不正車検を行って指定を取り消され、検査員の解任など自動車ディーラーの不祥事が続いている。全国各地で発生し、その都度、販売店側が発生原因として挙げる理由が、「人員不足」と「時間がなかった」のふたつだ。
整備士を取り巻く労働環境を変えることが、問題の解決につながるわけだが、問題の発生原因は取り除けていない。ユーザーとしても、現状が続けば、安心してクルマを整備に預け、乗ることができなくなる。
整備士不足と、現場で働く整備士の待遇改善が進まない理由はどこにあるのか。そのポイントを考えていく。
文/佐々木 亘、写真/AdobeStock(トップ画像=Shutter2U@AdobeStock)
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■本当に整備士の数は不足しているのか?
日本自動車整備振興会連合会によると、全国の整備士数は2021年に33万人あまりだった。約10年前と比較すると、数は4%ほど減少しているという。
若者が整備士を職業として目指さなくなった状況もある。
自動車整備士を目指すなら2級の取得を目指し、専門学校などに入るのが王道だ。全国48の整備士専門学校から成る全国自動車大学校・整備専門学校協会の調べでは、2020年度の入学者数は約6400人だった。2003年の1万2400人と比較すると、約半数に減っているのだ。
各地の自動車ディーラーでも、新人整備士の確保に余念がない。営業職の採用数に対して、2倍から3倍程度の新卒整備士を採用している。
実数としての整備士は数が減っており、若手の確保にディーラーは頭を悩ませているのだ。
■給与も待遇もよくならない理由
現場を取材していると、多数の不正車検などが明るみに出た今でも、待遇や業務内容は大きく変化していないと、整備士たちは口々に話す。仕事はキツイし、給料は安いと言われる自動車整備士。平均年収は399万円と全産業平均の433万円を大きく下回っている。
ディーラーでは、労働組合を通じての意見交換が行われているようだが、目立った効果は出ていない。一斉退職、あるいはストライキといった動きも見え隠れするが、こうした動きは実際に空振りに終わる可能性が高いだろう。
整備士の働く場所のなかでは、比較的給与などの条件がいいのがメーカーの看板を背負うディーラーだ。
例えば、ディーラー整備士たちが抗議の意味で、仕事をしないという選択をしたらどうなるだろうか。他事業所にいる整備士や、整備士の資格を持ちながら仕事をしていない人(潜在整備士)が、その仕事を変わって行うと思う。
同じような状況は介護士や看護師、保育士などにも言える。こちらも給与や待遇改善のために、退職というカードを切ったところで代わりが山ほど潜在している。整備士側の抵抗があっても、会社の事業継続に支障がないため、積極的に労働環境などの改善に取り組む必要がないのだ。
不足していると言われている整備士だが、なり手は多く、ディーラーでの雇用数は頭打ちだ。問題が起きている場所では、人員を増やすための積極的な動きは見られない。あれだけ世の中で騒がれても、介護・看護・保育、そして自動車整備の労働環境が変わらないのにはこうした背景がある。
■早い、安い、上手いが当たり前ではない
では、待遇改善には何が必要なのか。
まず、整備の売上によって自動車ディーラーの安定経営が約束されている現状を多くの人が理解し、整備士に還元することだ。
現在、自動車ディーラーの多くは、一般管理費(毎月の事業継続に必要なお金)を中古車の売上、保険や割賦の手数料、そして整備の売上でまかなう体制に変えている。なかでも整備売上が占める割合は大きい。
今の自動車ディーラーの経営は、新車利益に頼ったフロー型の経営ではなくなった。毎月の儲けが安定していて変わりにくい部門に一般管理費の支えを任せて、新車の売り上げをすべて利益にしようと考えるストック型の経営に変わったのだ。
これに伴い、営業マンへの報奨金はわかりやすくなった。会社としても、新車の売り上げ=会社の利益なので、営業マンに何%還元しようかという発想になりやすい。対して、会社の維持に組み込まれた整備の仕事に対しては利益還元という考え方が働きにくくなる。
基本給の部分では、ディーラーで働く整備士も営業マンも大きくは変わらない。ただ、報奨などの歩合部分が、給与の差を大きくする。会社の土台を支える整備士と、利益を生み出す(生み出しているように見える)営業マン。双方へ平等に利益が還元される仕組みをディーラーが作り出さなければならない。
そして整備士の待遇悪化は、我々ユーザーにも責任がある。自動車整備が当たり前に「手早く、高い技術で、安く提供される」と思い込んでいる節はないだろうか。
自分たちができないことを他人に頼み、それが質高く遂行されているのであれば、相応の時間やお金もかかる。私たちはこうした時間や技術に対して、充分な対価を当たり前に支払うという動きを見せなければならない。
同時に、整備士の方々にもお願いしたい。一般ユーザーが「これは」と驚くような、技術力をぜひ磨いていただきたい。
腕のいい仕事にはしっかりとした対価を支払うことが当たり前になる。何なら今すぐ独立しても「この人の整備を高いお金を払っても受けたい」とユーザーに思わせられるような整備士になってほしい。
優秀で有能な人には会社も相応の報酬を払い、引き留める動きが必要だ。腕のいい整備士は自身で独立し、腕一本で商売してもいいと思う。こうした流れが一般化すれば、いい人材を確保するために、ディーラーも待遇改善に動かざるを得なくなる。
筆者は、多くの整備士と一緒に仕事をしながら、大きな尊敬と憧れを持っていた。しかし、昨今では一部で自動車整備士を「もはや部品交換屋さん」「コンピューター繋ぎ屋さん」などと揶揄する声もある。
ぜひ、こうした声を吹き飛ばしてもらいたい。ともに働いてきたなかで、筆者は自動車整備士を「職人」だと思っている。
事の重大さに気づき、社会が動くのはもうしばらく先になるだろう。全国で働く自動車整備士の皆さん、この先の処遇改善にはご自身の判断と決断が必要となる。職人であり続けるために研鑽を続けながら、自身の価値を外へ伝える動きをして欲しい。
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投稿 これでは安心してクルマに乗れない! なぜ「整備士不足」は深刻に!? 疲弊する現場と低待遇改善のポイントを探る は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。