710馬力のテックアートポルシェ911ターボSが顔の皮を引き剥がす。チューナーのテックアートは、ポルシェの万能車911ターボS用の「スモール」パワーステージを開発した。出来上がったモデルのドライビングパフォーマンスは、言葉を失い、少し怖くなるほどだった。
650馬力を誇る「911ターボS」のパフォーマンスではまだ足りないと言うスピードジャンキーに向けてチューナーのテックアートは、さらなるチューニングの可能性を見出し、カーボンボディキットやその他のチューニングパーツに加え、「992」世代のために様々なパフォーマンスレベルを開発した。ドイツでは現在、最大785馬力までが可能となっている。710馬力を発揮する最新作は、テックアートが「ターボS」チューニングの世界に参入したことを示すものだが、「ベーシック」や「捨て身」といった言葉とはまったく関係がない。テックアートの在るレオンベルグでチューニングした911を走らせてみた!
カーボン&ブルートリム一括
しかし、出発前に車の周りをざっと見てみた。テックアートは、フロント&リアエプロン、サイドスカート、フロントボンネット、ミラーキャップ、リアウィング、ウィング内のリアエアインテーク用パネルからなる完全なカーボンボディキットで「ターボS」に磨きをかけている。20/21インチの自社製フォーミュラVIアロイホイールがホイールアーチで回転する。そして、お好みに応じて、ホイールやボディキットにあらゆる色のトリムストリップを施すことが可能となっている。試乗車は、カーボンとグレーの塗装にぴったりなマイアミブルーのメイクアップを施していた。
インテリアには、クロスブレイス付きのロールバー、ブルーのアクセントが付いたスポーツステアリングホイール、ポルシェのカーボンシェルシートが採用されている。そして、テックアートでは、後者にブルーのチェッカー柄の座面を追加している。
加速度はこの世のものとは思えないほど
キーを回すと、3.7リッターツインターボボクサーのエンジンが目覚め、庭から走り出すのだ。ノーマルモードでは、テックアートは基本的に他の「ターボS」と同じように走る。スムーズなスロットルレスポンス、よく制御されたセラミックブレーキ、フラップを閉じて抑制されたスポーツエグゾーストが、街中を軽快に駆け抜ける。
ドライブモードスイッチをスポーツにすると、追加パワーを担うコントロールユニットが60馬力の追加パワーを解放し、トルクは800Nmから900Nmを発揮するようになる。その結果0-100km/h加速が2.7秒から2.6秒に、0-200km/h加速が8.9秒から8.1秒に短縮される。しかし、その走りは、読んで字のごとく千変万化の壮大さだ。キックダウン時に、全輪駆動がアスファルトに食い込む様子や、怒涛の加速は、まさにこの世のものとは思えないほどだ。エンジンはスロットルに対して極めてダイレクトで、まるでゴムバンドが常にフルテンションで張られていて、わずかなペダルの操作でそれが解かれるような感じだ。排気音とウェイストゲートの音とともに、ポルシェはカーブからカーブへとあなたを走らせる。
テックアート ターボSは高速道路が似合う
これでは、一般道はほとんど無理で、これは高速道路で使うべきものだ。言うは易し、行うは難し。高速A8線をカールスルーエ方面へ、制限速度無しで、駆け抜ける。頭蓋骨をヘッドレストに釘付けにし、顔の皮膚をリフトアップさせるのだ。高いギアでの中間スパートはとにかく楽だ。そして、もうひとつ印象的なのは、余分なパワーをクリーンかつコントロールしやすくしていることだ。深いターボラグがなく、重いキックが続くが、すべてのポジションで連続した圧力が得られる。トップレベル!
ペイントワークやトリムストリップは、テックアートで自由にコーディネートすることが可能だ。ボンネットラッチは今回の試乗車のみのスペシャル。
サスペンションとステアリングのバランスもよく、高速走行時でもコース上で安定した走りを実現している。何度も急減速しても、ブレーキが適切に制御してくれる。「テックアート ターボS」は、文字通り高速道路の王者だ。
価格は約30万ユーロ(約4,200万円)
帰路は再び通常モードに切り替える。シャーシは力強く減衰し、排気は抑制され、燃料消費量は顕著に減少する。日常生活での使い勝手?全く問題ない。「ターボS」にできないのは、安さだけだ。「911ターボS」の市場投入時の価格は217,000ユーロ(約3,038万円)弱だったが、現在は少なくとも231,183ユーロ(約3,236万円)となっている。テックアートは、チューニングパッケージに取り付けと車検取得を含めて、さらに70,000ユーロ(約980万円)を請求している。性能、部品の品質、開発労力を考えると、割増料金は正当なものだと思える。結局のところ、ポルシェを運転することは決して安くはないのだ。
Text: Moritz Doka
Photo: Techart