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テスラが家庭用蓄電池を用いた日本最大級の仮想発電所事業に本格参入する。仮想発電所(VPP:バーチャルパワープラント)とは、一般家庭などに設置した太陽光パネルや蓄電池などを一括制御し、あたかも1つの発電所のように運用する仕組み。複数の発電設備などをまとめて1つの発電所として見立てる点が「仮想(バーチャル)」と呼ばれる理由だ。

テスラ製の蓄電池を配備した宮古島の民家(プレスリリースより)

テスラは、沖縄電力などが出資する(株)ネクステムズと組み、沖縄県宮古島でテスラ家庭用蓄電池「Powerwall」を用いたVPP事業を2021年より開始。島内への設置台数はこれまでで300台を超えている。

※参考:テスラ家庭用蓄電池 Powerwall によるバーチャルパワープラント「宮古島VPP」 が日本最大級に(2022.8.27  PRTIMES)

今後、Powerwallは2022年度末までに400台、2023年度末までに600台を島内へ設置する。また、2024年度以降には沖縄県全域へのPowerwallの設置、普及も目指すという。

これまで、再生可能エネルギーは発電量のコントロールが大きな課題だった。今回の取り組みにより、再生可能エネルギーの弱点がどこまで克服できるかに注目が集まっている。

「太陽光パネル+蓄電池が設置無料」の仕組みとは?

今回の事業では基本的に太陽光パネルと蓄電池の設置にかかる費用は「0円」である。ただし、発電された電気もただでは使えない。

それもそのはずで、今回の事業によって自分の家に太陽光パネルと蓄電池が設置されても、その設備は自分のものにはならない。あくまでこの事業は、株式会社宮古島未来エネルギー(以下、MMEC)が提供する「太陽光パネル+蓄電池設置サービス」によるものであり、設置された設備はずっとMMECが所有し続ける。

発電された電気は、使用した分に応じてMMECへ電気料を支払うことになる。電気代はほぼ従来どおり(若干安くなる可能性はある)。

※参考:宮古島未来エネルギー Q&A「サービス内容について」

電力自給が課題だった宮古島(okimo /iStock)

宮古島は離島であり、エネルギーのほとんどは島外からの運搬に頼る。高い輸送コストがかかるほか、需要規模が小さいためにエネルギー供給の効率化が難しい。そのため、宮古島では以前から再生可能エネルギーによって、電力自給率を上げる取り組みを行ってきた。

ところが、電力の需給バランスの維持に関する課題(供給が需要を上回る場合の再生可能エネルギー発電設備等の出力制御)が顕在化したことに加え、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の買い取り価格が低下したことで、導入に歯止めがかかっていた。

しかし、今回の事業で仮想発電所と蓄電池が普及し機能すれば、エネルギーを地元で産みだし地元で消費する「地産地消」が可能となるだけではなく、エネルギーの「自給自足」も夢ではないかもしれない。

実際に、宮古島の南西約1.6kmに位置する来間島(世帯数 96 世帯、人口 165人、面積 2.8km²)では、2022年5月25日、各家庭などに設置した太陽光パネルと蓄電池のみの組み合わせで100%の電力供給を達成した。時間は12:00~14:00までの2時間だけではあったが、天候などによって出力が大きく変動する太陽光発電と蓄電池のみで電気の自給自足を達成した意義は大きい。

※参考:「宮古島市来間島における地域マイクログリッドによる100%電力供給について」沖縄電力プレスリリース

現在、他にも多くの自治体で仮想発電所への取り組みが行われている。静岡市では電力売買の一括契約と民間投資による仮想発電所を組み合わせた「エネルギーの地産地消事業」に取り組む。

静岡市が市内の総合商社 鈴与商事と売電・買電の一括契約を締結。同社は、2つの清掃工場における余剰電力を「地産電源」として買い取り、不足分は調達して市有施設に供給。さらに、市内の小中学校80校に小中学校に蓄電池(1校当たり10kWh)を設置し、仮想発電所として制御する。平常時は需給調整のために利用され、非常時は防災用電力として活用される仕組みだ。

静岡市によれば、この事業によって市有施設の電力コストが年間で1億円以上削減されたという。

※参考:静岡市エネルギーの地産地消事業 静岡市公式サイト

仮想発電所と蓄電池が普及するための課題とは

再生可能エネルギーへの評価はさまざまだ。とくに太陽光発電については、仮想発電所と蓄電池の普及が進んだとしても、その許容値を上回る出力の変動が起こる場合も十分ありえる。その際、主に発電量の調整を担うのは発電量の調整が比較的容易な火力発電だ。今後、太陽光発電がさらに増えていけば、火力発電の稼働率は低下していくだろう。

例えば、年間で数日しか稼働せず、採算の取れない火力発電を誰がどう維持していくのか。さらに太陽光パネルや蓄電池などの設備が寿命(蓄電池10年~15年、太陽光パネル30年位)を迎えた場合の廃棄方法やコストがどうなるのか。仮想発電所と蓄電池が日本に定着していくために解決すべき課題はいまだ山積している。

太陽光パネルと蓄電池のイメージ(Petmal /iStock)

日本に大型蓄電所が続々誕生

電気の安定供給を担うのは仮想発電所だけではない。今後、日本には再生可能エネルギーの出力変動を調整する大型の蓄電所が次々と誕生する予定だ。

関西電力とオリックスは共同で、和歌山に大型蓄電所を建設する。蓄電できる電力は一般家庭およそ1万3,000世帯が1日に使う量に相当する113メガワットアワー。昼に太陽光発電が発電した電気をため、電力がひっ迫した時に供給できるようにする。

東邦ガスは、出力1万1400キロワット、容量6万9600キロワットアワーの系統用蓄電池を三重県津市に導入する。2025年度に運用を始める計画だ。

これ以外にも、北海道千歳市(テスラ)、北海道北広島市(ミツウロコグリーンエネルギー)、福岡県大牟田市(九州電力、NExT-eS)など、続々と蓄電所が建設される見込みだ。

今年、九州電力、東北電力、四国電力、北海道電力の各管内で太陽光発電の出力制御が行われていることを考えれば、これら大型蓄電所が果たす役割は大きい。

大型蓄電所と仮想発電所、そして個々の世帯に設置された蓄電池がそれぞれの機能どおり稼働すれば、日本の発電は思ったよりも早く再エネに置き換わるかもしれない。