長年に渡って国産セダンの代表格として君臨してきたクラウンが、先のモデルチェンジでまさかのクロスオーバーモデル化したことにより、一気に注目を集めるようになったのが「クロスオーバー」という呼称。
では、このクロスオーバーとはどんな種類のクルマを指すのか? そして従来のSUVとの違いとは? 今回は将来的にもさらなる増加が予想されるクロスオーバーモデルについて考えてみたい。
文/長谷川 敦、写真/トヨタ、マツダ、日産、三菱自動車、スバル、FavCars.com
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そもそも何が“クロスオーバー”なのか?
クロスオーバー、あるいはクロスオーバーSUVと呼ばれるカテゴリーは、クルマの世界では比較的最近登場してきたものだ。まず、SUVの意味からおさらいしておくと、これは「スポーツユーティリティビークル」の略で、「スポーツ向け多目的自動車」のこと。一般公道はもちろん、山岳や河川の砂利道、そして砂の多い場所でも走れるようなクルマがSUVだ。
かつてこのようなクルマは「クロスカントリー車」や「RV(レクリエーションビークル)」などと呼ばれていたが、これらは本格的なオフロードモデルも包括する言葉であり、もう少しライトユーザー寄りのモデルをSUVと呼称して区別していた。しかし、時代が進んでSUVの名称が浸透すると、クロスカントリー車やRVもSUVに含まれていた。
さて、ここでクロスオーバーの登場となる。クロスオーバー(Crossover)とは、本来は「交差点」や「歩道橋」を意味する英語で、これが転じて「ジャンルを超えて交差するもの」をクロスオーバーモデルと呼ぶようになった。クルマの場合は「普通車でありながらSUV的な要素も併せ持つ」のがクロスオーバー(SUV)ということになる。
近年になって「一般公道をメインにしつつも、レジャーなどでオフロードも走り、さらには荷物もたくさん載せられるクルマ」の需要が高まり、こうした流れに乗って登場したのがクロスオーバーSUVだ。
クロスオーバーSUVとSUVの違いとは?
外見上はよく似ていて、その区別をつけづらいクロスオーバーSUVとSUVだが、実際にはどのような違いがあるのだろうか?
クロスオーバーの特徴は一般的な乗用車をベースにしていること。本格派のSUVモデルが走破性を重視してメインフレームとボディを分けた構造(ボディオンフレーム)を採用しているのに対し、クロスオーバーではボディとフレームが一体となっている。この構造には軽量化やコストの抑制などメリットも多いが、地上高を高くできず、フレーム剛性もボディオンフレームに比べると低いなどの弱点も見られ、オフロードでの性能は本格的SUVに分がある。
しかし、本格的SUVを日常使いする場合、日本の一般道路では“ゴツすぎる”ことも多く、あくまで通常使用の延長線でレジャー利用する場合はクロスオーバーモデルのほうが便利と言える。
こうした理由から、日本ではクロスオーバーモデルに注目が集まるようになり、日本独特のクロスオーバーSUVが登場した。そしてそれは海外でも同様で、アメリカでも現在販売されるクルマの多くがクロスオーバーSUVとなっている。
これはクロスオーバー? それともSUV?
続いて、最近のクルマのなかでどれがクロスオーバーで、どれがSUVなのかを見ていくことしたい。とはいえここで注意したいのが、似たような構造を持つクルマでもメーカーによって呼び方が変わることである。それだけクロスオーバーとSUVの境界線もあいまいということだが、今回はメーカー表記に準じて紹介する。
「トヨタ 新型クラウン」
2022年9月から販売がスタートした16代目トヨタ クラウンクロスオーバーは、その名称どおりクロスオーバーモデルだ。トヨタではこのモデルのことを「セダンとSUVを融合させた革新的なパッケージ」と表し、新たなコンセプトのクロスオーバーSUVであることを強調している。
新型クラウンでは、クロスオーバーを皮切りに「スポーツ」「セダン」「エステート」の合計4バリエーションが展開されることが決定していて、このうちスポーツとエステートがSUV扱いとなるようだ。実際、クロスオーバー、スポーツ、エステートの3車はプラットフォームが共通のGA-Kで、セダンのみがGA-Lを使用する。つまり、新型クラウンの場合、ただでさえややこしいクロスオーバーSUVとSUVの区別が、さらに複雑なものとなってしまう可能性もある。
「マツダ CX-60」
新型クラウン同様に2022年9月から販売開始となったのがマツダのCX-60。このモデルもまた、メーカー側ではクロスオーバーSUVと呼んでいる。
マツダ初のプラグインハイブリッドシステムを採用したCX-60は、同社のラージモデル第1弾に位置付けられる期待のモデルであり、プラットフォームも新規に開発されている。日本国内ではまず3.3リッター直6ディーゼルターボエンジン搭載モデルから販売され、2.4リッター直4ガソリンエンジン車も追って発売となる。
マツダが力を注ぐモデルがクロスオーバーSUVで登場したことからも、このカテゴリーの対する需要の多さが感じられる。
「日産 新型エクストレイル」
前後2基のモーターと4輪のブレーキを統合制御することにより、かつてないほどの曲がりやすさと安定感を両立したe-4ORCEシステムを採用するのが日産の新型エクストレイル。
2022年登場の新型が通算4代目となるエクストレイルは、クロスオーバーではなくSUVモデルだ。
エクストレイルの初代モデルが登場したのは2000年だが、この初代から街乗りよりもオフロードを重視したコンセプトで設計されていて、そのDNAは最新型の4代目にも引き継がれている。実際、先に紹介したe-4ORCEシステムも、グリップの得にくい不整路面での走行に最大の真価を発揮する。
ライバル車の多くがクロスオーバー寄りのライトモデルに変化しつつある今、タフなSUVとしてのエクストレイルの存在は貴重なものと言えそうだ。
「三菱自動車 アウトランダーPHEV」
2021年に9年ぶりのモデルチェンジが行われた三菱自動車のアウトランダー。このモデルは日産 エクストレイルの海外版となるローグと共通のプラットフォームを使用しているが、興味深いことに、三菱自動車ではこのモデルをクロスオーバーSUVに位置付けている。
日本国内向けにはプラグインハイブリッド(PHEV)のみが用意される新型アウトランダーは、メインフレームとボディが一体化したモノコック構造を採用。この意味では本格的SUVというよりクロスオーバーSUV的なのだが、十分なフレーム剛性が確保され、車高も高めなことからSUVと呼ばれても問題はない。
実際にアウトランダーはハードな状況でも申し分のない走行性能を発揮するため、既存のSUVに比べても見劣りせず、むしろ最新技術によるサポートで、これまでにない高度な走破性が保証される。
こうして代表的な最新モデルを見ていくと、やはりクロスオーバーとSUVの定義は、メーカーがどう呼びたいか次第で変わるといった状況が浮かび上がってくる。つまり我々のようなユーザーやファンはこれらの定義にこだわらず、各車の総合的な性能を評価していくのが賢明だろう。
今後さらなるクロスオーバー化が進行した場合、もしかするとクロスオーバーやSUVに変わる新たなカテゴリー名が生まれてくるかもしれない。
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