建設現場で働くトラックから、高速道路を使って建築資材を輸送するトラックまで、建設業界で活躍するトラックには様々な側面がある。そのためトラックに求められるものも多様だ。
車両の扱いやすさや堅牢性、パフォーマンス、効率などに加えて、このところ需要が高まっているのが環境性能だ。
ドイツ・ミュンヘンで2022年10月24日から30日まで開催された世界最大規模の建設機械の展示会「バウマ2022」で、ダイムラー・トラック・グループは「メルセデス・ベンツ」ブランドと三菱ふそうの「FUSO」ブランドから、建設セクター向けのCO2ニュートラルなトラックを大量に出展した。
特装車のボディはPTO(パワー・テイク・オフ)という装置を介して車両(エンジン)から動力を取り出している。バッテリー電気(BEV)トラック用にPTOが電動化されたことで、建設業界でBEVトラックの普及が加速しそうだ。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/ダイムラー・トラック
公開されたばかりの大型BEVトラックが特装車に
2022年9月に開催されたIAA2022で公開され、「トラック・イノベーション・アワード2023」を受賞したメルセデス・ベンツ・トラックスのBEV大型トラック「eアクトロス・ロングホール」が、世界最大規模の建設機械の見本市、バウマ2022にも登場した。
建機の展示会だけあって、ダンプなどの架装物を動かすために電動のPTO(パワー・テイク・オフ)を備える。eアクトロスの特装系トラック(単車)は、これまでZFの電動PTO「eワークス」を装備していたが、展示したのは連結車で欧州のダンプ大手、マイラー製のPTOを採用し、マイラー製のダンプトレーラを連結する。
車両(トラクタ)の走行用バッテリーから、電動PTOを介して油圧システムに動力を供給することで、油圧で動作するダンプやウォーキングフロアなどの架装物(ボディ)を動かすことができる。
これによりBEVトラック(トラクタ)においても、様々な特装トレーラが利用できるようになる。
マイラーとベンツが共同開発した電動PTOはインバーター、モーター、制御ユニットなどを一体化し、300Nmのトルクと58kWの出力を発揮する。公開されたのはプロトタイプであり、量産モデルでは出力を向上する予定だ。
ディーゼル車のPTOはエンジンから直接、またはトランスミッションを介して動力を取り出す仕組みだが、この電動PTOはBEVトラクタを駆動する高電圧ネットワーク(走行用バッテリー)から直流電流を取り出し、インバーターで交流に変換した上でPTOのモーターを回し、油圧ポンプを動かすことでトレーラ側に動力を伝える仕組みだ。
PTOの電動化にはCO2ニュートラルのほかに低騒音という利点もあり、特に人口の多い都市部の建設現場では需要が多そうだ。
キャブバックに搭載する電動PTOユニットはかなりコンパクトに仕上がっており、標準的なトレーラなら大抵の組み合わせが可能。建設用トラックには様々な架装(特装)があるので、従来のトレーラと電動トラクタを組み合わせられるという点も非常に大きな利点となる。
eアクトロス・ロングホールは2024年の量産開始が予定されている。LFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池を採用するバッテリーパックは、総容量が600kWhとなる。大型車用の1メガワット急速充電を使った場合、20-80%充電は30分未満で完了する。
現在は第1世代プロトタイプの試験・評価中で、来年には量産前の第2世代プロトタイプが登場する予定だ。
特装シャシー「アロクス」のBEVプロトタイプが登場
メルセデス・ベンツの「アロクス」トラックは建設業界向けに堅牢性と耐久性を高めた大型特装シャシー。こちらも間もなく電動化されるようで、バウマでは特装車メーカーのパウルグループと共同開発した「プロトタイプ・バッテリー電気アロクス」(以下、アロクスBEV)が公開された。
輸送用のBEVトラックでは電費効率や低床化・架装性で有利な電動アクスル(駆動軸にモーターなどを組み込んだもの)を採用する例が増えているが、パウルはアロクスBEVで中央モーター(セントラルドライブ方式=モーターからシャフトを介して車軸を駆動するもの)を選択した。
これは、オフロード・重量物用アクスルとして実績のあるアロクスのプラネタリーアクスルを継続使用するためと、建設現場での利用を想定してグラウンドクリアランスを確保する必要があったことが理由だ。
バウマで公開されたアロクスBEVは、8×4シャシーのリジッドトラックで、リープヘル・ミシュテクニク製電動ミキサー「ETM-905」を搭載していた。ミキサー車用のPTOは特殊なものを用いることが多いが、展示車両は架装物のミキサードラムまで電動化されているため、シンプルな構成となる。
