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9月20日に公表された都道府県地価調査では、地価は前年比0.3%上昇(全用途の全国平均)と3年ぶりに上昇に転じた。とりわけ東京圏(+1.5%)、名古屋圏(+1.8%)と地方4市(札幌、仙台、広島、福岡 +6.7%)は高い上昇率となった。

国土交通省によれば、今回の地価上昇は、経済活動の正常化が進む中で、新型コロナの影響等で弱含んでいた住宅・店舗等の需要が回復傾向にあることによるとのことだが、地価の回復の理由はこれだけではない。外国人による我が国の不動産購入の活発化も地価が上がった大きな理由の一つだと思われる。

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外国人の不動産購入の全体像は?

外国人の日本の不動産購入は、円安が急速に進んだ今年の3月以降、割安感の強まりから勢いを増しており、購入対象も従来から有名な北海道のニセコや富良野、東京都心部のタワマン以外にも広がって来ている。9月12日付北海道新聞は、外国人の不動産購入について「札幌や後志管内の住宅や土地を個人投資家が相次いで購入。…(略)…機関投資家も高利回りを見込める札幌への投資を進めている」と伝え、また6月26日付京都新聞は、「中国人の投資家が、京都市内の不動産取得に動いている。…(略)…文化的な魅力もある京町家や、利回りの高い宿泊施設が人気を集める」と報じている。

と、ここまで外国人の日本の不動産購入熱の高まりについて書いてきたが、実は本稿は各種の断片情報を基に書いており、日本全国を網羅的にカバーした公的なデータに基づいているわけではないことをお断りしなくてはならない。

また上記報道を含め、外国人による不動産購入に関する各種報道も、基本的に個別の業者からのヒアリングや特定の限られた範囲の物件の取引情報に基づいて書かれているに過ぎない。

これは日本政府や公的機関が外国人の不動産購入状況に関する網羅的なデータを公表していないからだ。というか政府等は公表できるような網羅的かつ正確なデータを持っていないのだ。

報告義務づけも、外為法の抜け穴

林野庁は水源となる森林の保護の観点から森林法等に基づき収集した情報を整理して、外国人による森林の買収面積を国籍別に毎年公表しているが、対象は森林に限られている。

また政府は土地利用規制法によって原発や自衛隊基地などの重要施設周辺の利用行為を調査したり、利用行為を制限することができるが、これは外国人だけを対象とするものではなく、また安全保障上重要な土地についてだけだ。

現時点で唯一、政府が広く外国人・外国資本による日本の不動産取得の情報を収集しているのは、外為法による外国人の不動産取得の報告だ。外為法によれば、非居住者(外国人)が不動産を取得した場合は20日以内に財務大臣に報告することを義務付けている。

円安で拍車がかかりそうな外国人の「日本買い」、その実態は?(maroke /iStock)

しかし実は、この規定には大きな穴が開いている。それは外国人が不動産を取得した場合に、非居住者本人、親族、使用人等の居住目的で取得したり、非居住者本人の事務所用として取得した場合などは報告不要としているからだ。また、この報告義務違反は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金と軽い刑罰だし、報告義務があるのは売主である居住者(日本人)ではなく買主である非居住者(外国人)なので、海外にいる報告義務違反者を捕まえることも難しい。

このため外為法に基づく報告の正確性はかなり疑わしいものがある。そのせいかどうか財務省は外国人の不動産の取得状況を定期的には公表していない。しかし、それでよいのだろうか。

実態把握をしてこそ一人前の国家

私は外国人による日本の不動産取得自体が悪いと言うつもりはない。土地利用規制法等の対象地は別として、例えば京町家を外国人が別荘として買ったり、老朽化した家屋に多額の投資をしてこれを再生させたりるのは歓迎すべきだ。また、利回りの良い札幌のオフィスを外国資本が買うことは自然な経済行動であり、日本人が外国人に渡したくなければ外国人と競えばよいことだ。

しかし、政府は常に外国人・外国資本による日本の不動産の取得・処分状況をしっかり把握・検討し、必要があれば土地政策、経済政策等に検討の結果を反映させる必要がある。また、政府は国民にそうした情報を定期的に公表して、外国人による日本の不動産取得に対する国民の認識を高めることも大切だ。国民に何の情報も示さないのは政府の怠慢ではないだろうか。

どこの国の人が、どこの不動産を、どれだけ買ったり売ったりしているのか、さっぱりわからないのでは、一人前の国とはとても言えない。