もっと詳しく

フィアット ムルティプラにV8スーパーチャージャーを搭載し、最高出力1000馬力を実現。フィアット ムルティプラは、決して美しいとは言えないが独特で替わるものがないスタイルなど、チューナーには人気がある。

1999年に登場した「フィアット ムルティプラ」は、「世界一醜いクルマ」とまで揶揄された。しかし、このイタリアンは調律師(チューナー)たちの間で人気が今になって出てきている。何度も何度も、野生の変換が現れる。「ムルティプラ」に強大な心臓とワイドボディキットを与えた2人のフランス人チューナーのこの例は、ベストチューニングカー賞を獲得するかもしれない。(笑)

ワイドボディキットと大型リアウィングによるシャープなルックス

フランスの「ムルティプラ(1999年~2004年のフェイスリフト前のモデル)」のチューニング・デュオ、「Vilebréquin(クランクシャフト)」が、あらゆるルールに則ってモディファイを行ったという話だ。YouTube動画で完成までの過程を観ることができるが、彼らのYouTubeチャンネルは200万以上のチャンネル登録者がいる立派なユーチューバーでもある。2019年から始まったチューニングプロジェクトは、ワイドボディキットと非常識な性能を備えたドラッグストリップモンスターとなり、クォーターマイルでのドラッグレースではほとんど敵なしだろう。

コルベットZ06 C7の6.2リッターの心臓はムルティプラのボンネットの下に眠っており、パワーは約1000馬力と言われている。

DTMスタイルのインサートが組み込まれた角張ったオーバーフェンダーは、より空力的でスポーティな車を目指している。ブルーとイエローのミシュラン風ボディペイントは、どこかレーシングカーを思わせる。リアには大型スポイラーが鎮座し、車高調や強化シャシーもプロジェクトの一環だ。全体的なスタイルは、オリジナルをギリギリ保っている感じではあるが・・・。

大幅なワイド化に加え、リアドアも廃止された。6人乗りの代わりに、この「ムルティプラ」は2人乗りとなった。そして、イタリア製マルチバンの原型はあまり残っていない。その他、透明なフィンを持つ大型のリアディフューザーやワーク製ホイールなどのチューニングが施されている。

コルベットZ06のスーパーチャージャー付きV8エンジン

標準の1.6リッター自然吸気ガソリンエンジン(102馬力)は、スポーティな走りを実現するために、その座を譲ることになった。その代わりに、6.2リッターのスーパーチャージドV8、正確には「C7」世代の「シボレー コルベットZ06」のエンジンが選ばれた。標準出力659馬力は、比較的簡単なチューンアップで約1000馬力にまで引き上げられた。

ワイドなボディ、巨大なリアウィングとディフューザー、ブルーとイエローのムルティプラは、レーシングカーを思わせる外観が特徴的だ。

「ムルティプラ」がどれほどのパワーを発揮するのか、チューナーたちはまだ明らかにしていないが、新たなカラーリングが施されたブルーイエローモンスターも展示されるパリモーターショーの模様と合わせてその勇姿をご覧ください。見てみたいような、そうでもないような複雑な気持ちであるが(笑)

【ABJのコメント】
「フィアット ムルティプラ」、僕は大好きだった。特に「なんて変な虫のような形の車」と酷評されていた初期型のアレ、あれは素晴らしいデザインだったと思う。だって、あのとんでもない形の顔つきや、3人並んで座るシートの形や色、これまた複雑に見える(ちょっと「ランチア ベータ」あたりを彷彿させるような)ダッシュボードの形状などなど、イタリア人でなければ思いつかない形でしょう?

あのアレッシなんかを思い出させるような造形と色を見ていると、これはドイツ人や日本人やアメリカ人には作れないと同時に、おそらく理解されにくいテイストだなぁ、と思っていた。もちろんイタリア国内にも拒否反応があったようで、「ムルティプラ」はマイナーチェンジによってごく普通の顔つきの、没個性でなんともつまらない顔つきに変わり、その写真を見たときには、この世からまた好きな車が消えた、と落胆したものである。

今回のとんでもない1000馬力「ムルティプラ」はもちろん前期モデルをベースにした、個性的な一台だ。もちろんその中身はまるで市販車の「ムルティプラ」とは縁もゆかりもないし、正直言うとあまりに変わり果てた姿に、これが「ムルティプラ」だったのかどうか、よくよく見ないとわからないほどの変貌ぶりである。だが、ここまで変えちゃうんだったら、ベースは「ムルティプラ」じゃなくていいじゃん、などと無粋なことを言ってはいけない。

何故ならこのプロジェクトを考えた人は、おそらくあの昆虫や、風の谷のナウシカのオームを連想させるような、あの初期モデルの「ムルティプラ」が大好きだったに違いないし、このプロジェクトがそんな変な形の「ムルティプラ」をベースにしているからこそ楽しく面白がってもらえる、ということを理解した上での1000馬力なのだから。そしてそういうことを見るものにも要求させるような部分さえある車である。そういう意味で考えると、ばかばかしいようでいて、実はかなり難易度の高い一台なのではないかと思う。(KO)

Text: Sebastian Friemel
加筆: 大林晃平
Photo: Vilebréquin