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 ベストカーWebでこれまで複数回記事にしてきた「新車購入のためにお金を払ったのに、長くて2年以上納車されないどころか発注すらされていなかった」という事件に、動きがあった。長野県長野市内で25年以上の歴史を持つ自動車販売店「デュナミスレーシング」の元経営者による「新車詐欺」的な事件だ。事件発覚から約10か月、元経営者の小谷徹氏は、2022年10月25日、埼玉県内の老人ホームから連行され、詐欺容疑で逮捕された。その後11月16日に詐欺罪で起訴に至っている。

文/加藤久美子、写真/被害者の皆さま、加藤久美子

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■デュナミス・レーシングの巨額納車詐欺事件とは?

 筆者のもとに「長野市内の自動車販売店で新車の代金を払ったのに納車されない人が100名以上いる」という情報が入ったのは今年(2022年)1月6日のことだった。

「年末から急に社長と連絡が取れなくなった」
「あれだけ毎日来ていた営業メッセージのLINEが年末から突然途絶えた」

 不安げな表情のお客さんが大勢、店の前で様子をうかがっているという。

長野市内のクルマ好きにはそれなりに名前が通っていた「デュナミスレーシング」。新車販売だけでなく、タイヤやエアロパーツ販売、整備やチューニングなども手掛けていた

 被害は新車購入の費用を払った客だけではない。10年以上前からつい最近まで「社長にお金を貸して戻ってきていない」というケースもかなりの数、存在する。1~2年前からは取引先に対してもお金を無心するLINEメッセージが頻繁に届くようになった。様々なところからお金を借りていたのだろう。自身が区長を務めていた更北地区や境区の関係者に対しても、お金を無心していたという。

「クルマを売る際、信頼を得るために区長をやっていました。区長としての仕事はほとんどせず、大きな声を出して『やった感』を出す人でした。もちろん区長手当てはしっかり自分の懐に入れていましたよ」(被害者の知人)

小谷氏から送られてきたLINEの画像。口座番号が記入された、銀行の借入書類が写っている(被害者提供画)

 上掲画像のように、自身の(会社の)口座番号を記した用紙(銀行に向けた借入書類の一部)の写真を多数の知人、仕事の関係者にLINEで送っていたという。日付は2021年6月だ。

 なお、銀行借入書類画像の下には、
・明日昼までに200万円貸してほしい
・3週間後に220万円にして返す
・小谷のミスです。
・最初で最後のお願いです。どうかよろしく
 このようなことが記されている。いったいどれだけのお金を集めたのか。

 デュナミス・レーシングは日産ディーラーのトップセールスだった小谷被告が1995年に立ち上げた店だ。かつてはクルマ好きの若者たちが大勢集まるにぎやかなお店だった。

 暗転し始めたのは約10年前のことである。大きなきっかけは小谷被告が市議会議員の選挙に出て落選したことで、選挙で多額のお金を使ったから、という説が濃厚。

 複数の被害者の話によると、

「10年ちょっと前までは整備士も5人いてドリフト仕様のクルマなどレベルが高かったです。DRのステッカーは一つのステイタスでもありました。小谷社長も話の輪に加わって楽しそうにしていましたね。でも、選挙で大敗してから一気に雰囲気が変わってしまいました」

■転売禁止のハイエースやランドクルーザーなどを海外に輸出

 商売のほうで大きな打撃となったのは、トヨタ・ハイエースとランドクルーザーの輸出失敗である。

 小谷氏の店に出入りしていた卸業者が話をしてくれた。

「デュナミス・レーシングへの卸担当でした。私自身はなんの被害もありませんでしたが、社長はいつもお金がないと言っていましたね。デスクの前には常時、納車を待つお客様の注文書がずらりと貼ってありました。大量の注文書を前に社長は『次の納車までにいくら用意しなきゃ』などといつも言っていました」

「4年くらい前でしょうかね。小谷社長はマレーシアなど東南アジア向けのハイエース輸出で失敗した経験があります。当時、私に『トヨタのセールスを誰か知らないか』と聞いてきたので理由を聞いたら、『ハイエースをたくさん注文して東南アジアに輸出したい』とのことでした。『成功したら借金が全部返せる!』とも。結局、うまくいかなかった。途中でほぼ全滅。多額の借金だけが残ったのです」

デュナミスレーシングは北陸信越運輸局から認証工場の承認を得ていた

 別の被害者はこう話す。

「新車では長野トヨタにばれてすぐダメになったようですが、それまで何度か中古のハイエースやランクルを輸出していましたね。その時はかなり儲かっているはずですよ。中古車を国内の輸出業者に売っていました。『それ(新車を転売して海外に輸出すること)違法じゃないの?』って聞いたこともありました。そしたら社長は『正規輸出だから問題ない』って。結局、輸出事業に失敗したあとは、『騙された!』と怒っていました。誰に騙されていたのかは不明です」 

