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 商用車のウォークスルーバンは、運転席から荷室への移動が立ったままできるウォークスルー構造を備えたもので、乗降が多い宅配事業の現場では利便性の良さから高いニーズがある。

 トヨタ自動車とヤマト運輸が共同開発した「クイックデリバリー」(1984〜2016年まで生産)はその代表格といえ、宅急便などで広く使用され、その姿を見たことがある人も多いだろう。

 いっぽう、いすゞ自動車製のウォークスルーバンはご存知だろうか? 実は(あまり売れなかったケド!)いすゞは古くからウォークスルー構造の車両に挑戦してきたメーカーなのである。今回は、そんないすゞの歴代ウォークスルーバンをご紹介しよう 。

文/フルロード編集部 写真/フルロード編集部・いすゞ自動車・ヤマト運輸・トヨタ自動車


いすゞの歴代ウォークスルーバン

 いすゞ自動車のウォークスルーの始まりは、キャブオーバー型が定着した60年代の後半に登場したセミボンネット型の「エルフ ハイルーフ」である。

 同車は1968年にフルモデルチェンジした2代目エルフのラインナップに受注生産で展開された。アルミボディの荷室高は1740mmで、大人が立ち上がって移動できることをコンセプトにした2t積ウォークスルーバンだった。

1968年に登場したエルフ ハイルーフ。サイドスライドドアのコンセプトもこの頃からあった

 その4年後の1972年にはエルフから派生したフロント駆動の「エルフ マイパック」を発表。FFの特徴を活かし超底床化を実現したことに加え、シャシーはラダーフレームのA型シャシー、「コの字」型のフレーム(横方向のサブフレームを持たない)を持つZ型シャシーの2種類を設定するなど独創的なアイディアが詰まったクルマであった。

 超低床を実現したマイパックはウォークスルー型をはじめ、容積型、超低床型、特殊用途型などさまざまなトラックに発展したが、商業的には成功したとはいえない結果に終わった。

 また、ハイルーフキャブではなかったため、立ち上がったまま荷室に移動できることをコンセプトにするウォークスルーとしては中途半端でもあった。

画期的なアイディアが詰まったマイパック。床面地上高は450mmともいわれ、1974年には前後異径サイズのタイヤを採用したフラットロー車が登場した

 1982年12月には同年9月に登場したトヨタ・クイックデリバリーに対抗し、ボンネットタイプのウォークスルーバン「ハイパックバン」を発売。同車はいすゞのピックアップトラック「ファスター」のシャシーやSUV「初代ビッグホーン」のフロントグリルなどを使って仕立てられた。

 荷室高は1790mmと高く、エルフ ハイルーフ以来の本格的なウォークスルーバンとなった。

 1996年には、セミボンネットタイプのいすゞエルフ UTが登場。ただ、ウォークスルーはオプションボディとして設定され、中途半端なセミウォークスルーであった。集配車としては売れず、おしゃれ系の商用車やキャンピングカーなどに活路を求めることになった。

 2001年の東京モーターショーでエルフUTの教訓から集配用に特化したウォークスルーバン、「ビギン」を発表。2002年から発売を開始し宅配各社に導入を図るも、販売は伸びず。2004年には生産が終了し、わずか2年の短命モデルとなった。

 しかし愛嬌のあるパンダ顔は根強い人気があり、現在も移動販売車などで再活用されている姿を見ることができる。

こちらは移動販売車で再活用されたいすゞビギン

EV化で復活するウォークスルーバン

 
 トヨタのロングセラー「クイックデリバリー」が生産を終了した2011年(ヤマト向けは2016年に終了)以降は、国産車にウォークスルーバンは存在していなかったが、2020年前後からEVトラックの開発が加速。EVウォークスルーとして復活する動きが出てきた。

 小型車でもキャブオーバー型のトラックが一般的な日本で、フルウォークスルーを実現させるためには、ボンネット型やセミボンネット型にハイルーフを組み合わせた専用のボディが必要になるが、EVはエンジンが不要なので、エンジントンネル部の段差を設計次第で解消することができる。

 いすゞ自動車は2019年の東京モーターショーでエルフのハイルーフキャブを使った、いわゆるコンバージョンEVとしてウォークスルーを成立させた「エルフEVウォークスルーバン」を発表。同車は2020年からヤマト運輸でモニター稼働を行なった(来春発売予定)。

コンバージョンEVとしてウォークスルーを成立させたエルフEV

 いっぽう、日野自動車は超低床フレームなどすべてを新開発したフロント駆動の電気小型トラック「デュトロZ EV」を2020年に発表。ヤマト運輸での実用供試を経て、今年6月にウォークスルーバンとアルミバンを発売開始した。

 Z EVはフロント駆動化と専用フレームにより、床面地上高が約40cm(積載時)という超低床を実現したウォークスルーバンとなっている。

こちらはフロント駆動の日野デュトロZ EVウォークスルーバン型

 ここで紹介したいすゞのマイパックやビギンなどは、時代を先取りしすぎたクルマとして総括されているが、今やEコマース需要の伸長やドライバーの労働環境の改善などにより、宅配などラストワンマイルの集配車のウォークスルー化・低床化には大きな期待が集まっている。

 BEVとのマッチングがいいウォークスルーバンは、働く人にも環境にも優しい車両として、今後は宅配車の「本命」になろう。

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