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制御不能に陥る前に!! 今一度見直すべき正しいエンジンブレーキの使い方

 クルマのスピードを落とすテクニックのひとつに「エンジンブレーキ」がある。マニュアルトランスミッション(MT)車が主流だった時代には基本的な技術とも言えたエンジンブレーキだが、オートマ全盛で、EV(電気自動車)も普及しつつある現在では、以前より注目を集めることが少なくなっている。

 静岡県小山町の「ふじあざみライン」で観光バスが横転し、27人が死傷した。この事故をうけ、国土交通省は観光バスの安全確保の徹底を求める通知を全国の事業者へ送った。事実確認と原因究明のほか、「下り坂でエンジンブレーキを活用すること」なども通知したという。

 そんな状況も鑑みて、今回は、安全運転にも重要な役割を果たすエンジンブレーキのことについて考えてみたい。アナタの乗っているクルマがオートマやEVであっても、エンジンブレーキのことを知っておいて損はない。

文/長谷川 敦、写真/日産、マツダ、メルセデス・ベンツ、写真AC、Newspress UK

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そもそもエンジンブレーキって何?

制御不能に陥る前に!! 今一度見直すべき正しいエンジンブレーキの使い方
アクセルをオフにした際のエンジンの抵抗を利用して減速を行うのがエンジンブレーキ。スピードが出ている場合は慣性も大きくエンジンブレーキが利きにくい

 「エンジンブレーキ」とは、エンジンの抵抗を利用してクルマを減速させることだ。通常の走行状態では、エンジンの回転数を減速装置(トランスミッション)を使って減速し、適切な速度に調整している。つまりこれはエンジンがタイヤを回しているということ。

 しかし、タイヤの回転がエンジンのそれを上回った場合、今度はタイヤに対してエンジンが抵抗となり、結果として走行スピードは落とされる。これがエンジンブレーキのしくみだ。走行中にアクセルをオフにすると思った以上に減速する場合があるが、これはエンジンブレーキが利いているから。

エンジンブレーキはいつ使う?

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写真のようにキツい下り坂でその先に急カーブがある場合、フットブレーキとエンジンブレーキを併用して安全なスピードまで落としてやる必要がある

 では、エンジンブレーキはどのような時に使うのだろうか?

 皆さんも、下り坂が連続する区間を走っている際に、路肩に「エンジンブレーキ使用」と書かれた看板があるのを見たことがあるだろう。この下り坂こそが最も多くエンジンブレーキを使用する場所だ。

 当然ながら、下り坂で適切に減速を行って安全にカーブを抜けるためにフットブレーキを利用する。ブレーキの利きに関してはフットブレーキのほうがエンジンブレーキより強く、確実な減速が行える。だが、このフットブレーキには弱点がある。

エンジンブレーキが必要な理由

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ブレーキペダルを踏むと車軸に装着されたブレーキが作動してクルマの減速→停止が行われる。これがいわゆるフットブレーキだが、それだけに頼るのは危険だ

 フットブレーキを連続して使用すると摩擦による発熱が大きくなり、ブレーキの利きが悪くなるフェード現象が発生する。また、フェード現象とは別に、ブレーキフルードが発熱してフルード内に気泡が発生し、この泡によってブレーキに油圧が伝わらなくなるベーパーロック現象が起きることもある。

 フェード現象やベーパーロック現象によって制動力の落ちたクルマで急な下り坂を走るのがいかに危険なことかは容易に想像できるだろう。

 そこでフットブレーキだけに頼らず、エンジンブレーキも併用することによって安全運転が可能になる。「エンジンブレーキ使用」の注意喚起があるのはこのため。

 エンジンブレーキが有効なのは下り坂だけではない。高速道路を走行中、前車との間隔が詰まった際にむやみにフットブレーキを多用してブレーキランプを点灯させると、後続車もこれにつられてブレーキを踏み、それが事故や渋滞の原因となることもある。こんな時にエンジンブレーキで適切な減速をすれば、トラブル防止になる。とはいえ、常に安全な車間距離をとって走っていれば、アクセルを少し緩めるだけでいいのだが……。

エンジンブレーキの使い方

制御不能に陥る前に!! 今一度見直すべき正しいエンジンブレーキの使い方
マニュアルトランスミッション車の場合は、素早くシフトダウンを行うことによってエンジンブレーキを利かせられる。だが、オートマ車ではそうもいかない

