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増えすぎた? 淘汰される地方ディーラー! 生き残りのカギは「ファン」にあり

 様々な業態で注目されている「ファン」を作る活動。ファンというと、芸能人やアイドルグループを応援する人が思い浮かぶが、今や企業にとって、経営を大きく左右する重要なファクターと言っても良い。

 ここで重要なのは「お客様」や「お得意様」ではなく、「ファン」を作るということだ。

 自動車メーカーはファンを定義しやすい。商品を買って大満足し、さらに知人友人に広めてくれる人がファンだ。実際に私たちも、トヨタのファン、ホンダのファン、スバルのファンというように、各メーカーの愛好家たちを想像することは難しくない。

 一方、自動車ディーラーではどうか。クルマを買ってもらい、整備に入庫してもらうだけでは「お客様」にとどまる。もっと強固な関係性となるファンは、ディーラーの活動においてイメージしにくい部分だが、今後ディーラーを存続させるためには、重要な存在だと筆者は思う。

 かつてのチャネル制が無くなり、取り扱い車種は統合された。増えすぎた自動車ディーラーを淘汰する動きがあるのも事実だ。ディーラーが生き残るためには、ファンの存在がガキを握る。

 本稿では、ディーラー存続のカギを握る、「ファン」の重要性を考えていきたい。

文/佐々木 亘、写真/佐々木 亘、AdobeStock(トップ画像=luckybusiness@AdobeStock)

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■地域一番の愛されるディーラーであるために

宮城トヨタグループ(MTG)はオートサロンに出展したり、サーキットを貸し切って「MTGモーターフェスティバル」を開催するなど、ファン作りに力を入れている。写真はオートサロンに出展したランクル300

 ファン作りに力を入れるディーラーとして取材したのは、宮城トヨタグループ。

 宮城トヨタを中心に、ネッツトヨタ宮城、トヨタカローラ宮城を展開し、レクサス、フォルクスワーゲン、ダイハツ、トヨタL&Fなど6社で70を超える事業所をもつ、自動車関連企業グループだ。宮城トヨタグループ(MIYAGI TOYOTA GROUP)の頭文字をとりMTGと呼ばれている。

 宮城トヨタグループでは日ごろの営業活動から、自社のファン作りに軸足を置く。そしてファンを作る活動の一つとして、国際レーシングコースのスポーツランドSUGOで、毎年「MTGモーターフェスティバル」を開催するのだ。

 主にインナー向け(宮城トヨタグループオーナーとその紹介者を対象)のイベントであるが、来場者数は1,000名を大きく超える。

 イベント開催の主な目的は、オーナーへの日ごろの感謝を伝えること。SUGOの入場料はもちろん、イベント体験のほとんどが無料で提供されている。イベントでは一切の営業活動は行わず、イベント自体も一切収益を上げられる構造になっていない。

 宮城トヨタ自動車株式会社の後藤誠社長はMTGモーターフェスティバルに対し、「SUGOという最高の場所があるからこそ続けられるイベントです。宮城にあるディーラーだからこそ開催でき、10年以上続けてこられました。MTGにとって欠かす事のできない大切なものです」と語っていた。

 全国でも珍しい取り組みは、地域販社の生き残りをかけた戦略の一つなのだろう。どのようにして、宮城トヨタグループのファンは増えているのか、核になるMTGモーターフェスティバルから紐解く。

■クルマの楽しさ感じファンになる

イベントでクルマに触れ、クルマの楽しさを知ってもらうというのがMTGモーターフェスティバルの趣旨だ(buritora@AdobeStock)

 イベントの主軸は、来場者がクルマに乗って体験するところにある。インターナショナルレーシングコースをはじめ、SUGOの広大な敷地全体が、クルマを使ったアミューズメントパークになるのだ。

 GR86やGRスープラ、MIRAIをはじめ、人気のハリアーやランクルなどのSUV、レクサスやフォルクスワーゲンの人気モデルがズラリと並ぶ「サーキットクルージング試乗」では、来場者が自らステアリングを握り、レーシングコースをクルージング走行できる。

