日本のアルバイトの時給は1000円、海外では2000~2500円。海外に渡ったすし職人が年収8000万円、物価も中古車も「円安で桁違いに安い」というニュースが流れています。今年1月、1ドル115円だったのが今は150円、35円も円安になっている。
例えばアメリカ人が日本で500万円の中古車を買おうとした場合、115円ならば約43480ドル、150円だと約3万3333ドルだから約1万ドルも安く買えてしまう(輸出代金など諸費用含まず)のだから、日本で売っている日本車の極上車が、海外から買い漁られる危惧があります。
そこで高額に取引きされている、日本のネオクラシックカーはどんなものがあるのか? アメリカではいくらで取引きされているのか? また日本ではいくらで販売しているのか、恐ろしささえ感じる日本車のネオクラシックカー中古車事情を解説します。
文/柳川洋
写真/NISSAN、HONDA、ベストカー編集部
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■日産スカイラインR34 GT-R(1999年1月発売、発売当時の価格499.8万〜599.8万円)
このクルマについては改めて説明する必要もないだろうが、ひと言申し添えると、クルマに手を加えずにアメリカで合法的に運転できるようになるのが2024年からにもかかわらず、すでに多くの個体が海外バイヤーの手に渡っているほど、海外で伝説的・カルト的人気を誇る。左ハンドル車が生産されなかったことも大きい。
ここしばらくのR34 GT-Rの海外オークションでの落札情報をまとめてみよう。
2022年8月20日にオークションで52万5000ドル、当時の為替で約7200万円で落札されて話題になったのは、ポール・ウォーカーが映画「ワイルドスピード」のプロモーションのために乗っていた、走行約1.8万マイルのベイサイドブルーのモディファイされたV-Spec II。
このクルマはアメリカ車検対応済みで、25年ルールと関係なく今すぐ合法的に運転できるうえに、「ワイルドスピード」プレミアムも乗っかってくるのでやや特殊な個体だが、その金額には誰もが驚いた。
その後8月27日に94500ポンド(当時のレートで約1530万円)で落札されたのは、2008年に日本からイギリスに渡ったソニックシルバー、走行14.5万キロのやや荒れた個体。その後は入札不調が続いた。
9月25日入札締め切りの、日本での事故歴がありイギリスに輸出されたV-Spec、ブラックパール外装の走行12.2万キロと、10月20日締め切りの、オーストラリアに輸出された非常に状態のいいホワイトのV-Spec、走行7.5万キロの2台は、最低落札価格を満たさずオークション不成立。どちらも売り手の希望価格が高すぎてそれに届かなかった模様。
そして現在、ミレニアムジェイドのV-Spec IIニュル、走行61234キロという、2017年2月に香港に輸出されアメリカに渡った個体が11月初旬のオークションに出品されている。
見た目は超優良個体に見えるが、長期保管のため整備が必要、との注意書きが。オークショニアによる予想落札価格は14〜18.5万ドル、2080〜2760万円相当とのことだ。
2021年7月には、2台立て続けに低走行でオリジナルコンディションに近いV-Specが、31万ドルもしくはそれ以上、当時のレートで3400万円程度で取引されていた。
だがそれ以降は最初に挙げた例を除けば、20万ドルを超えるオークション結果はないように見える。25年ルール解禁が近づいてきている割には海外での過熱感はおさまりつつあるようだ。それでも十分高いが。
■日本のマーケット事情は? GT-R専門店を取材
では日本のマーケットはどうなっているのか、都心から小一時間ほどドライブして、GT-Rを専門に扱うショップに実際に足を運んで話を伺ってみた。
「R34 GT-Rの海外オークションが少し弱含んでいるようにも見えるのですが、円安の影響も含め、実際のところはどうなんですか?」
「もう少しすればアメリカで無改造で運転できるようになるのに、慌てて今海外にあるクルマを海外のオークションで売っている、というのはやや訳ありの気がします。だから安く見えるのではないでしょうか。基本的に日本にあるクルマが一番状態がいいと言って間違いないでしょう」。
さらにこう続ける。
「日本では、マーケットが弱くなっている印象は受けないです。V-Spec IIニュルの低走行オリジナル車は、市場価格で5000万円を超えます。また最近ライトニングイエローの10万キロ程度のクルマが国内オークションに出たのですが、こちらも3000万円超えでした。
