小型のコミュニティバスとしておなじみなのは日野ポンチョ。その一方でEVバスの中国BYD社製J6が目立ってきた。
じつは愛知県常滑市で少し変わった運営方式でこのJ6が走り始めたのだ。新たにの走り始めたJ6の本務車は6台あり色違いだ。撮影も兼ねて乗車したのでレポートする。
文/写真:東出真
編集:古川智規(バスマガジン編集部)
そもそも常滑ってどこだっけ?
愛知県は知多半島にある常滑市。焼き物の街と知られ、市内には「やきもの散歩道」という以前は300本を超えるレンガ造りの煙突や陶器工場があったエリアにカフェ、ギャラリーや陶芸体験のできる施設など新たな観光スポットが誕生した。
また対岸には中部国際空港(セントレア)が2005年から運用されていて、中部地域の玄関口となった街である。そして10月から新しいコミュニティバス「Gruun(グルーン)」が運行を開始した。
常滑市は空港の他に、一部の方は競艇場「ボートレースとこなめ」を思い浮かべるかもしれない。旅打ち(旅行しながら公営競技を楽しむスタイル)で利用した方もいるかもしれないが、かつては市内各地とボートレースとこなめを結ぶ送迎バス、いわゆるファンバスが運行されていた。昨今の世情により一部が廃止されていたのだが、10月1日から運行を再開した。
運行再開を検討をするにあたり、市内で運行をしていた常滑市運行の北部バス、知多乗合(知多バス)運行の常滑南部線も包括する形で路線を再編することとなったという。そのため一部で重複する区間を、今回取り上げるファンバスに一本化することになった。
あくまでボートレースとこなめのファンバスという形での運行なので、事業主体はボートレース事業局である。そして実際のバス運行は知多乗合が担当する。
ここで「ボートレース関連で6台?」とピンときた方は察しがいい。後述するが6台のカラーはボートレースの6艇の色と一致している。
EVコミュニティバスとしてデビュー!
注目すべきはその車両にある。常滑市が掲げる「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」を目指す「とこなめゼロカーボンシティ宣言」の実現に向けた取り組みとして、電気バス6台を導入し運行することになった。
愛知県の公共交通機関では初導入だ。基本運行を行う6台に予備車を加えた8台一括導入も全国的にも珍しい大量導入だ。
バスはBYD(ビーワイディージャパン株式会社)の小型電気バスJ6都市型2で、乗車定員は29人。充電時間は約3時間で200kmの走行が可能である(乗車率65%、エアコン利用なしの場合) また充電設備はボートレースとこなめの他、市役所や知多バス車庫にも設置されている。
なお「グルーン」という名称は、ボートレース場の複合施設化(ボートレースパーク化)事業の1つとしてボートレースとこなめの隣に建設された「コミュニティパーク グルーンとこなめ」にちなみ「コミュニティバス グルーン」となったそうだ。
そして競艇場の送迎バスの多くがそうであるように、当面の間は無料で乗車することができる。とはいえ競艇場とは無関係の路線も多くあり、これはコミュニティバスの新しい運営方法なのかもしれない。
初見は3号艇?
まず北部を走るバスを撮影した。農協北部センターバス停で待っていると赤いカラーのバスがやってきた。これがこの10月から運行が始まったコミュニティバス「グルーン」である。
カラーは6色あり、これは前述のとおりボートレースの6艇にちなみ決まったのだという。すなわち白が1号艇、黒が2号艇、赤が3号艇、青が4号艇、黄が5号艇、緑が6号艇という具合だ。
駐車場に入ってきたバスは乗降客がいなかったため、ターンマークでまくり一発を決める…ほどではないが、ぐるっと転回して大野町駅方面へと出て行った。
しばらくして来たバスは、当地が始発となるためしばらく停車の後、市民病院方面へと出発していった。ディーゼル車では最も音が大きくなるのは発進時だが、J6の起動音はとても静かで、さすがEVバスだと感心した。
なお、これら異なるカラーのバスは、行き先の違う別の路線なのだが、バスのカラーと運行系統は一致しているわけではない。
これはバスの充電時間を確保するためで、1台で異なるな路線を走ることで走行距離や充電時間帯を調整するようだ。よって、カラーが決まった行き先の目印ではないので、利用する際には注意したい。
常滑駅は多くの路線が集まる!
