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 警察庁が発表した2021年までの交通死亡事故データによると、昨年は全国で200件の死亡事故が発生。うち第一当事者となった車両区分別でみると大型が110件、中型が82件、普通が8件となっている。

 死亡事故は車両総重量が増すほど多くなる傾向があり、大型トラックの自転車を含めた「車両相互」事故では、左折時衝突に最も多く、「人対車両」事故でも横断中の横断歩道で起きた死亡事故が大型・中型ともに一番多くなっている。

 最近も大型トラックが起こした痛ましい左折事故のニュースが頻発したが、トラックドライバー自身による防衛策はどのようにすればよいのか? ベテラントレーラ運転手のヒデさんに、交差点走行時に心がけている方法をお聞きした。

文/トレーラドライバーヒデさん 写真/フルロード編集部 表/全日本トラック協会
※2022年6月発行「フルロード」第45号より


相次ぐトラックの左折事故に思うこと

 この仕事をしていると、やはり事故のニュースにはとても敏感になります。トラックの事故ともなれば、なおさら。

 むろん、皆さん事故を起こしたくて起こしているわけではないのですが、一瞬の気の緩みや不運の重なりで生じてしまうもので、当人がいくら気をつけてハンドルを握っていたとしても相手がある以上、起きてしまう場合もあることは、ご承知だと思います。

 今回のテーマは多発する左折事故ということにフォーカスしているわけですが、最近の記憶で鮮明なのは徳島で起きた海コンの左折巻き込み事故。

 同じトレーラであることや、娘と同じ年頃の子供が犠牲者ということもあり、痛ましく思うとともに他人事ではない、と痛感しました。幸い、私自身は右左折による事故というのは経験が無いです。

 「危なかった!」というのもまったく無いこともなかったと思いますが、正直あまり記憶にないくらい少ないと思います。

 では、職業運転手で人一倍運転時間が長いのになぜそういった経験が少ないのかという疑問に関して、私が運転する上で心掛けていることや意識、考え方についてお話したいと思います。

追突を除いた対歩行者・自転車別の交差点の2021年死亡事故データ。左折死亡事故は7割近くが対自転車で、対自転車の8割以上が大型車。いっぽう右折死亡事故は9割近くが対歩行者である

ベテランドライバーが提言する交差点走行時の3ヵ条

1.心掛けていること
 とにかくコレです! 「確認作業」。オーバーアクションなぐらいのやつ! これが何に置いても一番大事。皆さんおわかりの通りクルマは大きくなればなるほど死角が増えます。

 死角を無くすには視野角を広げなければなりません。体全体で見ることが大事です。大型箱車だと厳しいですが、トレーラにおいての左折時で重要になってくるのがベッド窓からの視界です。

 左折進入する際にミラーから少し首を捻って、ベッド窓からの目視を付け加えることを新人さんにも教えております。

2.左折に対する意識
 私の意識の根底に根付いているのが、大型トラックに乗り始めた頃にお世話になっていた某荷主さんの交通安全取り組みの一環であった「交差点一時停止」だと思います。

 今はどうかわかりませんが、当時傭車として入っていたクルマは強制的にコレをやらされました。私自身20代前半の世間知らず時代でしたので、当時は「なんでこんなことしなきゃいけないんだよ(怒)」って思っていました。

 でもやらないと関係者から荷主に通報されるみたいな感じで、たまたま当時の会社が新規参入したばかりということもあり、配車からも口酸っぱく言われ、当時は嫌々やっていた感は否めませんでした。

 でも今冷静に考えると、その当時に交差点一時停止をやっていた(やらされていた)ことでやんちゃな自分自身を抑止してくれた&根付かせてくれていたのはとても重要だったのではないかと……。

 今は当時の荷主さんとは無関係ですし、正直、すべての交差点で一時停止まではしませんが、左折時は徐行よりさらに遅い「微速前進」です。

 言葉のニュアンスの差異はありますが、感覚的にとても大事にしています。Gを掛けない運転はクルマにも荷物にも優しいですしね。

佐川急便などが実践している右左折時の一時停止。後続車にとっては賛否がわかれるところだが、痛ましい交差点事故を防ぐためには有効だ

3.運転する上での考え方
 左折事故に限らず全般的にいえることですが、先に述べたように事故を起こしたくて起こしている人なんていません。いかにして事故に遭わない確率を上げるかが大切です。

 よく自転車やバイク、歩行者に対してもっとこうして欲しい、トラックの動きや挙動について理解してほしいといった声を耳にしますが、私が思うにそれは単なる運転手のエゴだと思います。

 「自分以外の人は他人」という言葉があります。自分自身以外に自分はいない、ということです。「止まってくれるだろう」「こっちが優先だから」、こういう考え方はとても危険です。

 仮に交差点に差し掛かったトラックと少し後方を走るバイクだとしたら「俺の姿が見えているんだから曲がらないだろ?」ってなりますよね。

 「〜かもしれない」と常に疑って考えるほうが運転においては重要な考え方になってきます。さまざまな状況や条件で運転しているわけですから、知識や経験が豊富な此方側が対処してあげれば良いだけ。

 立場が弱いほうに理解を求めるのはナンセンスです。互いに理解を深め合うことはとても重要ですが、そう思わない方がいるのもまた事実。だったら、わかる側が一つ上を行って、理解して行動するのが大切なことだと考えます。

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