ミキサー車は生コンクリートが固まらないように常に攪拌する必要があり、なかなかエンジンを止められない。電動化によるCO2削減効果が大きい特装車だ。
2023年にドイツ国内で少量販売を開始する予定のアロクスBEVは、60kWhのバッテリーパックを6~7個搭載する。その内、2~3個はキャブバックに、残りはシャシーに搭載し、150kWの充電機で20-80%充電は1.5時間とする。
販売するのはは3軸車及び4軸車で、架装はいずれもリープヘル製のミキサー、平ボディ、ダンプを予定している。
三菱ふそうの欧州向け「eキャンター」も世代交代
ダイムラー・トラックの子会社で、メルセデス・ベンツ・トラックスとは兄弟関係にある三菱ふそうもバウマ2022で、BEV小型トラック「eキャンター」の欧州仕様・建設業界向けモデルの展示を行なった。
出展されたeキャンターは車両総重量(GVW)8.55トンのトラックで、電動機械式PTOとドイツ・ウンシン社製のロールオフ・チッパー(ダンプ車の荷台部分=ベッセルを取り外し可能なトラック)を架装していた。ホールベース3400mmのコンフォート(2m幅)・シングルキャブで、積載量は3635kg。バッテリーパッケージは「M」だ。
よりサステナブルで経済的な運用を可能にするため、新世代のeキャンターには様々な改善が施された。中でも大きいのが車型の大幅な拡大だ。
前世代ではホイールベース3400mmのGVW7.49トン車が唯一の車型だった。今回はホイールベースは2500mmから4750mmの6種類となり、GVWは4.25トンから8.55トンの範囲をカバーする。モーター出力は110kWと129kWの2種類を用意する。
バッテリーはeアクトロス・ロングホールと同じく最新のLFP電池を採用し、S,M,Lの3種類のパッケージを用意した(選択可能なパッケージはホイールベースによって異なる)。
Sはバッテリー容量が41kWhで航続距離は70km、Mは同83kWh・140km、Lは同124kWh・200kmとなっている。ちなみに前世代のバッテリーオプションは81kWh容量(航続距離100km)のみだった。
衝突時の安全性のため、バッテリーはフレーム下の高剛性スチールブラケットに収めた。キャブはコンフォートキャブの他、1.7m幅のスタンダードも設定する。
新世代で大きく向上したのが汎用性だ。電動の機械式PTOをオプション設定したことで油圧が必要なボディを動かすことができるようになり、建設セクターが求める多様な特装車の設定が可能となった。
そのほかに、快適性と安全性のために多機能ステアリングやLEDヘッドライト、巻き込み防止や衝突被害軽減ブレーキなどのADASも標準搭載。また、衝突センサーが事故を検知すると走行用の高電圧ネットワークを停止するというBEVならではの機能も搭載する。
既に量産を開始しているeアクトロス300
コンセプトやプロトタイプではない市販のBEVトラックとしてはeアクトロス300のフックリフト(コンテナタイプの荷台をフックにより脱着可能なトラック)も出展された。
PTOにはZFの「eワークス」を採用し、フックリフトはマイラー製。eワークスもモーター、インバーター、制御ユニットなどを一体化した電動PTOだ。なおトラックと架装物の通信にはCAN-Busインターフェイスを使う。
電動PTOではエンジンやトランスミッションとの機械的な接続は不要になる。PTOによる動力を常時必要とするミキサー車とは異なり、脱着式のコンテナを荷台とするフックリフトでは、脱着時を除いて動力を必要としない。機械的な接続がないため、走行時の無駄なエネルギー消費が抑えられる。
既に量産を開始している大型BEVトラックであるeアクトロス300は、新世代のデジタルミラーや自動ブレーキ、巻き込み防止警報など、特装車に求められる安全装備も充実している。
eアクトロス+eワークスの組み合わせは、この他にパルフィンガーもスキップローダーを展示していた。
欧州で販売される「メルセデス・ベンツ」ブランドのトラックは、5台の内1台が建設業界向けだという。これは長距離輸送用に次いで2番目に大きなセグメントとなる。2030年までに欧州で販売するトラックの60%をCO2ニュートラルにするという目標を掲げる同社にとって、建設用トラックの電動化が極めて重要になっている。
BEVトラック用の電動PTOが相次いで登場したことで、建設セクター向けの特装車で電動化を阻んでいた障害が一つなくなった。欧州のみならず世界で電動特装車の勢いが加速しそうだ。
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