2022.11.02
Honda×茨城県常総市の「AIまちづくり」技術実証実験が地方の未来を変える?
#技術は人のために
#人間中心
この7月に人工知能(AI)や自動運転などの最新技術を活用する「AIまちづくりへ向けた技術実証実験に関する協定」を締結したHondaの研究開発子会社である株式会社 本田技術研究所と茨城県常総市。
11月からは、いよいよ常総市内で技術実証実験が始まります。両者が模索している「AIまちづくり」は、日々の暮らしをどのように変えていくのでしょうか。技術開発を進める(株)本田技術研究所(以下、Honda) 先進技術研究所 知能化領域 エグゼクティブチーフエンジニアの安井裕司と常総市の神達岳志市長の2人に語り合ってもらいました。
Index
- 「移動」と「暮らし」の進化を支えるマイクロモビリティ
- なぜHonda×常総市なのか
- 2030年以降の地方はどんな姿に
(株)本田技術研究所 先進技術研究所 知能化領域
エグゼクティブチーフエンジニア
安井裕司
1994年Honda入社。協調人工知能を用いた自動運転・運転支援技術プロジェクトの開発責任者。次世代モビリティの知能化研究における技術統括業務にも従事する。
常総市市長
神達岳志
1969年、茨城県水海道市(現・常総市)生まれ。住宅メーカー勤務、茨城県議会議員などを経て、2016年7月に常総市長選挙に出馬し初当選。現在2期目を務める。
「移動」と「暮らし」の進化を支えるマイクロモビリティ
――Hondaは今、「すべての人に、『生活の可能性が拡がる喜び』を提供する―世界中の一人ひとりの『移動』と『暮らし』の進化をリードする―」というステートメントで表される“2030年ビジョン”を達成するためにさまざまな取り組みを進めています。現在、常総市と取り組んでいる「AIまちづくり」に向けた技術実証実験もその一環。AIや自動運転といった最新技術を用いたモビリティによって住みやすいまちや新しい仕事を生み出そうとしています。
安井今回、常総市さんと進める「AIまちづくり」の技術実証実験は実を言うと、実用化に長い年月を要する新技術が必要なため、Hondaの2030年ビジョンを達成することはもちろん、2030年以降の新しい世界を実現するために行っているものなんです。我々が掲げる「『移動』と『暮らし』の進化」というキーワードの重要性は、2030年以降も継続していくはずだと思っています。
神達これは常総市だけというよりは全国的な問題なのですが、交通の利便性がいいまちに人口が集中してきて、それ以外は過疎化してきているのが現状ですよね。
この11月から始まる「AIまちづくり」に向けた技術実証実験について話し合う神達市長(左)と安井(右)
安井「『移動』と『暮らし』の進化」を具現化していくためには、モビリティを使った移動だけではなく、歩くことも重要なんです。健康寿命を延ばすためには、歩くことってすごく大切ですし、普段クルマで通っていた道を歩いてみると新たな発見をしたりすることもありますよね。これまで
Hondaはモビリティカンパニーとして二輪車、四輪車、航空機の開発をしてきましたが、人の“歩き”の価値に着目した開発は行っていませんでした。そこで手掛けたのが、協調人工知能(Cooperative Intelligence:CI)を使ったマイクロモビリティです。
今回の実証実験の中心となる、行きたいところまでちょい乗りできる搭乗型マイクロモビリティ「CiKoMa(サイコマ)」や、荷物を運んでくれて歩きを楽しめるマイクロモビリティロボット「WaPOCHI(ワポチ)」のようなものがあると、高齢者は外出しやすくなるんじゃないでしょうか。この11月から、まさにそのCiKoMaとWaPOCHIの実用化に向けて、常総市内の施設をお借りして実際に走行させる実験を始めたところです。
自宅から目的地までちょい乗りできる「CiKoMa」
歩行時に付き添い、荷物などを運んでくれる「WaPOCHI」
神達常総市がある北関東地方はクルマ社会なので、
高齢者が免許を自主返納すると移動手段の確保が難しくなり、家にこもりがちになるってコミュニケーションが不足する、体調も崩してしまう、という悪循環がここ10~20年くらいずっとありました。この課題を解決するために予約制の乗り合いタクシーを実施したりコミュニティバスを計画したりとしてきましたが、やはりそれだけでは限界があると感じていましたので、今回のお話は非常にありがたいですね。
一方で、実は常総市では20~30代の市外への流出は多いのですが、40~50代になると両親の介護や先祖代々の土地を守るためといった理由で戻ってきてくれる人も多いのです。常総市には、東京都心まで電車やクルマで1時間程度という立地なので通勤もできるし、遊びにも行けるというメリットがある。高齢者だけではなく、若い世代にとっても魅力があるまちづくりを行うことも大切だと感じています。
安井からWaPOCHIについての説明を受ける神達市長
安井ジェネレーションZ(Z世代)と呼ばれる若い世代を見ていて感じるのは、彼らはインターネットネイティブでありながら実際に体験することも大切にしているということですね。「歩く」という行動も楽しんでいる。多分
彼らがこの後30~40代になって社会の中心を担うようになっても、そういう意識は変わらないのではないでしょうか。
すると彼らが結婚して子どもが生まれたとき、ベビーカーを押しながら荷物を持って歩くのは大変ですよね。CiKoMaとWaPOCHIは荷物を持ちながら「ちょっとそこまで移動したい」「歩きたい」場合にサポートしてくれるので、「『移動』と『暮らし』の進化」をそこでも一つ実現させられると思います。
なぜHonda×常総市なのか
――Hondaが自治体と手を組み共同で技術実証実験を行うのは、AI、自動運転を活用したマイクロモビリティの領域では初めてのことです。なぜHondaは常総市を選んだのでしょうか。