 ここからは実際にどうやってエンジンブレーキを利かせるのかを紹介していこう。

●オートマチックトランスミッション車

 現代の日本で最もポピュラーなのが“オートマ車”だが、オートマはシフトチェンジが自動的に行われ、走行中に使っているのはその速度域で最も高い(高速側)のギヤだ。このため減速しようとアクセルを戻してもそれほど大きく減速できない。

 そこで通常走行で選択しているDレンジよりも低速側の2(セカンド)や1(ロー)に切り替えればギヤ比が変更され、タイヤの回転数がエンジンよりも速くなってエンジンブレーキがかかる。だが、この場合は急減速しすぎてかえって危険な場合もあるので注意が必要だ。

 かつてのオートマ車にはO/D(オーバードライブ)ボタンが装備されていて、このボタンを押してオーバードライブを解除することでもエンジンブレーキをかけることができた。これは高速道路で巡航している際に、フットブレーキを踏まずに軽く減速したい時に便利だった。

 だが、技術の進化によってO/Dボタンを装備しないオートマ車が増え、現在この方法はできないケースが多い。

●CVT車

 段階的に変速を行うオートマに対して無段変速が可能なのがCVT。厳密に言うとCVTもオートマの一種ではあるが、ここでは違うものとして扱いたい。

 CVTでもエンジンブレーキを効かせることは可能だ。Dレンジでのアクセルオフでも減速が十分でない場合、「Sレンジ」を選べば減速比が変わってエンジンブレーキが可能になる。

 Sレンジの「S」は「スポーツモード」を意味し、Dレンジよりも加速特性を重視した変速比になる。つまりオートマのセカンドやローと同じように、Sレンジにすることでエンジンブレーキが利くようになる。

 車種によってはSレンジを装備していないものもあるが、その場合でもDレンジより低い変速比になるモードは装備されている。車種によってはこれを「B」や「M」と表記しているが、基本は同じものと考えていい。

●マニュアルトランスミッション車

 マニュアル車の場合は比較的簡単にエンジンブレーキを使える。これは現在選択しているギヤより1段低いものに落としてやればOKだ。もちろん変速の際にエンストさせてしまう可能性もあるが、マニュアル車に乗りなれている人であればこの心配は少ないはずだ。

 問題はマニュアル車が現在希少になっていること。実際、生涯に渡って一度もマニュアル車を経験しない人も増えていて、その意味ではエンジンブレーキ本来の効き方を体験できない(=使いこなせない)のは残念でもある。

●EVにおける“エンジンブレーキ”

 伝統的な内燃機関(エンジン)を持たないEV(電気自動車)も、フットブレーキだけに頼っていては急勾配の走行に対応できなくなる。もちろん、そんなことにならないように配慮されている。

 EV車の走行中にアクセルを戻すと、まるでエンジンブレーキがかかったかのようにグッと車速が落ちる。これはEVに搭載されている回生ブレーキによるものだ。

 回生ブレーキとは、車体の慣性を利用してアクセルオフ時にモーターを回して発電を行い、それをバッテリーに送って蓄電するシステムだ。エンジンで動くクルマでは減速時のエネルギーは熱となって放出されるだけだが、この回生ブレーキはエネルギーが再利用できるのが魅力。

 また、これまでエンジン車両での運転に慣れている人に向けて、アクセルオフの際に違和感のない減速を行うようプログラムされているEVも多い。こうした機能も擬似エンジンブレーキとして活用できる。

エンジンブレーキも使いすぎはよくない?

制御不能に陥る前に!! 今一度見直すべき正しいエンジンブレーキの使い方
日産が開発したアクティブエンジンブレーキは、走行状況に応じてCVTの減速比を変更してエンジンブレーキを利かせるというもの。写真はその体験乗車用車両

 フットブレーキを連続して使用すると、ベーパーロックやフェードなどの現象が起きてしまうことはすでに説明した。では、エンジンブレーキの多用には何か弊害があるのだろうか?

 結論から書くと、エンジンブレーキによってエンジンや車体にダメージが出ることはほぼない。マニュアル車の場合、無理なシフトダウンでエンジンの回転数を上げすぎたり、シフトミスでギヤボックスにダメージを与えてしまったりなどする可能性がないとは言えないが、これはきわめてレアなケースだろう。

 フットブレーキの負担を減らし、安全に減速を行うためにも、エンジンブレーキの適切な使い方を覚えておきたい。

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