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 このところトラックやバスといった大型車の事故のニュースを頻繁に聞くようになりました。事故のニュースが流れると、どうしても耳をそばだててしまうトラックドライバーさんも多いと思います。

 統計的にトラックの事故が増えていることはないと思いますが、トラックが事故を起こすと、どうしても死亡事故など重大事故に結びついてしまうことが多いので、ニュースになるケースも多いのでしょう。

 トラックの事故のニュースが流れると、ごく当たり前だと思いますが、まずは「知人が事故に遭っていないか」、ついで「どうして事故が起こったのか?」に関心が向きますが、トラックドライバーさんはどう感じているのでしょう?

 ベテラン海コンドライバーのヒロさんに聞いてみました。

文/海コンドライバー・ヒロさん、写真/トラックマガジン「フルロード」編集部・国土交通省
*2018年3月発行「フルロード」第28号より


根強い「トラック=悪者」という偏見

 事故……。海コン運転手を生業としている自分にとって、この言葉はナンバーワンと言ってもいいくらい、好きではない言葉です。

 ここ何年かは接触などの軽いモノも含め、事故らしい事故をやってはいないものの、過去には自分も何度か事故を起こしたことがありました。先方が「いいよ、これくらいなら大丈夫。問題ないよ」なんて許してくれたとしても、そのたびに深い反省の気持ちとともに、激しく落ち込んだものです。

 よくニュースなんかでトラックが絡んだ事故が報道されると、なんとも言えない気持ちになります。

 若い頃といいますか、海コン運転手としての経験が浅い頃は、そのような報道を見聞きすると「あーあ、何やっちゃってんのかなぁ」くらいな感じで、事故を起こした運転手に対して、どこかバカにしたような気持ちを持っていたんですが、年数を重ねるごとに、そのような気持ちにはなれなくなりました。

 現在はどう思うのか? それは「明日は我が身」です。事故を起こしてしまった運転手に同情する気持ちもあるんですが、それ以上に「明日は我が身だ。同じような事故を起こさないように、俺も気をつけないと」って気持ちのほうが今は強いです。

 で、「トラックの重大事故のニュースに接して思うこと」なんですが、トラックによる重大事故に関するニュースを見聞きすると、どーもトラックが悪者にされちゃっているような気がしてならないんですよね。

 まあ自分の被害妄想みたいなものもあるかもしれないんですけど、世間では「トラックは悪者」と思っている人が多数を占めているような気がしています。

 一般の人が「トラック=悪者」もしくは、「トラック=怖い」と思っているんだなぁと感じた、今でも忘れられないテレビ番組があります。それは2009年5月に放送された夕方の報道番組です。。

 この放送では10分くらいの時間だったんですけど、「トレーラ横転・落下事故 運転手も恐怖 開かずのコンテナ」と銘打って、当時頻発していた海コントレーラの横転事故や、コンテナが落下する事故を扱うコーナーがありました。

 内容としては、こちら側を悪者にする感じではなく、好意的といいますか、運送会社や運転手をかばってくれるような、そんな内容だったと記憶しています。なんでこの放送が今でも忘れられないかといいますと、放送の二日前に自分が丸一日密着取材を受けていて、それが放送されたからです(笑)。

 いやいや、それだけじゃなくて、この時にですね、コメンテーターとして出演されていた女性漫画家さんが、海コントレーラに対し「実際にそばを通るとムチャクチャ怖い」とか「絶対に近くに寄りたくない」とか「別な道路だけを走ってもらいたい」ってなことをおっしゃったんですよね。

 一般の人が海コントレーラに対し「怖い」とか「近寄りたくない」って感情を持つのは理解できるんですが、「別な道路『だけ』を走ってもらいたい」ってコメントを聞いた時には、マジでムカつきました。

 「別な道路だけ」ってことは、「私たちの目の前に現れないで」って言っているのと同じなワケで……。

 海コントレーラの事故に無関係の方が巻き込まれることもありますから、そー思われることには仕方のない部分はあります。でも「それを公共の電波を通じて言っちゃうか?」って感じです。

 このコメントのおかげで「海コントレーラ=悪者」ってことで、そのコーナーが〆られちゃった気がして、とてもモヤモヤした気持ちになったのを、今でも覚えています。

絶対に事故を起こさないという強い意志を持とう!

