【編集部より】世界的なインフレ、少子高齢化で年々重くなる社会保険料に加えてニュースは連日増税の話題ばかり。日本はこのまま「夢のない国」になってしまうのではないか…この連載(月1回)では、自由主義経済学者の蔵研也さんがありきたりな増税論を喝破します。第1回は富裕層への増税論に象徴される「金融所得課税」を取り上げます。
税負担率の「1億円の壁」
日本の所得税の建前では、日本は累進課税制度をとっており、高所得者ほど高い税率が課されるということになっている。しかし、実際の納税率は、そうなっていない。
下の図は財務省説明資料で報告されたものだ。ご覧のように所得が1億円の場合は28.8%の税負担率だが、それよりも高所得の場合には負担率が次第に低下し、100億円をこえる所得がある場合には15.9%にまで低下する。この図が1億円を境にした壁のように見えることが、この状況が「1億円の壁」の問題と呼ばれる理由である。岸田総理は当初の政策目標において、こうした「不公平」の解消を掲げていた。
申告納税者の所得税負担率
富裕層の負担の増加
どうしてこうした負担率になっているのかといえば、所得税が複数の種類に分かれて課税されているからだ。
給与所得の場合、4000万円をこえると最大で55%の税がかかるが、株式の譲渡益や配当金に対する税率は、その収入額にかかわらず一律で20.315%である(以下20%と扱うことにする)。そして、1億をこえるような高額所得層においては、収入額が上がるにつれて株式の譲渡益や配当金の割合が高くなる。そのため、年収額が上がるに従って、かえって税負担率が下がるという現象が起こるのである。
例えば、東洋経済新報社によると、孫正義氏の収入は給与所得が1億円だが、配当所得は202億円である。彼は41億円ほど納税しているはずだが、税負担率は21%に満たない。あるいは柳井正氏は給与報酬が4億円で、配当所得は110億ほどだ。およそ24億円の納税額は、同じく21%になっていない。 多くの労働者は彼らよりはるかに低い所得額で、30%の社会保障料といういう税を負担し、さらに20%、30%という高率の給与所得税を負担している。不公平だと感じられるのは当然だろう。
富裕層に増税をしても…
こうした納税状況を解消する改革としては、3つの方法がある。