海外で人気が高いのが、ベイサイドブルー、ミッドナイトパープルIII(見る角度によりパープルとダークブルーの色合いの混じり方が変わる特別塗装)、ライトニングイエロー、アクティブレッドなどの派手目の外装色で、高値で取引される傾向があります。逆にホワイト、ブラックなどは海外より日本で人気です」。
確かに、最近海外のオークションで高値がつかなかったものはホワイト、シルバーなどが多かった。
「円安とインバウンド解禁もやはり影響があります。インバウンド解禁以降、大体週に3、4件、海外のお客様が実際にショップにお見えになっています。先週、R33のGT-Rを即決され、また来日するときにはR34も買うかも、と言って帰られたアジアのお客様もいらっしゃいました。
程度がよく低走行のホワイトのV-Specより、やや程度が荒れたベイサイドブルーのノーマルグレードが高値で海外に買われていったりするのを見ると、本当にGT-Rやクルマを愛している人が買っているわけではないのでは、と悲しくなります。そういった見せびらかし目的で買う人たちは、25年ルール解禁とともに多くのR34 GT-Rがストリートを走り始めたら、飽きて売ってしまうかもしれません。
それでマーケットが崩れるかですが、20年前に生産終了となり、11600台弱しか造られなかったクルマですから、クオリティの高い個体の値段は下がることはないと思います」。
そう伺うと、webには載せておらず、店頭に来た客だけにチラ見せしているという、走行4万キロでオリジナルコンディションのV-Specベイサイドブルー、お値段3000万円台後半、という1台を見せてもらったが、割と真剣に欲しくなってしまった。
「円安で値段が上がっているか、と言われるともちろん影響はありますが、いい個体に関しては高値安定、という感じでそこまで実感はないです。自分の手で日本のお客さんに売って、そのお客さんがうちにメンテも任せてくれて、手放す時にまたうちに売ってもらう、という流れで長く1台のクルマと付き合っていくほうが、高値で海外に売ってしまってそれっきり、となるよりも店としては経営も安定しますのでありがたいです。だから、GT-Rを愛するショップの多くは、短期的な視点でできるだけ海外の買い手に高値で売り抜ける、ということをしたくないというのもあるかもしれません」。
円安という外部要因や、長期保有者に懲罰的な税制のせいで、R34 GT-Rのような「日本の宝」がどんどん海外流出する可能性が高まっているなかで、こういった心あるショップがあることがわかっただけでも、取材できてよかった、と筆者は思うのであった。
■マツダFD3S型RX-7 (1991年10月発売、1998年モデル価格324万〜422万円)
FD3S型RX-7も、海外で人気の高いクルマだ。今年の7月23日には、1993年式の左ハンドルMT、カリフォルニア登録の走行わずか5400マイル、9000キロ弱の無事故車、ブリリアントブラック外装、タン革内装の超美車がなんと10万5千ドル、当時のレートで約1433万円で落札された。
8月末には走行3万キロ台のヴィンテージレッド外装色のツーリングのMTが2台オークションに出され、8万ドル台後半と9万ドル、1200万円前後相当で落札されている。
直近では、10月25日に右ハンドルMTの1997年式走行2万キロ、シルバーストーンメタリック外装、2018年にカナダへ輸出されたかなりオリジナルコンディションに近いType-RSが、4万2千ドル、約626万円相当で落札された。走行距離の割にはやや荒れている個体だ。
今日本にある中古車でこれに近いものでは、1998年式のType-RBバサーストMTのホワイト、エンジンオーバーホール済みの走行7.8万キロのものが450万円で売られている。筆者ならこちらを選ぶ。
ショップに電話して、最近の動向を伺ってみたが、「コロナになった数ヵ月後に値段が急激に上昇してから、ほぼ高値で安定しています。円安やインバウンドの影響に関しては、外国人からの問い合わせが増えてきているというのはありますが、まだ値段には表れてきていないのではないでしょうか」との答えだった。
「在日米軍の兵士は、帰国時にひとり1台、クルマを軍の費用負担で持ち帰ることができるんですが、GT-Rほどには暴騰していないRX-7には、円安のせいもあって彼らからの問い合わせが増えています」とも教えてくれた。大黒PAでよく彼らがクルマを見ているのは、もしかしたらそんな理由もあるのかもしれない。
■日産フィガロ(1991年発売、発売当時の価格187万円)
やや変わったところだが、日本よりも海外で流通しているタマ数が多いかもしれない、海外で人気のクルマをもう一つ。
