菅義偉前首相のブレーンとしても知られる経済論客のデービッド・アトキンソン氏と、減税派のインフルエンサー、渡瀬裕哉氏がこの週末、ツイッターを舞台に論争を繰り広げた。
アトキンソン氏といえば、菅政権時代に政府の成長戦略会議のメンバーに名を連ねたことも。一方で持論の中小企業再編について、伝統的な保守勢力、リベラル双方の不興を買い、竹中平蔵氏と共に「新自由主義者」として批判の矢面に立たされることも少なくなかった。
一見すると、MMTとリフレなどを批判するアトキンソン氏は、規制改革を唱える保守自由主義の減税派と親和性がありそうだが、実はツイッターでは減税派の考えに対しても批判的だ。「減税は雇用を増やす効果があっても、賃金を上げる効果なし」などと何度か否定的な投稿をしていた。
そして減税派の「真打」渡瀬氏と衝突したきっかけはアトキンソン氏の25日の投稿。「政府支出を増やして、経済は成長すると断言する人は、知識が浅い、知ったかぶりに近いことを言っているだけ」と積極財政を批判した際に、「実際は、政府支出の金額ではなくて、政府支出の中身次第に、経済成長に貢献するかどうかが決まる。 だからこそ、私は、単純な積極財政ではなくて、『生産的政府支出』の増加を主張している」と述べた。
生産的政府支出は、マクロ経済学者のロバート・バロー氏(ハーバード大学教授)が1990年に提唱。長期的な経済発展と経済成長理論を結びつけた「内生的成長理論」の一つで、民間企業の生産性を高めるような経済成長をめざす政府支出を言う。アトキンソン氏は近年、この考えを日本のリブートを積極的に論じるようになり、東洋経済などの経済メディアでも紹介されている。
しかし、このアトキンソン氏の考えに、渡瀬氏は真っ向から異論を投げかけた。
渡瀬氏は「生産的政府支出先を政府は判断できないので、減税したら良いんですよ。 政府は間違った判断をしても修正しませんが、民間は新陳代謝によって修正されます」と問題点を指摘。さらに「日本政府は税支出の経済効果も、規制の経済効果もマトモに算出していないダメな政府なので、生産的政府支出か否かを形式的にも判断する能力がありません」などと論じた。
これに対し、アトキンソン氏が「減税は効果が小さい」と再反論すると、渡瀬氏は「日本政府が生産的政府支出とやらができる根拠を教えてください」と追及。生産的政府支出について「空想」と厳しく論じたのに対し、アトキンソン氏は「全てを空想にしてしまうのが極端すぎます」などと反発した。
渡瀬氏はSAKISIRUの取材に対し、生産的政府支出について「移転収支以外の財政政策を生産的なものに区分する字面だけの官僚的な発想。本当にその支出が生産的である根拠にはならない。定義の仕方では、誰が見ても何の意味もない穴掘り仕事ですら生産的政府支出に入り得る」と全否定。アトキンソン氏に対して「政府が生産的政府支出を特定し実行できる理論的根拠を示すべき」と改めて注文した。
他方、アトキンソン氏は東洋経済のインタビューでは「日本の『生産的政府支出』はGDPに対して約10%しかなく、先進国平均の24.4%、途上国の20.3%に比べても大幅に低い水準です。これが日本の経済が成長しない原因の1つ」との見方を示し、日本が生産的政府支出の導入することで「生産性の向上につながり、法人税も所得税も消費税も増え、財政の赤字が縮小します」などと展望を語っている。