教習所で最初にやる実技といえば、運転シミュレーター。運転する際の手順や基本的な操作を覚えるためだが、担当が通った30年前の機械は本当に簡単なもので、ブラウン管には簡素な映像が再生されて、エンジン始動、ATレバーとサイドブレーキ、アクセルやブレーキの操作を覚えるだけのものだった。
しかし、最近ではドライビングゲームに使われるような3D技術などによって、極めてリアルな映像体験ができるという。その進化の歴史を振り返ろう。
文/齊藤優太、写真/PhotoAC、Adobe Stock(トップ画像=auremar@Adobe Stock)
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■よりリアルになった運転シミュレーター
運転シミュレーターは、座面の高さや背もたれの角度が調整できるシート、ステアリング、シフトレバー、ハンドブレーキ(四輪車の場合)、モニター、操作パネルやプリンターなどの周辺機器で構成されている模擬運転装置です。
これらの装置は、運転シミュレーターが登場した当初から現代までほぼ変わっていません。
過去と現代で大きく変わったのは、モニターの解像度やリアリティです。かつての運転シミュレーターは、運転している景色をモニターに映し出すだけのタイプが多く、臨場感がありませんでした。
しかし、近年のシミュレーターは、モニター内にダッシュボードやピラーなどが映り込み、運転席に座っているかのような臨場感があるだけでなく、立体感がある映像によって実際に運転しているような感覚に近くなっています。
また、近年の車に多く採用されているプッシュ式のスタート&ストップシステムや電動パーキングブレーキを装備したシミュレーターもあります。
運転シミュレーターは、ブラウン管時代のテレビゲームのような平面的な映像から立体的な映像に変わったり、車の構造による死角も考慮したものになったりするなど、時代と共に進化しているといえるでしょう。
■運転シミュレーターの歴史
運転シミュレーターは三菱や日立など、さまざまなメーカーから販売されています。各メーカーはいつ頃から運転シミュレーターを製造し始めたのでしょうか。
三菱プレシジョンは、1987年に警察庁の指導のもと開発に着手し、90年代初頭に「DS-5000」をリリースしています。日立は、1993年に教習用四輪運転シミュレーターを開発し、1994年に型式認定を取得しました。
また、二輪車や四輪車などのメーカーとしても知られる「ホンダ」や、ゲーム機などの製造をしている「SEGA」も運転シミュレーターを販売しています。
現在、さまざまなメーカーから販売されている運転シミュレーターは、映像や装備の進化などにより、実際の運転に近い感覚のシミュレーターとなっているのです。
■新旧のシミュレーターを使った感想
かつて筆者が勤めていた教習所では、古いシミュレーターから新しいシミュレーターへの入れ替えるタイミングがありました。シミュレーターを入れ替える時に、以前使っていたシミュレーターと新しいシミュレーターにどのような違いがあるのか比べることができたので、そのときの率直な感想をお伝えします。
過去に使っていたシミュレーターは、臨場感がなく運転の操作が体験できるゲーム機のようでした。一方、新しいシミュレーターは、映像の臨場感が増し、運転席から見る景色に近いものになっていましたが、映像酔いしそうな立体映像だと感じました。
映像酔いしそうだという嫌な予感は見事に的中し、シミュレーションの映像で気持ち悪くなってしまう教習生もいました。
(この感想はかつて勤務していたときの話となるため、現在では映像酔いしにくいシミュレーターに変わっているかもしれません)
■シミュレーターでの教習について
運転シミュレーターでできる教習は、運転装置の扱い方や基本的な操作、危険を予測した運転、高速道路での運転、急ブレーキなど、教程の一部のみとなっています。そのため、全教程を運転シミュレーターで行うことはできません。
ただし、シミュレーター教習は、実際に車を動かすことがないため、教習生の精神的負担が少ないといえるでしょう。
実車での教習は、車を動かしたり公道を走行したりするため、教習生の多くが緊張状態になります。一方、シミュレーターでの教習は、実際に車を走らせることがないため、緊張状態になりにくく、リラックスして運転したり冷静な判断ができたりするケースが多いです。
また、シミュレーターで事故になったとしても「あぁ、やっちゃった」だけで済みます。しかし、シミュレーターでの事故が実際の道路だった場合、大きな責任を負わなければなりません。
このように、運転シミュレーターによる教習は、教習生の精神的負担が軽減されるというメリットと責任意識が薄れてしまうというデメリットの両面があるといえるでしょう。
■シミュレーター教習は注意点を学ぶきっかけにすぎない
運転シミュレーターによる教習は、運転の基本操作や代表的なヒヤリハットなどをシミュレーターで体験する教習です。そのため、実際に運転するときに気を付けるべきポイントや注意点などを学ぶのには適しているでしょう。
また、危険を予測した運転をシミュレーター行うときは、危険があることを前提にスタートするため、危険な場面が来そうな予感がしたり、ヒヤリハットの場面で「やっぱりな」となったりすることがほとんどです。よって、シミュレーター教習で事故になることは多くありません。
しかし、実際の道路では予想できない動きをする人・自転車・バイク・車がいます。また、運転者も車を動かすことに必死になったり他のことに気を取られてしまったりするなど、危険があるという前提を忘れてしまうケースが多いです。
運転シミュレーターで学んだ注意点や目配りなどを実際の運転に活かせなければ、シミュレーター教習は無意味になってしまいます。
そのため、運転シミュレーターを使った教習や講習を受けるときは、シミュレーターで体験した内容を実際の運転にどのように活かすのか考えながら受講することが大切だといえるでしょう。
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投稿 まるでテレビゲーム!! 酔うほどに進化した教習所のシミュレーター は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。