日産フィガロは「バックトゥザフューチャー」をコンセプトにデザインされ、1989年の東京モーターショーでお披露目、1991年に発売開始になったマーチベースの2ドアオープン、いわゆる「パイクカー」。当初8000台限定発売予定だったが、前評判の良さから2万台に生産量が増やされ、抽選販売となり、イギリスでもカルト的人気を誇ったクルマ。
現在の日本の中古車市場では、およそ25台が売りに出ている。
1991年式で走行6.5万キロ、修復歴なしの一番人気のエメラルドの外装色で、東京ヌーベルバーグプレート付き、このクルマのアイキャッチポイントである、オーナメント、ヘッドライトやサイドミラーなどのメッキ部分のくすみもあまりなく、シートのやれも目立たず、純正のフロアマットもきれいなままで、幌も完動、ショックアブソーバーとスプリングは交換済みといういわゆる「ビカモノ」な一台が341万円オファー。
これとは別に筆者が気になったのは、栃木で売られている内外装レストア済みの走行9.6万キロの非常に綺麗な個体、エメラルドで250万円というもの。走行距離をあまり気にせずコンディション重視の海外の人向けには、値段的にこちらの方がいいかもしれない。
アメリカのオークションサイトの一つを見てみると、今年4月から現在までで10台のフィガロが落札されており、平均値は22640ドル、走行は11万6千キロ。最高値は10月下旬に31000ドルで落札されたばかりの、走行7万キロの外装色ラビスグレーの個体。平成17年(2005年)9月表示の日本の点検整備済ステッカーが貼られ、翌2006年にイギリスで登録され、毎回乗車するたびに記録をつける自動車マニアが保有しメンテナンスも含め履歴がバッチリ残っている個体が2017年にアメリカに売られ、再び売りに出たもの。超きれいで間違いなさそうな個体だ。
アメリカでの極上フィガロが31000ドル、460万円強だとすると、日本の「ビカモノ」フィガロが341万円、その差120万円超というのはバーゲンに見える。
専門店の方に伺ったら、値段はある程度すでに上昇してしまったこともあってここ数ヵ月で動いていないものの、明らかに海外からの問い合わせが増えているそうだ。だがGT-R同様、自社で目の届くお客さんに売りたい、と強くおっしゃっていた。
■ビートや軽トラなどはあまり内外価格差は見られない
海外でのJDMを特集したYoutubeなどでもよく見るホンダビートや、最近人気が出ている軽トラに関しては、それほど大きな内外価格差は見られなかった。
ビートの中古車は全国で160台ほど、その平均価格は約106万円。アメリカの過去のオークションの平均価格は7500ドル近辺、110万円程度なのでほぼ内外価格差はない。最近はビートの価格はどちらかというと下落傾向にある、と関西のビートの取り扱いが多いショップの方が教えてくれた。
軽トラは、海外では巨大な農場で農作業を行うときなどに狭いところでも入っていかれて小回りがきき、ピックアップトラックに乗せて運ぶこともでき、壊れずガソリンも食わず安い、ということで最近人気が出ている。
だが、プレミアムをつけて買うクルマではなく、乗り潰すクルマということと、日本の在庫量が海外の需要に対して極めて多いため、こちらも円安の影響は大きくないようだ。
■どれぐらいの内外価格差があるとクルマは海外に出て行ってしまうのか
程度のいい中古車が海外に出て行ってしまうリスクが高まっているが、どれぐらいの内外価格差があるとクルマは海外に出て行ってしまうのだろうか。
まず、アメリカ西海岸に通常の乗用車を輸出する場合、クルマのエンジン種類や大きさ、受け取り方にもよるが、船賃と輸出・税関手続き費用でざっくり40万円ほどかかるようだ(船賃は変動するので注意が必要)。
加えて、クルマの価格に対してアメリカでの関税(2.5%)、輸入諸費用がかかるので3%ほどが必要。また、アメリカでレアなクルマを売る時に一般的なオークション出品費用が、落札価格の5〜15%程度必要となる。
一方、日本でクルマを仕入れた時に支払った消費税10%は還付され、また少額だが自動車税も日本国内で登録抹消を行うと還付される。
非常にざっくりした計算だが、日本にて500万円で売られているクルマを買って、アメリカに持って行ってオークションで売った場合、買値よりも数十万円ほど高いドル建価格で売れれば儲けが出ることになる(海上輸送の保険は考慮に入れていない)。あれ、輸出するにはもっとコストがかかるのでは? と筆者も思ったが、10%の日本の消費税の還付が大きい。
アメリカでの日本の旧車の人気とそのドル建価格が変わらないとすれば、比較的安い輸出コストと円安のせいで、今すぐにではないかもしれないが、優良な個体はどんどん海外に流出していく可能性が高い。海外で人気のクルマは、日本ではもう絶滅危惧種なのかもしれない。
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