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中国共産党大会が22日、閉幕した。5年に1度の開催となる党大会は次の指導体制や基本方針を定める党の最高意思決定機関であり、北京で16日から開催されていた。

党大会が開催された北京の人民大会堂(oxico /iStock)

党大会では、約9600万人と言われる党員を束ねる205人の中央委員を選出。23日には、この中央委員からさらに「政治局委員→政治局常務委員→党トップの総書記」というように選ぶ流れだ。今回の党大会で、2期10年務めてきた習近平氏が慣例を破り、3期務める異例の人事が決定的なのは周知の通りだ。

党大会最終日のこの日は、党の憲法にあたる規約を改正し、習氏の党内での核心的な地位と、思想面の指導的地位を固める「二つの確立」を反映することを承認する。しかしハイライトとなる閉幕前の決議直前で、胡錦濤前国家主席が退席するシーンが注目された。

退席間際に習近平氏に声をかける胡錦濤氏。左は李克強氏(写真:ロイター/アフロ)

その模様をいち早く世界に打電したAFP通信は、胡氏が「突然退席させられた」と速報。「職員に腕をつかまれそうになると振り払い、その後、脇の下に両手を入れられて立たされた」と報じた。

胡氏は習近平体制で冷遇されてきた共産主義青年団(共青団)の出身。退席シーンに先立ち、同じく共青団から党序列2位まで上り詰め、習氏のライバルだった李克強首相や、李氏の後継と一部で目されていた序列4位の汪洋全国政治協商会議主席が、新たな中央委員の名簿から外れていたこともあって、胡氏の退場は、習近平体制の「独裁完成」を連想させるシンボリックなシーンとして、世界中を騒がせることになった。

これに対し、中国の国営メディア、新華社は22日深夜、英語版のツイッターで「胡錦濤氏が体調不良を押して党大会出席を熱望していた」「大会中に体調がよくなかった際には、スタッフが同行し、会場の隣の部屋で休憩した。今、胡氏はずっと良くなっている」と騒動を“打ち消す”ように報じた。

日本のツイッターでも今回の「退場劇」や権力闘争を巡って、さまざまな論評がなされた。

朝日新聞記者時代に中国特派員を務めたジャーナリストの峯村健司氏は「今回の党大会の最大の焦点です。一部で病気説がありますが映像を見る限り違うでしょう」と見方を示し、胡錦濤氏について「江沢民氏の影響力がほぼなくなっている中、胡錦濤氏が最後の抵抗勢力でした」と解説した。

中国の動向に詳しい元産経新聞記者のジャーナリスト、福島香織氏は「新たな中央委員名簿に李克強も汪洋もいないとは」と驚いた様子。今後については「改革開放路線回帰は望み薄で、習近平による中国の経済破壊がいよいよ加速する」との見方を示した。

台湾侵攻の現実味

「習カラー」が一層濃くなった今回の党大会では、党の規約に台湾について武力行使を辞さない方針を盛り込むなど台湾侵攻の現実味を一層浮き彫りにした。

FTによると、党大会中の19日、今年4月までアメリカ軍のインド太平洋軍司令官を務めたデービッドソン海軍大将がシンクタンクの会合で、台湾侵攻の時期について「27年という時間軸を想定して議論する場合、22年、あるいは23年の可能性まで考慮すべきだと私は考えている」と発言し、日本でも注目された。

ロシアのウクライナ侵攻以後、中国による台湾侵攻シナリオは現実味を増すばかりだ。国際政治学者の篠田英朗氏(東京外国語大学教授)は、胡錦濤氏の退席シーンの動画ツイートを引用しながら

「あれだけ事前にアメリカ政府が「ロシアのウクライナ侵攻が近い」とファンファーレ流していたのに、事前には「それはアメリカのプロパンガンダだ」と否定、事後には「誰も予測していなかった」と否定する方々は、台湾危機についても、やはり同じように扱っていく意気込みなんでしょうね。

などと侵攻回避の楽観論に懐疑的な見方を示した。

前出の峯村氏は篠田氏のツイートに反応、「篠田先生のご指摘の通りです。私が2020年に習近平氏による台湾併合シナリオを発表したときに日本国内でどれだけの批判があったか」と振り返っていた。