 小谷被告は転売禁止のはずの新車のハイエースやランドクルーザーを輸出業者へ転売していたことが発覚し、長野県内のトヨタディーラーからは「出入り禁止」にされてしまった。

■トヨタ以外も長野県内のディーラーからは相手にされず…

 もちろん「出入り禁止」になった理由は不正な転売が発覚しただけではない。すでに、このころ(2018~2019年)から業販で新車の販売契約をしたものの、トヨタ以外でもディーラーへの支払いが遅れることが増えていた。

 ディーラーの責任者が立ち会って誓約書を書かせたケースも複数ある。そんなこんなで長野県内の自動車ディーラーにはもう相手にされなくなっていたため、小谷被告は近隣の新潟、埼玉、そして東京などのディーラーに取引を持ち掛けるようになった。

 ドイツ製SUVを購入するために代金のおよそ半額となる731万円をデュナミス・レーシングの口座に入れた関西在住のKさんの例も、実にひどい話である。Kさんはほかに国産ミニバン数台など合計3000万円を2021年10月に入金している。ドイツ製SUVは新潟県内の輸入車ディーラーに発注されていた。

「遠方ですし、納車までの期間も長いので正規ディーラーの営業マンXさんを付けますね。安心してください」

 と、小谷被告から言われたKさん。営業X氏とも話をすることができ、安心して入金したのだが…。

 小谷被告の口座に入金して間もなく、小谷→ディーラーにちゃんと入金されているか不安になったKさんは営業X氏に電話をする。

「731万円を入金したのですが、小谷社長から御社への入金は完了していますよね?」

 と尋ねると、営業X氏は「はい。振り込まれています」と答えた。名のある正規ディーラーの営業マンがこのように答えれば当然、信用するだろう。ちなみにこの時、Kさんは録音もしている。

現金一括で買ったのになぜか所有者はディーラー名の車検証。クルマは信頼できるお店で買いましょう……

■あまりにも無責任な大手輸入車ディーラー営業の態度

 ところが約3か月後の2022年1月6日に小谷被告の夜逃げが発覚。Kさん夫妻が改めて営業X氏に電話をして入金を確認したところ…、

「振り込まれていると思いますが…、確認します」と言って電話を切り、その後、X氏から驚く返答が来た

「お金は振り込まれていませんでした」

 え? え?

 昨年入金した10月の時点では「731万円は入金されている」と言ったはず。なぜなのか?

 以下、筆者がX氏と直接電話で話した際の、X氏の言い分である。

「昨年9月に発注を受け、その後10月に小谷社長から『これから入金します』と電話がありました。『ありがとうございます』と言って電話を切った。その直後にKさんから入金確認の電話があったので、確認せずに『入金されています』と答えました。これは自分の落ち度です。小谷社長の言葉を信じて、入金されていると思い込んでいました。クルマは確かに注文を受けています。納車まで2~3年かかる特殊なクルマなので手付ナシでも注文を受けています」

 輸入車ディーラーとしては老舗中の老舗。そこの営業が731万円という高額の入金に対して確認もせず「入金されています」などというものだろうか? しかも、その後も調べることなく今年1月に事件が発覚し、Kさんに聞かれてやっと「振り込まれていなかった」ことを確認している。

 X氏によると、デュナミスレーシングとの取引はKさんのSUVが初だという。

 納車まで時間が掛かるクルマの場合、県外からの注文も結構あるのでとくに不審に思わなかったとのこと。あまりにも無責任ではないか。

 先日、小谷氏の逮捕を受けて久しぶりにKさんに連絡をしたが、その後も営業X氏からはお詫びも含めてまったくなんの連絡もないそうだ。

デュナミスレーシング社長の小谷徹(おたにとおる)氏。2022年11月16日に詐欺罪で起訴された

 2022年11月16日付『信濃毎日新聞』の報道によると、警察は近く、別の被害者の件で小谷被告を再逮捕する方針を明らかにしたという。

「納車する気もない、発注すらしていないのにお金を振り込ませてだまし取った」という詐欺の意思について小谷被告は否認しているという。つまり、お金をだまし取るつもりはなかったといいたいのだろう。

 30年以上の付き合いがある被害者たちに、各々数百万円を振り込ませて2年以上も納車しない。このせいで人生が大きく変わった被害者も少なくない。だますつもりはなかった? であれば、小谷社長を信じて納車を待ち続けてきた人たちに少しでも返金し、誠意を見せるべきではないだろうか。

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