安倍晋三元総理が無慈悲な銃撃の被害を受けて亡くなられてから80日が経った9月27日、国立武道館で国葬儀が挙行された。会場の武道館周辺の代官町通りなどの立ち入りは、歩行者ですら制限されるほどの厳戒ぶりで、安倍元総理のご遺骨を乗せた車列が走行するルートには警察官らが数メートルおきに路上に立って警戒を行うなど今までにない厳戒態勢の警備となった。国家の威信をかけた警護警備の一部をご紹介しよう。
文・写真/有村拓真
【画像ギャラリー】賛否両論あったけれど……。国葬警備にパトマニアは熱かった(12枚)画像ギャラリー総理専用センチュリーに注目。安倍元総理の車列は厳かな車列で構成
去る9月27日13時20分頃、安倍元総理の自宅が存在する東京都内のエリアには、報道陣や見送りに訪れた人々が詰めかけた。車列の出発時、自宅前には20名ほどの自衛官が儀仗を行った。
車列は自宅を出発後、防衛省を経由し武道館へ。この際、白バイ9台、自動車11台の合計20台という車列で構成された。白バイ隊員は儀礼服を着用し、任務にあたった。
また、先行車両には防弾仕様のランドクルーザー警護車が配置され、ルート確認を行いながら走行する。ルート上に不審物や不審者がいた場合はただちに無線連絡を行い、車列のルートが変更され、行先地まで安全に走行する。その後、車列を先導するパトカーや白バイが続く。
車列の中でも目を引いたのが安倍元総理のご遺骨と明恵夫人が乗車するセンチュリーの総理専用車だ。これは、現在総理が地方訪問時などに運用されているGZG50センチュリーである。
総理経験者のご遺骨が総理専用車に乗車することは珍しいことではない。筆者が撮影した限りでは、橋本龍太郎元総理や、宮澤喜一元総理らの内閣・自民党合同葬儀ではご遺骨は総理専用車に乗車された。この時も今回と同様にボンネット上には弔旗が掲出されている。
総理専用車には国旗を掲出する旗台が備わっているため、新年祝賀の儀などの限られた行事では国旗ないし弔旗が掲出されるのだ。余談だが、岸田総理が乗車する現行のセンチュリー総理専用車もボンネット上に旗台が装備されている。さらに、予備車として活躍しているレクサスLSの総理専用車は左側のヘッドライト付近に旗台が存在する。
一方、2020年に挙行された中曽根康弘元内閣総理大臣の内閣・自民党合同葬ではハイヤーの現行センチュリーに弔旗を掲出(フラッグポール)して乗車されていた。
さらに今回珍しかったのが、随行車として編成された車両にも総理専用車のセンチュリーが2台充当されたことだ。これらの専用車にも弔旗が掲出された。1998年の小渕政権時代より使用しているセンチュリーと2002年の小泉政権時より使用している専用車である。安倍元総理も総理在任中、公務や党務で乗車した車両なので、馴染みのあるクルマなのだ。
車列の警護には警衛用オープンカーが使われる予定だった?
安倍元総理の車列の警護で使用されたのはパトカーやレクサスLS600h警護車、そしてエルグランド警護車などが車列の警護警備に従事した。レクサスは普段から総理の警護などにも用いられる車両だが、エルグランド警護車は総理の関東近県での選挙遊説の際や、ローマ法王来日時の警護警備に従事していたのが確認されている。普段はSPのアシとして使用される、あまり実戦には出てこない珍しい車両である。今回は一度にSPが複数名乗車できる利便性から車列に組み込まれたようだ。
このような儀式の警護警備となると、警視庁が保有する警衛用(儀礼用)オープンカーという、文字通りオープンカーの警察車両を活用するのが一般的であるが、今回の国葬儀では出番がなかった。
先述した橋本元総理、宮澤元総理の葬儀の際は警衛用オープンカーが車列の警護警備にあたっており、この当時はキャデラックフリートウッドのオープンカーが車列の警護に当たっていた。
今回、27日の本番までの1週間ほど前から警視庁本庁舎周辺などで複数車種のオープンカーの目撃情報があった。この日のために準備をしていたのか、まったくの別件だったのか定かではない。結局、警衛用オープンカーが使われることはなかった。
全国から警護部隊や機動隊なども集結!! パトマニアは熱い視線
国葬儀の2週間ほど前の9月15日には、来日する外国要人を警護するために全国から警護部隊が警察車両を持ち込んで都内入りした。北は北海道から南は熊本まで総勢26道府県警察の警護担当者らが日夜、空港やホテル、迎賓館や武道館などを往復し、経路の確認などを行った。
派遣された警護担当者に話を伺うことができたが、「即位の礼や2020東京大会の派遣などで経験もあるが、常に情報をアップデートし、どこであっても万全を期すため、交通量のチェックや何度も同じルートを走行し徹底的に体に叩き込む。失敗は許されない」とのことだった。
この派遣に伴い、ツイッターなどでは「首都高に〇〇県警のパトカーがなんでいるの!?」と言ったような目撃情報が連日目立つようになった。また、皇居付近に設けられた警察の拠点には全国のパトカーや警護車が集結、その日にもよるが30台以上のパトカーが駐車し打ち合わせなどを行っていた。このため、パトカーマニアなどが連日熱心にカメラにその様子を収めていた。
また、国葬儀の数日前からは関東圏の警察本部の交通部隊が都内入りし、主要箇所の交通規制の応援に従事した。さらに、新潟、長野、千葉、神奈川、愛知などの機動隊も同じく都内入りし、デモ隊の対応や安倍元総理の車列が通過する際の主要箇所での警備などを行った。
【画像ギャラリー】賛否両論あったけれど……。国葬警備にパトマニアは熱かった(12枚)画像ギャラリー投稿 賛否両論あったけれど…パトカーマニアには僥倖だった!! 「国葬儀」の警備は百花繚乱パトカー観察記 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。