次は常滑市役所と常滑市民病院を訪れた。どちらも真新しい建物が出迎えてくれた。市民病院は2015年5月に、市役所は2022年1月に新しい建物に切り替わった。
バス停名は「常滑市役所・市民病院」となっており、停留所は市民病院の入口に近い場所に設置されていて、病院の利用者に配慮したのがうかがえる。なお乗車日は休日だったので乗降する人はほとんどいなかった。
次は常滑駅前のバスターミナルに行ってみた。高架駅なので、バスの待ち時間に名鉄電車がひっきりなしに走っていく姿を見ることができる。
ここには市役所・市民病院からの路線のほか、市南部からの2路線やボートレースとこなめやイオンモール常滑を巡回する路線も乗り入れているため、カラフルなバスを眺めることができる。筆者もこの巡回するバスに乗車してみた。
乗り心地や静粛性
車内は外観からのイメージより広めに感じた他、座席サイズはやや小さめなものの、しっかりと座ることができた。
特徴的なのは、このバスがボートレースファンバスという位置付けなので、運賃が無料であり運賃箱がないことだ。よって入口や出口付近は非常にすっきりした印象だった。
時間になりバスは常滑駅を出発した。まずはボートレースとこなめへと向かう。乗車時間はわずか3分と短い。できればここで下車して運賃代わりに舟券でも……となればよかったのだが、あいにく当日はレースが行われておらず、周辺もがらんとしていたので、引き続き乗車することにした。
ちなみに車内はとても静かで、会話はもちろん携帯やカメラの電子音まで運転手に聞こえるのではないかと思うくらいの静粛性だった。
次のイオンモール常滑は駐車場が有料なのでゲートが設置されている。チケットを受け取るのかと思って見ていると、機械の下の方にインターホンがあり、そこで事務所と連絡することにより、ゲートを上げて通過した。ただし、運転席の位置が若干高いため、インターホンの呼び出しボタンに手が届かない。
そこで用意されていたのが、運転席の横に置かれていた「棒」である。恐らく自作されたものであろうが、これを伸ばしてボタンを押して会話していた。試運転の際に試行錯誤しつつ、いろいろな棒で試したのではないかと想像できる。最新のEVバスで見た意外なアナログな部分だった。
イオンモール常滑に到着したので下車した。停留所は店舗とは少し遠いようにも思えたが、ボートレース事業局としてはボートレース場の「モーヴィとこなめ」、イオンモールの「きゅりお」、セントレアの「フライト・オブ・ドリームス」という親子向けの3施設での連携した取組みで、エリアとしてPRを目指しているとのことで、その観点では「きゅりお」の入口に近い当地が選ばれたのではないかと察する。
セントレアにも無料で行ける??
ちなみにこのイオンモールには、さらに無料バスに乗り換えることにより橋の向こうの中部国際空港(セントレア)に行くことも可能だ。現在は日曜日のみの運行だが、他の曜日も運転再開となれば気軽に遊びに行くことも可能だろう。
再び次のバスに乗り、常滑駅へと戻る。途中にはウィンボとこなめという外向発売所があり、ここは多くのファンで賑わっていた。常滑駅までは約9分で、この路線は1周してもわずか15分という短い路線であるが、どのバスもたくさん乗車しているように思えた。
以上がコミュニティバス「グルーン」の乗車レポートである。競艇事業の会計からファンバスにコミュニティバスを包括して運行するアイデアは前代未聞のウルトラCなのかもしれない。常滑市は常滑と蒲郡の2場でレースを主催している。
公営競技の主催自治体と競技場が同一自治体内にないと難しい方式だが、一般会計ではなく企業会計(モーターボート競走事業)で運営することにより自治体の負担を小さくし、地域住民と公営競技場とのウィンウィンの関係が構築されることに本方式の意義がある。
まだ10月からスタートしたばかりであり、これからどのように運行されていくのかは未知数ながらも、当面は無料で運行されるので、市内の観光スポットを巡ったり単純な移動に活用したりと、知多半島への観光や常滑に出向いた際にはカラフルなJ6をぜひ探して乗ってみてはいかがだろうか。
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