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ノア、N-BOX、86、ハスラー… 先代と外見瓜二つの「静かな変革」 キープコンセプトの是々非々

 フルモデルチェンジしても外見は前モデルと瓜二つ。そんなキープコンセプトした現行車たちにスポットライトをあて、キープコンセプトの判断は正しかったのか間違いだったのか。「是々非々検証」を行ってみた!

※本稿は2022年10月のものです
文/渡辺陽一郎、片岡英明、ベストカー編集部、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年11月10日号

【画像ギャラリー】分かりやすい変化だけが進歩するってことなのかい!? キープコンセプトという名の「進化」を見よ!!(22枚)画像ギャラリー


■トヨタ ノア

 ミニバンは最大級の室内を確保する必要がある。そこで天井は高く、ボンネットは短く、ピラーの角度は立てる。そうなるとフルモデルチェンジで外観を大きく変えるのは難しい。アルファードもフロントマスクは刷新したが、それ以外の変化は乏しい。ミニバンのモデルチェンジは、必然的にキープコンセプトだ。

 ノアでは先代型の販売も好調で、現行型への乗り換え需要も継承したい。そこでデザインや基本的な使い勝手には継続性を持たせた。その一方で、先進装備には力を入れた。

トヨタ ノア。現行型は3ナンバーサイズに。キープコンセプトしつつ、顔は従来型より派手になった

 渋滞時に手を離しても運転支援が続くアドバンストドライブ、車外から車庫入れを操作できるアドバンストパークは、クラウンクロスオーバーでは上級のRSのみにオプション設定したが、ノアはX以外の全車に装着できる。従来ユーザーが「新型に乗り換えたい」と思えるように配慮した。(TEXT/渡辺陽一郎)

●トヨタ 先代ノア 年別月販平均台数
・2014年:5657台
・2015年:4227台
・2016年:4193台
・2017年:4560台
・2018年:4727台
・2019年:4019台
・2020年:3786台
・2021年:3017台

●トヨタ 現行ノア 年別月販平均台数
・2022年:4035台

■結論…「ナイスキープ」!!

■ダイハツ ムーヴキャンバス

 先代ムーヴキャンバスは、2016年に1か月の販売目標を5000台に設定して発売されたが、その後の売れゆきは好調だ。コロナ禍になる前の2019年まで、販売目標を余裕で達成している。このようなクルマは珍しい。

先代とほぼ同じデザインをしている現行ムーヴキャンバス。現行型も堅調に売れるだろう

 先代型が人気を得た秘訣は、柔和な外観、適度な全高、スライドドアの装着にあった。そこで現行型もこの要素をすべて継承したから、キープコンセプトになっている。必然の成り行きだ。(TEXT/渡辺陽一郎)

●ダイハツ 先代ムーヴキャンバス 年別月販平均台数
・2016年:2421台
・2017年:6394台
・2018年:6194台
・2019年:5707台
・2020年:4765台
・2021年:4862台

●ダイハツ 現行ムーヴキャンバス年別月販平均台数
・2022年:3788台

結論…「ナイスキープ」!!

■ホンダ N-BOX

 かつてのホンダ車は、フルモデルチェンジでコンセプトを大きく変えることが多かったが、最近はキープコンセプトが目立つ。その代表がN-BOXだ。先代型が大ヒットして、この特徴を継承するフルモデルチェンジを実施した。

 「先代型が好調に売れたから失敗を恐れて変えられない」事情もあるが、それだけではない。軽自動車は生活のツールだから、使い慣れると、ユーザーも大きな変化を希望しないのだ。

現行型はコンパクトカーの需要まで奪う存在に。キープコンセプトのお手本的存在に

 使い慣れた調理器具の形状が頻繁に変わったら困るだろう。これと似たことが軽自動車にも当てはまる。

 ただし漠然と従来型を踏襲したわけでもない。現行型が好調に売れることは充分に予想できたから、内装の造り、乗り心地、静粛性、安全装備など、上質感や安心感を高める部分には、高いコストを費やして確実に向上させている。(TEXT/渡辺陽一郎)

●ホンダ 先代N-BOX 年別月販平均台数
・2013年:1万9583台
・2014年:1万4994台
・2015年:1万5410台
・2016年:1万5531台
・2017年:1万8207台

●ホンダ 現行N-BOX 年別月販平均台数
・2018年:2万156台
・2019年:2万1125台
・2020年:1万6332台
・2021年:1万5745台
・2022年:1万7293台

結論…「ナイスキープ」!!

