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 政府の働き方改革関連法案により、時間外労働時間の上限などの規制が厳しくなっている。これまでは猶予されていたトラック運送業でも2024年の4月1日から上限規制が始まる。

 長時間労働や過重労働、無理な運行が軽減するのは歓迎すべきことだが、これまでのような働き方が不可能になることで、物流の「2024年問題」と総称される諸問題が発生すると予想されている。

 運送会社から見ると、物流を担うドライバーの数が足りず、従来通りの業務をこなせなくなる。ドライバーから見ると、1日に運べる荷物の減少=収入の減少なので、「稼げなくなる」という声をよく聞く。収入の減少は離職者の増加や入職者の減少につながり、人手不足がさらに加速するという悪循環に陥りかねない。

 働き方改革に対応し、トラックドライバーの人手を確保することは、運送会社が2024年問題を乗り切るために最重要の課題となっている。

 こうした中、全日本トラック協会(全ト協)が2022年10月5日、名古屋で「第27回全国トラック運送事業者大会」を開いたが、この中で一種の勉強会である分科会を開催。第2分科会では「ドライバーの確保・『働き方改革』への対応について」のパネルディスカッションが行われた。

 その中から、有限会社Miyamaコーポレーションの取り組みを紹介しよう。パネリストは同社代表取締役の降籏(ふるはた)美香社長である。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/フルロード編集部・MiyamaコーポレーションHPより


教員から運送会社の社長に

Miyamaコーポレーションは2024年問題を乗り切るために、ドライバーに寄り添った改革を行なっている

 福岡県の有限会社Miyamaコーポレーションは2004年の設立で、主に一般貨物運送事業、軽貨物運送事業、倉庫業を行なっている。在庫管理から、幹線輸送、医薬品の配送、ネットスーパーの宅配など幅広く手がける。

 また、学校の教員から運送会社の代表という異色のキャリアを持つ降籏美香社長が社長に就任してからは、ドローン事業、中国向け個別配送サービス事業、高齢者に特化した引っ越し・家財収納・片付けなどのライフサポート事業を立ち上げている。

 車両は約100台を保有する。軽貨物自動車からトレーラまでさまざまだ。社員は現在、男性71名、女性24名、合計95名。男女構成比で言うと女性が約25%となる。

 運送業界でも女性ドライバーが増えて来たとはいえ、その比率はまだ2%ほど。業界平均の10倍以上の女性ドライバーが活躍している同社は、業界では女性ドライバー比率が非常に高い運送会社だ。

 働き方改革とドライバーの確保対策としては、「社員に安心して働いてもらうこと」に取り組んできたそうだ。

 降籏社長は就任時に、一人一人に対して時間をかけてヒアリングを行なった結果、耳が痛いこともたくさん言われたが、多くの課題や問題点を出してもらうことができたという。

 当時は管理職が3人しかいなかったので、社員の不満に耳を傾ける時間や余裕がなく、「有給を取りたいと言いづらい」「管理職に相談しても返事がない」という状況だった。中には「会社や管理職に言っても無駄なような気がする」と、何も言わずにそのまま退職する人もいた。

 それ以外にも、「スキルアップしたいがお金がない」「制服がダサい」といった意見や、仕事内容や給与に対する不満もあった。そんな社員が安心して働ける職場として考えたのは納得のいく給料と福利厚生の充実、プライベートと仕事を両立できる環境だった。また、誇りを持って働けることは必須だと感じた。

 そんな会社になれば多様な人材が集まり、人手不足を解消して、「3K」や「男の職場」というイメージを脱却する好循環を生むかもしれないと考えたという。

 具体的な取り組みとして、まずは相談窓口を増やし相談しやすい雰囲気を作るために、管理職を3人から9人に増やした。

 社員が休暇をとったりすると、その分のカバーが必要になるが、管理職を増やしたことで調整できるようになった。また、ドライバーには自分の配送コース以外の仕事も覚えてもらうようにした。それによってお互いに仕事のカバーができるようになった。

