現地時間11月11日(金)から、フィギュアスケートのグランプリシリーズ第4戦イギリス大会が開幕する。
注目は、男子シングルの佐藤駿。ケガからの復帰後、初の国際大会となる。
シニアデビュー2年目の昨シーズン、グランプリシリーズ・アメリカ大会の前日練習中に左肩を強打し、左肩鎖関節脱臼という重傷を負った佐藤。
同大会では痛みをこらえながら4回転ジャンプを連発し、4位入賞を果たした。
その3週間後のフランス大会では1つのプログラムで4回転ルッツ、4回転フリップを決める日本勢初の快挙を達成。復調をアピールしたものの、12月の全日本選手権のフリーで転倒、再び肩を脱臼し、北京オリンピック出場を逃した。
CSテレ朝チャンネル2で放送された『フィギペディア』では、4月から明治大学に通う佐藤のインタビューを紹介している。
◆病室で観たオリンピック。ライバルの活躍に…
大学生となってからは、練習拠点がある埼玉と東京を往復する日々を過ごしている佐藤。
アイスアリーナがあるのは上尾市。埼玉と東京の“二重生活”はなかなかにハードだ。
「朝練があるときは終わってから大学へ行って講義を受けて、夜の練習にギリで間に合うか間に合わないかぐらい、という感じです。忙しい? うん、まぁ、はい(笑)」(佐藤)
「はい」とは言いつつも、辛さは微塵も感じさせない笑顔を見せた佐藤だが、ケガで思うような結果を残せなかった昨シーズンについては「悔しいシーズンだったかな」と率直な思いを口にする。
「でも自分的には4回転ルッツも安定してきたり、フリップも採り入れましたし。その点については良くも悪くもないシーズンだったかなと思います」(佐藤)
技術的な進化をしっかりと感じていたものの、今シーズンに間に合わせたいという思いから今年2月には左肩を手術。北京オリンピックは病室でのテレビ観戦だったという。
「(銀メダルを獲得した同期の鍵山優真は)表彰台に乗るだろうとは思っていました。演技を見ていてすごいなと。オリンピックも身近なものに感じられましたし、僕も4年後に出たいという気持ちも強くなりました」(佐藤)
◆リハビリを経て復活する4回転ジャンプ
身近に感じるようになったオリンピックを目指し、リハビリを開始した佐藤。
しかし、氷に乗れない日々が1カ月以上も続き、リンクに戻ってもジャンプの練習ができず、腕を固定しての基礎的なスケート練習が続いた。
「医師からは転んではダメだと。転んでまた脱臼すると3、4カ月は(スケートが)できなくなるからとりあえず3カ月は我慢してと言われました。それでも、さすがにスケーティングでは転ばないと思うからいいよ、と言われたのでスケーティングの練習をずっとやっていました。ジャンプは戻るのかなという不安はありましたね」(佐藤)
ジャンプの本格練習が始まったのは手術から3カ月以上が経過した6月。
その間にも衰えた基礎体力を取り戻すため、サーキットトレーニングに取り組む。7月には全日本シニアの合宿に参加した。
その合宿ではトリプルアクセル、4回転トウループを跳べるまでに回復。9月には肩の痛みもなくなったという。
そんな佐藤について織田信成は、「手術をしてどこまで4回転ジャンプが戻っているのか気になる」と心配する一方、4回転ジャンプを数多く入れる難易度の高いプログラムも「彼(佐藤)だったら絶対できると思っていますし、ファイナルに残るだけのポテンシャルは全然ある」と太鼓判を押している。
ケガをしたことがプラスに作用する可能性がある、と話すのは荒川静香だ。
「ケガをすると、氷上で行ってきたことができずに陸上でのトレーニングを採り入れるようになる。その分、体もできあがるし、視点も変えてスケートに向き合い、いい効果も生まれたりする」という。
織田自身も過去に腕を骨折し、滑ることができなくなったときに筋力トレーニングなどを行い、「(氷上に)戻ったときに跳べなかった3回転が戻って、1週間で跳べるようになった」と認めている。
4回転ルッツも跳べるようになった佐藤は、手術を乗り越えた今、グランプリシーズ初戦となるイギリス大会に照準を合わせている。
「今年からオリンピックの選考会がはじまっていると思って、すべての試合で気を抜かずに全力を出せるようにしたいですね」(佐藤)
グランプリシリーズから2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季オリンピックへ。ケガの苦しみを味わった佐藤の新たな一歩がはじまろうとしている。