■ホンダ N-ONE

 ホンダN-ONEは2代目でプラットフォームを一新したが、ボディパネルやガラスなどは先代のものを引き継いだ。フロントマスクなどのデザインは変えているが、ちょっと見では新型か旧型かわかりづらい。

 先代の後半より販売台数は伸びている。だが、地味なデザインで、登場から丸3年になるN-WGNや商用のN-VANより売れていないのは、エクステリアに新鮮味がないからではないか!?

先代からデザインはほぼ変わらないが、ホンダセンシングなど最新装備を搭載、進化した

 ボディ外板に同じパーツを用いてカネをかけなかったのだから、違うフロントマスクを用意してもよかったように思う。N-ONEは男っぽい顔立ちのデザインだからカワイイ系の顔やクラシックマスクがあれば、違う層のユーザーを獲得でき、販売台数を上乗せできただろう。

 販売の4割は安価な「オリジナル」が占めているのだから、顔違いのN-ONEの投入はアリだ。(TEXT/片岡英明)

●ホンダ 先代N-ONE 年別月販平均台数
・2013年:8965台
・2014年:2905台
・2015年:1902台
・2016年:1438台
・2017年:1088台
・2018年:1363台
・2019年:1289台
・2020年:530台

●ホンダ 現行N-ONE 年別月販平均台数
・2021年:1744台
・2022年:1813台

結論…オシイ!! ギリギリ「非」です!!

■トヨタ GR86

 エクステリアはキープコンセプトだが、初代より洗練されたデザインになり、見栄えもよくなっている。フロントビューは精悍なルックスになった。リアビューも目を引くデザインだ。

 パワーユニットも排気量を400cc拡大したからパンチが増し、扱いやすくもなった。低回転域からパワーとトルクが盛り上がり、余裕を感じる。6速MTと6速ATも、変速する楽しみが大幅に増した。

排気量アップによるパワーアップなど、先代で挙がっていた不満を解消した現行GR86

 また、ボディ剛性の強化やサスペンションの見直しなどにより、自慢のハンドリング性能に磨きがかかっている。先代以上にGR86とBRZの味つけを変えたことも好印象だ。選択の幅が増えた。

 この先は細部をリファインし、さらに操る楽しさを増す方向に持っていってほしい。エンジンをダウンサイジングするなど、買いやすいエントリーモデルがあってもいいかな。(TEXT/片岡英明)

●トヨタ 先代86 年別月販平均台数
・2013年:1034台
・2014年:682台
・2015年:557台
・2016年:547台
・2017年:597台
・2018年:412台
・2019年:386台
・2020年:328台

●トヨタ 現行GR86 年別月販平均台数
・2021年:1017台
・2022年:1367台

結論…「ナイスキープ」!!

■スズキ ハスラー

 全高が1600mmを上まわる軽自動車だが、外観をSUV風に仕上げ、荷室には水洗いの可能な処理も施した。

 2014年に発売された先代型は、実用的な背の高い軽自動車とSUVという、2つの人気カテゴリーを融合させて人気車になった。2020年にタフトが登場するまでライバル車が実質不在。好調な売れゆきを保った。

スズキ ハスラー。ライバルのタフトが現われたが好調な売れゆきを見せる現行型。ナイスキープである

 外観が個性的だから古さも感じなかったが、安全装備や燃費性能は進化させねばならない。そこで2020年1月に現行型を発売した。丸型ヘッドランプと直線基調のボディ、高めのルーフに特徴があるから、現行型の変化の度合いは小さい。

 それでもボディ側面のウィンドウを3分割するなど質感を高めた。運転支援機能の採用も含めて、従来型のユーザーが新型に乗り換えたくなる要素が豊富だ。(TEXT/渡辺陽一郎)

●スズキ 先代ハスラー 年別月販平均台数
・2014年:8686台
・2015年:7963台
・2016年:7147台
・2017年:6050台
・2018年:5441台
・2019年:4820台

●スズキ 現行ハスラー 年別月販平均台数
・2020年:6676台
・2021年:6874台
・2022年:5673台

結論…「ナイスキープ」!!

