【編集部より】自民党・松川るい参議院議員が、本音の「外交リアリズム論」を語るシリーズ、最終回は「戦闘機を買うなら、その分、保育園を作るべきだ」などのありがちな言説の盲点について喝破していきます。(3回シリーズの最終回)
戦闘機も保育園も両方必要
――「外交か、軍事か」という二項対立が問題であるというお話を伺ってきたのですが、さらには予算配分などで「軍事か、福祉か」という二項対立もあります。防衛費増額というと「戦闘機1機買うなら、その分、保育園を作るべきだ」という声が上がるのも珍しくありません。
【松川】その気持ちは、2人の娘を保育園に預けながら育ててきた私にもよく分かりますが、国には戦闘機も保育園も両方必要。安全保障の破綻も、少子化の進行も、どちらも日本にとっては最大の危機です。
――松川先生のご著書『挑戦する力』(飛鳥新社)にも、防衛と子育て政策、どちらも出てくるのが印象的でした。外務省時代、あるいは防衛政務官を務められた際にも、女性の外交官や自衛官の働き方の問題も見聞きされたと思います。働く女性にとっても仕事と出産・育児の両立は悩みの種ですね。
【松川】外交官も自衛官もそうですが、女性の場合は職場結婚がかなり多いのですね。また、職種によっては転勤も多い。外務省の場合は、時に赴任地が夫と妻で国単位で分かれてしまうんですが、「同じ大陸にしてください」とか「時差がなるべく近いところで……」という希望を伝えたりして、何とかやりくりしている人も多いです。
自衛隊の場合は政務官時代に、視察先では必ず女性自衛官との懇談会を設けていましたが、そもそも圧倒的に女性の数が少ないので、働き方以前にまだまだ施設が充実していない。女性トイレが足りないといったこともあるので、まずは施設の整備をより進める必要があります。
キャリアパスについても、出産や育児がキャリアブランクにならないようにしなければなりません。自衛隊は2030年までに女性自衛官を現在の7.5%から12%にまで増やすことを目標としています。せっかく自衛隊に入って厳しい訓練を経た人たちが、家庭との両立に悩んで退職してしまうのは残念なこと。今後、防衛におけるサイバーや宇宙の領域が広がっていけば、体力的な意味での男女差は関係なくなってきます。技術開発面も含めて、やれることはたくさんあります。
投資効率のいい幼児教育の充実が急務
――子育てや教育に予算を投じ、働き方改革が進み、個人が生きやすくなれば、結果的に国力アップにつながる、ともいえるし、逆にいくら国力や防衛力が上がっても、守るべき国民がいなければ意味がない。これもやはり二項対立ではなく、両輪なんですよね。
【松川】少子化は、経済や福祉といった国民生活の維持のためにも、国力の維持のためにも対処しなければならない最大の課題です。
結婚や出産はきわめて個人的なことでもあるので、政治の力で「結婚できるようにする」「出産できるようにする」のは難しい面もあります。ただ、「お金がかかるから子供を産めない、育てられない」という声が大きいことは確かですから、ここには思い切った施策が必要で、なるべく子育てにお金がかからないようにするべきだと考えます。できれば、子供を産んだ方が得になる制度設計にするべきだと思います。
そして、大学までは教育費を無償にしたらいい。予算が、財政がという声もありますが、現状で子供が増えていない傾向を考えれば、子供の教育費を大学まで無償化しても、年々、予算が増えていくことにはならないと思います。この分野はまだ自分にとっては勉強不足なところでわかっていない部分もあるかもしれませんが、今後取り組んでいきたいと考えています。
特に幼児教育の充実は急務です。各国が今、力を入れているのは6歳までの幼児教育で、フランスは3歳から、イギリスや韓国は5歳から、と義務教育開始年齢の引き下げを実施検討しています。これは結局幼児教育が、その子の人生の「成功」に非常に大きな影響を与えることが数々の国際的研究で分かってきているからです。
「防衛費vs.福祉予算」対立構造を脱すべき
――子供が急に倍増することはない。一方で子供が小さい頃の幼児教育に投資すれば、教育効率がいい。
【松川】そうです。これは思い切って予算をつけていいところだと思います。本にも書きましたが、私も娘を保育園に預けていました。とてもいい保育園で、生活習慣や人との接し方については丁寧に教えてくれるのですが、字の読み方などは教えてもらえません。
保育園の先生に「せめて『ひらがな表』くらい、壁に貼ってもらえませんか」と聞いてみたら、「保育園ではそういうことはいたしません」と言われてしまいました。そうなると、幼稚園に通っている子は小学校に上がる時点で読み書きができる一方、保育園に通っていた子は、親が教えない限り読み書きが不安な状態になる可能性が出てきてしまうんです。これだけ多くの子供達が保育園に通っているのですから、保育園においても母国語たる日本語や数的概念について教える、沢山良い本を読み聞かせる。
それは何より、その子自身にとって有益なことです。どんな家庭に生まれても、幼児期に質の高い教育を受けることができれば、自分で自分の人生を切り開くことができます。国としても、いわば投資効率の良い幼児期の教育に予算を割くことで、子供たちが育っていい人材に育ってくれれば、それは国力の源泉になります。
だからこそ、「防衛費VS福祉・子育て予算」という構図は非常に不幸な見方で、言うまでもなく両方、大事なのです。
「総理の視点」を持つことが重要
――回り回って、日本が自分の足で立ち、国を守ることにもつながるんですね。
【松川】政治家は、個別の案件を考えるときにも、それが国全体、国民全体にとってどういう意味があるかについて考える視点、いってみれば総理の視点も持っておくことが大切だと思います。
――もうかなり前から「日本は人材だ」「少子高齢化が大問題になる」と言われてきたのに、一向に解消されないまま来てしまった……という実感も、正直あります。
【松川】難しい問題であることに加え、国家の成長段階というのもあるのは確かです。かつては国もそうですが、人々も果敢にチャレンジして、「坂の上の雲」を目指そうとしていた。今は防衛費が、予算がという話だけでなく、国も社会も人々も、全体的に「やってやろう」という意識が少し欠けてきている気がします。
デフレマインド払拭も政治家の仕事!
――今持っているなけなしのものを守るのが精いっぱい、という。
【松川】国民の意識自体がデフレマインドになってしまっていて、それが経済状況にも表れている。政治が今こそしっかり日本の現実を見据え、困難でも必要な改革に挑戦する必要があります。そして、国民の皆様、特に若い人達に、挑戦する勇気を与えるような政治をしたい。そういう思いもあったので、自著のタイトルを『挑戦する力』としました。
多くの人が挑戦したいと思えるような環境を作るのは政治の仕事です。課題はたくさんありますが、私自身も政治家として、多くの課題に果敢に挑戦していきたいと思います。(おわり)