの側面から、長い荷物を積める。最大積載量もグレードによっては350kgを確保したから、200kgのスペーシアベースに比べて重い荷物に対応できる。

 このようにN-VANは、N-BOXをベースにしながら数々の工夫を施して、アクティバンの代わりを務めようとしている。今のホンダでは、小型/普通車も含めてN-VANが唯一の商用車になったから、まさに大黒柱的な存在だ。

 以上のように、スペーシアベース、エブリイバン、軽乗用車のスペーシア、そしてN-VANは、全長や全幅、エンジン排気量はすべて共通だが、与えられた使命はそれぞれ異なる。軽自動車の世界は広く、日本独自のカテゴリーとして、多くの人達を魅了している。日本の生活に欠かせない存在になっている。

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