安井常総市さんには元々「アグリサイエンスバレー構想」という農業に関する施策がありまして、そのエリア内の移動に自動運転技術を活用したいという要望があった。乗用車の自動運転技術の研究を行っていましたので、いつかその構想に貢献できないかと思っていました。
「土が死んでしまうので、有機栽培では大きなトラックが使えないんです」と話す安井
神達「アグリサイエンスバレー構想」とは、農作物を育てる第1次産業としての農業だけではなく、加工・製造といった第2次産業、販売などの第3次産業も掛け合わせた「第6次産業」としての農業拠点を作ることで、地域を活性化させようというもの。これまで農業には進出していなかったような大手企業も、常総市で農業を行うための会社を作って参画してくれているんですよ。
安井Hondaは、自動運転技術やAIを単なる移動だけでなく、より広い人々の生活の場、第6次産業へ活用していきたいというアイデアがあり、このご縁もありましたが、決め手となったのはやはり市民の方々への信頼感ですね。協調人工知能(CI)を用いた自動運転技術のテストは、廃校になった自動車教習所のコースをお借りして2019年から始めたのですが、自動車教習所だけに周囲からは丸見えで(笑)。でも、スクープ写真のようなものを撮影されて拡散されたことが一度もなかったんですよ。むしろテストを眺めながら、怪しい人物が来ていないかチェックしてくれている。こうした信頼の置ける人たちと一緒に進めたいと思ったのが大きかったですね。
神達私としては、お話をいただいた際は「はい、喜んで!」の一言でした(笑)。
安井
神達市長のリーダーシップも素晴らしいんですよ。このコロナ禍の中で少し感染者が増えれば、自主的に店舗への営業時間の短縮要請を東京に匹敵する規模でされている。感染者が減ってくれば、またすぐに元に戻す。そういうことを素早く行っていて、市民の皆さんもそれにちゃんと追従している。すごいなと思います。
神達常総市は2015年9月の豪雨による水害で、(市の3分の1が浸水するほどの)大きな被害を受けました。そこから私が市長になり、職員と一緒に市民との連帯感を強めて「防災まちづくり」を進めてきたんです。「みんなでつくる常総市」というのを掲げてやってきているのが大きいのかもしれません。
「水害がなければ、市長に立候補せず今も県議を続けていたと思います」と神達市長
安井まれに見る団結力がありますよね。都心からの距離も近くて場所もいいので、研究メンバーとは「ここで実証実験をやったら何か面白いことが起こせるんじゃないか」とよく話していましたね。
2030年以降の地方はどんな姿に
――Hondaと常総市がその可能性を模索している「AIまちづくり」は、他とは違った大きな特徴があります。それは、新たなまちを一からつくるのではなく、今あるまちにAIや知能化マイクロモビリティを導入することで活性化させる「レトロフィット型のアプローチ」で進められていることです。
安井Hondaは、「世界中の人々が」「すべての人が」というようなこだわりが強いんです。そうなると、特別なまちをつくってそこの人たちだけが便利で幸せになれるというのは、Hondaのポリシーじゃない。慣れ親しんだまちに利便性を加えられる技術にすれば、常総市だけでなく、より広くまちの人々に幸せを提供できる。そういう想いを持っています。
神達どの地域にもそこならではの宝というのがあると思います。そういうものを活かしつつ不便なものを課題として捉えて便利にしていく。「ないものねだり」ではなく「あるものを活かす」まちづくりというのは、私の信念でもあります。
常総市にそびえる豊田城から田園風景を眺め、まちの未来について話し合う2人
安井元々住んでいる人には受け入れてもらいやすいでしょうし、今ある生活をブーストアップしていけるというメリットがあります。ただ、新しいまちを一からつくった場合は専用レーンを用意してよりイージーに自動運転というサービスを実現できる可能はある。
今あるまちを活かそうとすると、交差点の構造も複雑だし道路の幅も広くないところがあるし、より高度な技術が必要とされるのが課題です。しかし、より多くの人の喜びを実現するため、Hondaは難しいかもしれないが今あるまちを活かせるアプローチにチャレンジすべきと思っています。
ただ、私たちの協調人工知能(CI)を用いた知能化モビリティは、カメラ画像を基にAIによって周囲の環境をリアルタイムで理解しながら走る。AIはデータをいっぱい学習させることによって、精度を上げられるんです。地元住民の方々に協力してもらいより多くの学習データをつくり、それを用いてAIを学習させて自動走行できるエリアを広げていくというスパイラルアップができれば、地元の方にとってもそれが新たな仕事となり、収入になる。子育てしながら空いた時間にデータ入力をしてもらえばいいわけですから。地域に貢献しながらみんなで盛り上がっていけるこのモデルなら、2030年以降の技術が完成した後、常総市以外の全国、いや世界に水平展開していけるんじゃないかと期待しています。
神達
時代の変化を先取りする自治体として、市民も一緒になりながらそこに参画していって次の時代の先駆けになれれば、シビックプライド、地元への誇りにつながっていきます。そこを目指していきたいですね。
詳しい技術や機能については、
「自由な移動の喜び」を一人ひとりが実感できる社会の実現を目指した「Honda CI マイクロモビリティ」
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詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
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