MotoGPは世界各国で開催されているため、ライブ中継を通して観戦するファンが一番多いが、サーキットでの観戦でも全コーナーを見回すことは難しく、スクリーンに映る映像を頼りにしているだろう。そんな近年のMotoGPはビデオカメラのみならず、マシンやライダーの装備品にまでカメラが取り付けられており、さらにその機材で撮影された映像がライブ中継されている。その放送に必要な様々な特殊カメラをお届けする。
■テレビカメラ
コースサイドには当然中継用のビデオカメラがあり、仮設の足場を組んで高い位置に設置され、カメラマンは定点で撮影を行っている。食事もこの足場の上でとっているようであり、一歩も動けず大変そうである。
コーナーごとに設置されるため台数は多い。ライブ中継のメイン機材である。
この機材のレンズはキヤノンのDIGISUPER 72 xs。かなり高額なカメラとなっており、水から守るため、雨の日にはレインカバーがかけられる。
■ハンディカメラ
ピットレーンで活躍することが多いこのカメラは、ピット内でライダーの表情をとらえたり、サインガードでチームスタッフを写すことが多い。
カメラマンは自由に動き回れるため、ライダーがマシンに跨りコースインする姿やレース後のパルクフェルメ、表彰台なども映している。
■ヘリコプターのカメラ
上空からレースを常に追い続けるのがこのカメラだ。日本GPでは日本のテレビ局のヘリコプターが使用されていた。
カメラはヘリコプターの前方下部に取り付けられている。俯瞰での撮影で、通常では見られない視点からのレース映像を届けている。
続いて、選手やマシンに搭載されているカメラを紹介する。
技術の進歩により、カメラの小型・軽量化が進み、GP500の頃に比べれば様々な箇所にカメラを取り付けられるようになった。近年のMotoGPでは、迫力ある映像を届けているが、技術の進歩に感謝したい。
■マシン前部の前方カメラ
フロントカウルのゼッケンの位置に埋め込まれているカメラ。ぱっと見は分からないが、カウルをよく観察すると搭載されている。
ゼッケンの中心やゼッケン下部など多少の位置は変わるが、前方を映し出している。パッシングのシーンでは、迫力あるレース映像を届けてくれる。
■フロントスクリーン下の後方カメラ
フロントカウル内部には、ライダーのヘルメット正面を映し出すジャイロスコープカメラが搭載されている。
日本GPではアレイシ・エスパルガロがレース直前にマシンを乗り換えたが、2台目のマシンからもこのカメラの映像が映し出されていたため、多くのマシンに設置されていることがわかる。
選手を映し出すため、時々後ろを振り返っている姿も見られる。選手の挙動が見れて、意外に面白い。
■シートカウル上部の前方カメラ
シートカウル上部にもカメラがあり、これは2種類存在する。
取り付けられていないマシンもあるが、その多くがライダーの背中が映るカメラを搭載している。上空も映し出し、外国のきれいな空模様も視聴できる。
もう1種が、数台しか取り付けられていない360度カメラだ。
数年前から導入され、毎年新しいモデルが投入されている。現在使用されている360度カメラは4方向にカメラが取り付けられ、それらの映像を合成して全方面を映し出している。
また、ジャイロスコープとなっており、マシンがバンクしていても路面と平行を保つ仕様だ。
視聴者は画面を常時横方向にスライドでき、前方、左右横方向、後方と見たい方向を自分で決めることができる。
グラム単位で軽量化しているGPマシンであるが故、この増量は厳しいだろうが、数年前では考えられなかったカメラである。技術の進歩に感謝したい。
■シートカウル下部の後方カメラ
後方を写すカメラはシートカウル下部にある。後方から見るとドゥカティは左下、ホンダは真ん中に取り付けられていた。フロントカウル同様、パッシングシーンでは迫力ある映像を届けてくれる。
■ショルダーカメラ
2021年に初めて導入されたショルダーカメラは、レーシングスーツの左肩部分に埋め込まれている。
アレックス・リンス、ファビオ・クアルタラロもテストしたが、日本GPではアレイシ・エスパルガロのみ装備していた。第18戦オーストラリアGPではフランセスコ・バニャイアに追加され、クアルタラロにも再度取り付けられた。
左肩前部に1.7mm F2.4の小型アクションカムが付けられており、そこから1本のコードで背中のハンプ(コブ)の中にある機材につなげられている。
また、ハンプの外側に縫い付けられている長方形のベルトのようなものは、Molexのセルラーフレキシブルアンテナで、それで外部送信して生中継を可能にしている。
選手の目線に最も近く、視聴者はマシンに乗っているような感覚を覚える。
このように、単なる中継にとどまらず、視聴者に迫力ある映像を届けるため、マシンだけではなくカメラにも様々な工夫が施さている。
選手やマシンに搭載されるカメラは、格闘技やサッカーなどコンタクトスポーツでの採用は難しいだろう。それゆえ、MotoGP特有の視聴者を楽しませる方法になっている。
MotoGP公式のライブ中継では一部選択も可能だが、今後は好きな選手、好きなカメラへ、手元で切り替えられるようになればより面白いと思う。さらなる技術の進歩に期待したい。