 ランクル300やプラドで急斜面の登坂や車両が30度傾く丸太越え、車輪を浮かせながらモーグルコースを走破する「四駆モーグルキット同乗体験」も人気のコーナーだ。

 四駆モーグルキット同乗体験を終えた家族に話を伺った。普段はジムニーに乗り、山道を走行するという。

 興奮冷めやらぬ様子で「大きなクルマになると、こんなにも安心感が違うのかと感心してしまいました。こういう体験ができる機会は少ないので、毎回楽しみにしています。今回で3回目の参加です」と語ってくれた。

 この他にも、大人から子供までが体験し、楽しめる企画が紹介しきれないほどある。

 そして、来場者の中から抽選で選ばれた数名が、プロレーシングドライバーの横に同乗して全開走行を体感できる「プロドライバー同乗体験」と、プロドリフトチームのチームオレンジが特設コースを駆け抜ける「ドリフトタクシー同乗体験」は毎年の目玉企画だ。

 実際に同乗した人はもちろんだが、ド派手なドリフト走行や、市販ノーマル状態のGR86、GRヤリス、ゴルフRなどが、プロの技でレーシングコースを駆け抜ける様子は、見ているだけでも楽しい。

 同乗体験を終えた小学生は「いつもの家のクルマとは違って、凄い横に振り回された。とても楽しかったから、またトヨタに行きたい」とキラキラした目で話してくれた。

 来場者の多くは、クルマの新しい魅力を感じて帰路に就く。「またトヨタに行きたい」と語った小学生は、既に宮城トヨタグループのファンになっている。楽しい思い出と宮城トヨタグループの存在を、しっかりと紐づけているのだ。

 数字や時間などの実績にとらわれず、イベントに関係する全員が、クルマの楽しさを再認識する。こうした姿勢がファンを作り、ファンは将来のディーラーを支える存在となるだろう。

■生の情報が魅せる営業に繋がる

現在の顧客からだけではなく、子供のファンを生むことによって未来へ向けてのファン作りも行っている(Irina Schmidt@AdobeStock)

 イベントの目的は、ファンづくりだけではない。社員を対象にした、楽しい実地研修の場でもあるのだ。

 休憩時間を使って、レーシングドライバーやカスタマイズメーカーの担当者とMTG社員が談笑する姿が数多く見られた。社員がクルマを楽しむ機会につながり、生の情報は自信をもってお客様へ伝えることができる。社員がクルマのファンになることで、ファン作りの活動も、より深みを増していく。

 また、全国各地のモータースポーツイベントに参加するプロレーシングドライバーの田ケ原章蔵氏は、今回参加したMTGモーターフェスティバルについて次のように語る。

 「様々な企業が主催するイベントに参加するが、MTGモーターフェスティバル以上に、主催企業側が収益を考えていないイベントは見たことが無い。

 全国でも類を見ない取り組みで、お客様への愛情とファン作りへの注力度合いがよくわかる。クルマの可能性をより身近に感じてもらうためには、こうした活動が全国に広がってほしい。」

 日常生活に欠かせない「クルマ」を様々な方法で魅せる。イベントではもちろんだが、宮城トヨタグループ各店舗では、通常営業からクルマを魅せる意識が強い。そして宮城トヨタグループのファンを作る前段階として、お店のファン、スタッフのファンを作り上げるのだ。

 さらに子供のファンを数多く作り上げているのが、宮城トヨタグループの凄いところ。十数年先の未来へむけて、ファン作りをスタートさせているのだろう。

*   *   *

 同様の大規模イベントを全国各地で行うことは難しい。しかし、ディーラーがお客様に対して、宮城トヨタグループと同じような、思いを伝えることはできるはずだ。日本のクルマを支える大切なユーザーのために、最も近くにいるディーラーがやるべきことは数多くあると思う。

 ポイントは「お客様」ではなく「ファン」を作ること。これが販売会社の地力を高め、強い自動車ディーラーを作っていくはずだ。

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投稿 地方ディーラー切実な生存競争!! 生き残りのカギは「ファン文化醸成」にあり自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。