海コン運転手の嘆き! ベテランのトラックドライバーが重大事故のニュースに接して思うことは?
海コントレーラなどに「怖い」「近寄りたくない」という気持ちを抱くことは理解できるけど、「別な道路だけを走ってもらいたい」というのは、いかがなものか

 どーして「トラック=悪者」って前提で報道されてしまうのか、そしてなぜそれが許されてしまうのか? そもそも世間の人からは、「運転手」って職業が良く見られていないワケで、どー思われているかってのは、なんとなくわかります。だから悪者的な報道をされてしまうんでしょうけど。

 少し話は変わりますが、トラック運転手の事を「プロドライバー」なんて言うのも、個人的にはよろしくないんじゃないかと思っているんですよ。「プロ」とは「プロフェッショナル」の略で、デジタル大辞林によると、「専門家。本職。職業的・専門家であるさま」とあります。

 自分は国際海上コンテナを運ぶ「手段」として大型トレーラを運転しています。海コンに限らず、トラック運転手は何かしらの荷物を運ぶのが「本職」であって、トラックの運転はそのための「手段」です。

 荷物を運ぶのが目的なのに「プロドライバー」と言われちゃうのは違和感があるんですよね。レーシングドライバーであったり、テストドライバーであったり、運転自体を目的としている方々を「プロドライバー」と呼ぶのであって、トラック運転手をそう呼ぶのは、個人的にはチョット違うんじゃないかと思います。

 自分は「公道上でクルマを運転するのに、プロもアマもないよね」って思っているんですよ。クルマって、ちゃんとした運転をすれば、メーカーの方々の努力もあって、とても便利で快適で安全なモノなんですけど、チョットでも間違えれば、人の命を奪う凶器に変わってしまいます。

 その「凶器」に変わってしまうかもしれないモノを、各都道府県の公安委員会から「あなたはクルマを凶器にすることなく、安全に取り扱えそうなので、運転する事を許可します」ってなお墨付きをもらった上で、公道上で運転するワケです。

 ですから、運転免許を持ってクルマを運転する全ての人は「クルマを凶器に変えてはいけない」ってな大きな義務があります。

 クルマの大きい・小さい、運転の上手い・下手、プロだアマだってのは関係なく、クルマを運転する全ての人は、運転者自身も含め、そのクルマに乗っている全ての人、そのクルマの周りに居る全ての人の命を奪ってはいけませんし、傷つけてもいけません。

 「絶対に安全を守らなければならない」って強い意志のもとで、運転しなければならないんです。

プロ・アマ関係なく、運転には最大限の注意を

 でもね、事故の報道なんかで一般の人から、トラック運転手に対して「あなた方はプロなんだから事故を起こしちゃいけません」なんて言われちゃうとですね、こー言いたくなっちゃいます。「公道でクルマを運転するのに、プロもアマチュアもねーんだよ!」ってね。

 クルマを運転する全ての人が、事故を起こさないよう最大限の注意をはらい、最大限の努力をして運転しなければならないのに、いわゆる「職業運転手」が事故を起こすと「プロなんだから」って言葉で吊るし上げるような風潮がある気がしてなりません。

 なので「プロドライバー」って言葉を、自分ら職業運転手に対して使うのはやめてもらえないかなぁって、個人的には思っています。乗用車でもバスでもトラックでもトレーラでも、クルマを運転する人はみんな、同じ義務と責任を負っています。

 残念なことに、どーしても事故は起こってしまうものですし、危険はそこら中にウヨウヨしています。でもやっぱり、事故は起こしたくないですし、巻き込まれたくもないです。

 クルマを運転する全ての人が、「絶対に事故は起こしたくないし、巻き込まれたくない! 自ら事故の原因になるようなことは絶対にしない! 必ず無事に帰るぞ!」みたいな、強い意志を持って運転するべきだと思っています。

 前方だけではなく、ミラーや目視で頻繁に左右や後方にも気を配る。周囲のクルマにブレーキを踏ませるようなことはしない。「危ないかな?」と思うような箇所は、一つ一つ安全確認をして危険を潰して行く。

 こんなことだけでも、一人一人の運転者が真剣に行なっていけば事故は減ると思いますし、ニュースになるような重大事故も減るんじゃないかと思います。

 自分には、二人の娘が居るんですが、もしね、自分の娘たちが信号を守って横断歩道を渡っているにも関わらず事故に遭ったとしたら、こんなに悲しくて悔しいことはないだろうなぁ……って想像しちゃいます。

 歩行者に対する事故は、絶対にあってはならないと思っています。みんなの努力でゼロにしましょうよ。

 もちろん、種類によらず、事故はゼロなのが理想です。どんなに頑張って仕事をしても、どんなにマジメに仕事をしても、どんなに評価が高くても、今まで積み上げて来たもの全てが一度の事故で吹き飛びます。運転手のみなさん、最大限の努力をしながら、最大限の注意を払いながら運転をして、日々無事故で頑張りましょう。

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