■トヨタ パッソ

 全高が3700mm以下のコンパクトカーで、外観に丸みを持たせ、柔和で運転のしやすい雰囲気がある。サイドウィンドウの下端を低く抑えて視界も抜群にいいが、操舵感は曖昧で走行安定性も不満だ。乗り心地には粗さが伴う。クルマとしての基本性能が低い。

 現行パッソは、コンセプトと併せて、先代型の欠点まで受け継いだ。「街中で乗るクルマだから、価格が安ければ、走りはこんなモンでいいでしょう」という割り切りがあり、それはユーザーにも伝わる。したがって販売も下降気味だ。

現行型トヨタ パッソ

結論…ざんねん!!! 失敗です!!

■マツダ CX-5

 大ヒットした初代CX-5と似たデザインだが、一段とスポーティなルックスに生まれ変わり、インテリアの質感も座り心地もよくなった。また、きめ細かい改良と熟成によってディーゼルターボも耐久信頼性を高めている。サスペンションも巧みに練り込むなど、その進化は大きい。

 リアシートも座り心地がよくなり、荷室も積載能力を高めている。商品性向上が功を奏してか、デビューから6年を経っても販売は落ち込んでいない。真価が問われるのは次に出る3代目だろう。

現行型マツダ CX-5

結論…ナイスキープ!!

■まとめ

 先代モデルの人気が高い場合、基本的にはキープコンセプトをメーカーは選択するし、ユーザーもキープコンセプトを求めるということがわかる。軽自動車市場は比較的変化を求める人が少ないためキープコンセプトが多い傾向があるようだ。

 SUVブームのなかで、クラウンですら大胆な方向転換を決めた。今後フルモデルチェンジが予想されるプリウスなどの人気車種は果たしてキープコンセプトするのか、それともコンセプトチェンジを行うのか。メーカーそして開発者の手腕が問われる。

キープコンセプトで大ヒットした新型フェアレディZ。中身がしっかり進化することがキープコンセプト成功の秘訣だ

【番外コラム01】キープコンセプトなクラウン

 9月1日に発売された新型クラウンは先代から大きく変化した。クラウン初のFF化、クロスオーバーやスポーツ、セダン、SUVと4つのボディタイプを揃えるなど、クラウン史上最大の変化と言ってよい。

 しかし、変革と挑戦こそがクラウンであると考えると、これも「キープコンセプト」と言えるのではないか。豊田章男社長が初試乗後に「これ、クラウンだね」と言ったように、新型クラウンは大きく変化してもクラウンらしさをみごとに受け継いでいるようで、魂はキープコンセプトと言えるだろう。(TEXT/編集部)

【番外コラム02】大幅コンセプトチェンジで成功したクルマ・失敗したクルマ

先代三菱 デリカD:5

 三菱のデリカスペースギアはアウトドアレジャー好きを魅了したものの、販売はそれなりだった。流れが変わるのは2007年のモデルチェンジだ。車名を「デリカD:5」と変え、乗用車用プラットフォームを採用するとともにボクシーなルックスに変身。

ボクシーにコンセプトチェンジしたことで三菱の主力になったデリカD:5

 また、アウトランダーから電子制御4WDなどのメカニズムを譲り受け、走りを大幅に洗練させることに成功した。ロングヒットを飛ばし、登場から12年目にフェイスリフトを敢行。ディーゼル車だけに絞ったら再び人気上昇するなど、三菱にとっては救世主とも言える売れっ子である。

 車名とデザインを変え、先代のイメージを消して大成功を収めたクルマの代表が、ダイハツの新世代ロッキーとトヨタの兄弟車、ライズだ。RAV4の弟分のイメージで売り、大ヒットを飛ばした。

先代ホンダ インサイト

 失敗して信用を失ったのはホンダのインサイトだ。ハイブリッド車の先駆けとして登場し、プリウスと張り合った先代はそれなりの実績を残している。美しいセダンボディの3代目は、ホンダが意気込んで送り出した。が、シビックe:HEVが登場するや低迷を理由に販売終了。ファンの期待を裏切る結果に!!(TEXT/片岡英明)

4ドアハッチからセダンへとコンセプトチェンジしたが、販売は低調に終わった

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