昭和の昔、日本では「オート三輪」と呼ばれる三輪トラックが、その機動力を生かして独自の発展を遂げていた。しかし四輪トラックの普及(特に「軽トラ」の登場)により次第に姿を消して行き、今では博物館で見るのみだ。
そんな中、フランスのトラックメーカー、ルノー・トラックスがオート三輪を髣髴とさせるような電動三輪トラック(カーゴバイク)の製造を始めたという。車両を開発しているのは新興企業のクルースター社だが、ルノーの工場で製造し、ルノーのネットワークで販売する。
19世紀創業の老舗メーカーと、21世紀創業のスタートアップが、商用輸送の脱炭素化というミッションのために提携する。この協業によりルノー・トラックスの電動車両にラストマイル輸送用のソリューションが追加され、車両総重量で言うと650kgから44トンという広範なポートフォリオが完成した。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/Renault Trucks・ Kleuster・犬塚製作所
都市輸送の脱炭素化で一致
欧州の都市部では低排出ゾーン(LEZ)が拡大している。パリなどの大都市では、ゼロ・エミッション車以外は侵入できないゼロ排出ゾーン(ZEZ)も設定され、違反車には罰金が科せられる。
環境意識が高まるいっぽうで、ラストマイル輸送用の需要も急増しており、都市部の輸送の未来は、二酸化炭素を排出せず、機動力に富んだ輸送手段にかかっていることは間違いない。
こうした需要に応えるためクルースターが電動商用カーゴバイク「フリーゴン」(Freegones/”o”の上にサーカムフレックス)を開発し、発売したのが8年前の2014年だった。
同じく輸送の脱炭素化にコミットしているのがルノー・トラックスで、都市部の顧客向けに段階的に車両の電動化を進めてきた。そして2022年10月17日には、トラックでは入れない都市部の需要に応えるために、クルースターと提携し電動カーゴバイク事業への参入を発表したのだ。
両社の提携により専門知識、インフラ、製造能力などが共有され、ルノー・トラックスのベニシュー工場でフリーゴンを製造する。販売については、ルノーのネットワークを通じてフランス全土での販売が既に開始され、2023年からは欧州各国に拡大する。
フリーゴンの製造ラインは、ベニシュー工場内に新設された2100平方メートルの建屋に移管され、電動化で苦境に立たされる自動車メーカーの工場が地域経済の活性化にも寄与する。
この提携は、ルノー・トラックスの都市物流を強化するという方針を反映するとともに、同社の工場が未来志向の活動を行なえるように準備するという意味もある。ルノーは2022年の生産能力から、近いうちに5倍程度に増産することを見据えて製造チームを配置した。
相乗的・補完的なパートナーシップ
フリーゴンは、長年の研究とフィードバックにより開発されてきた製品で、主にラストマイル輸送の現場で使用される。ペダル付きの電動アシスト自転車+モジュラー式(交換可能な)荷台という成り立ちで、かつて日本で発展を遂げたオート三輪の現代版のような多目的車両だ。
フランスでは既に200台が走っており、中には発売直後から7年以上も愛用している人もいるそうで、信頼性と耐久性については折り紙つきだ。
クルースターの製品により電動車両のポートフォリオを補完することで、ルノー・トラックスは運送業にラストマイル輸送における効率的で革新的なソリューションを提供することを目指す。
欧州のトラックメーカーとしても、ここまで広範な電動車両のポートフォリオを持っているメーカーは他になく、貨物車モデルレンジのGVW(車両総重量)で言えば、650kgから44トンという範囲に電動車両を用意する。
また、ルノーのネットワークを通じて販売することで、得意先を共有することも提携の動機の一つとなっている。ルノー・トラックスは欧州大手のトラックメーカーとして各国で事業を行なっているので、クルースターは一流の販売・アフターサービスを最大限に活用できる。
いっぽうルノー・トラックスは、輸送チェーンの全体をカバーすることで、これまでは手の届かなかった潜在的な顧客を獲得する機会を得る。フリーゴンはトラックが停車してから先の荷物(ラストマイル)を受け持つ車両だからだ。
ルノー・トラックス社長のブルーノ・ブリン氏は次のようにコメントしている。
「電動カーゴバイクは都市部のお客様にとっては極めて重要なオプションです。なぜなら大都市には低排出ゾーン(LEZ)やゼロ排出ゾーン(ZEZ)があるからです。この提携を通じて、他のトラックメーカーとの差別化を図るとともに、現在そして将来のお客様のために、優れたソリューションを提供して参ります」
フリーゴンの信頼性・耐久性・経済性
フリーゴンの利点は道路、自転車専用レーン、歩道、そしてLEZ(ZEZを含む)にアクセスできるだけではない。小さい車体とその機動力により可能な限り配達先に近づくことができるので、物流の生産性向上も期待される。
航続距離は約80kmとなっており、その運搬コストの低さから、他の多目的車両よりコスト効率が高い。
また、同一車体(ボディ/シャシー)の荷台部分を5つのモジュールに換装できることが最大の特徴となっており、様々な用途に使用可能な汎用性を備える。モジュールは、ドライボックス(箱車)、冷凍ボックス、食品運搬、平ボディ、スキップ(ゴミ箱)の5つで、それぞれに特徴的な機能がある。
ドライボックスの積載量は、350kg(重量)/2立方メートル(容量)。冷凍ボックスはマイナス25度からプラス4度までの温度帯に対応し、カーゴバイクとしては唯一ATP認証を受けている。いっぽうスキップはダンプやコンテナなどへの荷下ろしを20秒で完了する。
こうしたモジュール化により様々な用途に適した多目的車両となっており、商品の集配送、郵便配達、個人商店での利用、廃棄物運搬、緑地管理とメンテナンス、フードデリバリーなどに対応する。
同社のCEOを務めるジェラール・テトゥ氏は次のように話している。
「ルノー・トラックスはクルースターにとって理想的なパートナーです。両社はともに人口の多い都市部で最も優れたモビリティソリューションを提供することを目指しています。この提携は両社に利益をもたらすとともに、環境目標の達成に貢献し、現在と未来のお客様のニーズにも合致するでしょう」。
投稿 オート三輪を思い出す!? ルノー・トラックスが多用途の電動三輪トラックの製造を開始 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。