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 トヨタ自動車の北米事業統括組織・トヨタ モーター ノース アメリカ(以下、北米トヨタ)と、米国のトラックメーカー、ケンワースは燃料電池トラックによる輸送プロジェクトの完了を発表した。

 プロジェクトは、ロサンゼルス港を中心としたドレージ輸送(台車=トレーラを船で運び、陸上輸送をトラクタで行なう輸送)を、ゼロ・エミッションの燃料電池トラックにより代替できることを証明するという目的で行なわれていた。

 北米トヨタとケンワースが共同開発したトラックは、ディーゼル車と同等の性能を示し、プロジェクトは成功裏に完了、燃料電池技術がほかの地域や輸送分野へも波及する可能性を示した。ちなみにトヨタは2023年より米国で燃料電池パワートレーンを製造する計画を持っている。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/Toyota Motor Sales, U.S.A., Inc.


FCEV大型トラックの実証に成功

 北米トヨタと米国の大手トラックメーカー、ケンワース・トラック・カンパニーは2022年9月22日、燃料電池(FC)EV大型トラックの実証プロジェクトが完了したと発表した。

 プロジェクトは米国カリフォルニア州のロサンゼルス港から同州南部のインランド・エンパイアで行われたもので、港湾を中心としたドレージ輸送において、ゼロ・エミッションのFCEVトラックがディーゼル車の代替になりうると証明することが目的だ。

 もともとはカリフォルニア州の環境当局(CARB)の「ゼロないしほぼゼロ・エミッションの輸送用機器」(ZANZEFF)という大型プロジェクトの一環で、「海岸からお店まで」(ショア・トゥ・ストア)を担っていた。

 北米トヨタとケンワースが共同開発したクラス8(米国のトラック区分で最も重いクラス)大型FCEVトラックはディーゼル車と変わらないパフォーマンスを示し、ゼロ・エミッショントラックでドレージ輸送を代替できることを証明した。

 両社はこのプロジェクトの目標として「ディーゼル車と同等の性能を発揮しながらCO2を排出しない、持続可能な大型トラックによる輸送ソリューションの提供」を掲げている。プロジェクトは成功したといっていいだろう。

トヨタ・ケンワースのFCEVトラック

 「オーシャン」というコードネームが名付けられたこのFCEVトラックは、ケンワースの大型トラック「T680」をベース車としている。ディーゼルエンジンのT680(2017年当時のモデル)は、ドレージ輸送において一日に約200マイル(約322km)ほどを走行していた。

 オーシャンは連結総重量8万2000ポンド(約37トン)のフルロードで、1充填あたり300マイル(約480km)以上の航続距離を誇る。もちろん、電気自動車のようにシフト間に充電のためのダウンタイムを挟むこともない。水素の充填にかかる時間は15から20分程だ。

 ケンワースはクラス8トラックのシャシを、北米トヨタは水素を燃料とする燃料電池パワートレーンを設計した。このFCEVが一日に複数回のシフトをこなし、平均すると毎日400から500マイル(650~800km)を走った。

 実際に製造されたのは10台で、運送会社など顧客の下で実運用を行なった。ベースとなったディーゼル車とオーシャントラックを比較すると、1台当たり年間で74.66トンの温室効果ガス削減効果があったという。

 オーシャントラックの運用を行ったのは、トヨタ・ロジスティクス・サービス、トータル・トランスポート、サザン・カントリーズ・エクスプレスなどの運送会社だ。

 プロジェクトのメンバーはケンワースと北米トヨタだけではなく、プロジェクトリーダーであるロサンゼルス港湾当局、水素インフラを担ったシェル、助成金を拠出したCARBなども含まれる。プロジェクトが成功した理由は、それぞれのメンバーが緊密に連携したこととしている。

 このプロジェクトは8月5日に正式に終了したが、10台のトラックのうち何台かは、今もデモンストレーションモデルとして、または実動モデルとして働き続けている。その内の一台は、トヨタ自身がロサンゼルスでの事業に使用している。

ほかの輸送分野への波及に期待

 ZANZEFF全体が2022年中に終了する見込みとなっている。「ショア・トゥ・ストア」プロジェクトはトヨタ・ケンワース・シェルが提案し、CARBが4100万ドルを拠出している。この資金は州のイニシアチブであるカリフォルニア環境投資によるもの。

 基金は数十億ドル規模の資金供給と投資を通じて、温室効果ガスの削減と経済の強靭化、住民の健康増進、環境保護を目指している。

 FCEVトラックを使った今回のプロジェクトは、同様のコンセプト実証のテストケースとしては最大規模のもので、水素燃料電池技術の実践的な運用の可能性を示すため、将来の貨物輸送の「港からお店まで」全体の枠組みを想定したスケールで行なった。

 なお、ロサンゼルス港は北米のコンテナ取扱港の中でも最も忙しい港湾で、港内だけで働くクルマも含めて中型~大型のトラックが多く集まっている。

 これらのトラックは、カリフォルニア州の全車両のうち3%を占めるに過ぎないが、重量物を扱う大型車が多く、州内の道路輸送における温室効果ガス排出量の23%を占めている。ロサンゼルス港がドレージ輸送を2035年までにゼロ・エミッションに移行すると表明したのはこうした背景がある。

 州は移行を支援するために「クリーン・トラック基金」を設立しており、事業者にとってこの地域はFCEV大型トラックのデモンストレーションを行なうのに最適な場所となった。

 ロサンゼルス港のエグゼクティブ・ディレクターであるジーン・セロカ氏は次のように話している。

 「トヨタやケンワースのようなOEMメーカーとコラボレーションすることは、次世代の新技術を市場に投入するためには重要なステップです。また、支援してくださったCARBにも感謝しています。今後も、ロサンゼルス港でゼロ・エミッションのトラックが増えて行くことを楽しみにしています」。

 いっぽうシェルはこのプロジェクトを通じて3か所の水素ステーションを建設し、カリフォルニアで初めての大型トラックに水素を供給するプロバイダーとなった。これらの水素ステーションは、ドレージ輸送中に日常的に使用されFCEVの運用を支えた。

 シェルで北米の水素モビリティ事業を統括するワイン・レイティ氏は次のように語った。

 「カリフォルニア州が水素による商用輸送の素晴らしいユースケースを提供してくれたことと、ZANZEFFプロジェクトが成功したことを嬉しく思っています。民間企業と公共部門の連携は、大型車のゼロ・エミッションを推進するために不可欠です。CARBとロサンゼルス港、ZANZEFFのメンバーによるサポートに感謝します」。

 このプログラムを通じて、カリフォルニア州内外でのFCEVトラックの開発と商用化への道が開かれるとともに、プロジェクトが成功裏に完了したことにより、この技術がほかの輸送分野に受け入れられる準備も整いつつあるようだ。

 なおトヨタは米国ケンタッキー州で、2023年からトラック用燃料電池パワートレーンモジュールの製造を開始する計画だ。

燃料電池トラックの可能性を証明! 北米トヨタとケンワースのプロジェクトが成功裏に完了
トヨタがケンタッキー工場(TMMK)で2023年より製造を開始する予定のトラック用燃料電池モジュール

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