 いつ、何があるかわからないので、社員には「お互い様の精神を忘れずにいよう」ということを常に言っているそうだ。

何よりも大事なのはコミュニケーション

 居場所を作るために「コミュニケーションが大事」と言っても、具体的にどうするのか悩んでいる人はけっこう多い。

 降籏社長は代表就任直後から、毎日配送車両に同乗して現場を見せてもらったそうだ。その時にドライバーといろいろな話をして、現場を知ることができた。人と現場を知ることは大事だと痛感し、今は管理職にも定期的に同乗・同行してもらっている。

 管理職と社員、社員同士のコミュニケーションができるように、管理職には相談しやすい環境を作ることを求めている。

 それ以外に、社員同士での「メンター制度」を取り入れたことで、入社してすぐ退社する社員が減った。社員が主導する活動もあり、最近では社内にゴルフ部やバイク部などができたという。

 こうした取り組みには、教員としての経験が活きている。

 「私が教員をしているときに、クラスの雰囲気が良くなるようにとか、子供たちがまとまるように、子供たち同士でお互いを認め合う、『お互い良いとこ探し』というのをしていました。

 実際に管理職の皆さんは、指導する立場になると、人の良いところよりも悪いところに目が行きがちです。そこで、なるべく管理職にはドライバーの良いところに目を向けてもらうように伝えています」。

 管理職が見つけたドライバーの良いところは、面談でドライバーに伝えるようにしている。また、ドライバーからは管理職の良いところを聞いて、社長が管理職に伝えるようにしている。こうした面談方法を取り入れてから、ドライバーがたくさん話をしてくれるようになった。

取り組みの成果は?

 また、「スキルアップしたいがお金がない」という意見に対して、スキルアップ費用を会社で全面的に援助することに決めた。トラックや物流に関する資格だけでなく、介護関係や整理収納アドバイザーとか、ドローン操縦士資格なども補助している。

 いっぽう給与に関する不満に対しては、仕事や給料の「見える化」を進めるために、各部署の仕事内容や給料の内訳を情報開示した。部署ごとに仕事の難易度や拘束時間が違うので給料も違う。その条件を開示することで、社員間の不公平感を無くす目的だ。

 情報を開示することで、社員自身が「次は2トンに乗りたい」「大型に乗りたい」など目標設定もしやすくなった。

 「制服がダサい」という意見については、社員に制服をコーディネートしてもらった。意外にも男性社員がピンクのTシャツを着ていたり、女性はスマートに見えるからとあえて黒や紺を付けたり、カラフルな会社になったそうだ。

 こうした取り組みの結果、昨年度の有給消化は100%だった。出産立ち合い休暇、介護休暇、親の通院への付き添い、授業参観への出席などライフイベントへの参加もかなり実現している。

 特に、男性社員の育休取得を社長が知らない内に管理職が手続きしていた時は、社内で育休や産休が普通にとれる仕組みができたことを嬉しく思ったそうだ。異業種からの転職も多く、10年以上在籍する社員が40%まで増えるなど、定着率も上がった。

 細やかな取り組みと社員とのコミュニケーションを通じて信頼関係を築くことが、ドライバーの定着率向上や2024年問題に向けた人手不足対策にもなっている。降籏社長は次のように話している。

 「社員とのコミュニケーションは何よりも大事だと思います。そして何事にもレスポンスは早く、素早い対応。あと、仕事に人を合わせるのではなく、人に仕事を合わせる。

 弊社には聴覚障害のある社員もおりますが、ラインやメールでコミュニケーションをとっています。今はいろいろな技術があるので、障害があるから雇えないのではなく、解決方法をみんなで考えることが大切だと思います」。

 社員の気持ちに寄り添うMiyamaコーポレーションの取り組みは、運送事業にはまだまだ可能性があることを教えてくれると思う。

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