Twitterとの買収契約を一方的に破棄しようとして提訴されているイーロン・マスク氏が、これまでの方針を180度転換し、やっぱり買収するとの意向を記した書簡を、米証券取引委員会およびTwitterに送付した。買取価格は当初と同じ1株あたり54.2ドルだ。
ただしこれには条件があり、マスク氏は今月17日から開かれる予定のデラウエア州衝平法裁判所での裁判やその他の手続きもろもろを延期することを求めている。Twitterは、書簡を受け取ったことは認めたものの、マスク氏の突然の提案に応じるかどうかは明確にせず「われわれの意図は1株あたり54.20ドルで取引を完了することだ」と、これまでと同じコメントを出した。
マスク氏がTwitterを買収する契約を締結してから数週間もせずに買い取り拒否の意向を示した理由は、Twitterの収益化可能な1日あたりのアクティブ ユーザーにおける、スパムボットや偽アカウントの数が、実態とかけ離れているというものだった。
これに対してTwitterは具体的な該当アカウントの割合と集計方法を示し、さらにTwitterのあらゆる情報を見ることが可能な、神視点ツールとでも言うべき「firehose」へのアクセスまで提供したものの、マスク氏はこれを採用せず、一貫して上記の主張を続けていた。
米テュレーン大学の法学教授であるアン・リプトン教授はマスク氏の動きに関して「驚くのは、マスク氏が1株あたりの買取額から1ドルも減額を得られなかったこと」だと述べ、裁判が始まれば、Twitter側の立場が非常に強いであろうことが予想されるとした。
またコロンビア大学の法学教授エリック・タリー氏も、やはりマスク氏が1株1ドルの減額も手にしないことに「驚いている」と述べ、もしマスク氏が「法廷で取引を成立させるよう命じられた場合、彼は(条件どおりの買収だけでなく)付帯するその他の費用まで支払わなければならない可能性がある」とした。
先週、この裁判の法廷提出文書として大量のテキストメッセージの記録が公開された。そのメッセージの束は、マスク氏が主張していたスパムボットなどに関する議論が含まれていないことで注目された。
そしてTwitterの評判を貶めるような発言を控えるよう求めたTwitterのパラグ・アグラワルCEOとの対立が、メッセージから浮き彫りにされ、これがマスク氏のTwitter買収への興味を損ねた理由のようにみえた。
また、先週行われた公判前の審問では、マスク氏が独自にTwitterのスパムやフェイクアカウントといった不正アカウントの数について、5つもの企業に集計を依頼していたことが判明。そのうち証拠となるような分析結果を提出したのは2社で、1社はTwitter側の主張を認めるものであり、もう1社はTwitter全体の11%が不正だという結果をひねり出していたものの、統計学的に疑問の残る分析結果だったという。
こうした結果から、タリー教授は「マスク氏は、裁判における宣誓供述が非常に不愉快なものになるであろうことが見えたのだろう」と述べた。そして「これまでの彼の発言は、他の人々が提供した記録やコメントによって疑問視されており、言ってしまえばマスク氏は、いくつかでっち上げの発言をしていたのだろう。それはマスク氏と彼の法務チームにとっては非常にまずいことだったと考えられ、和解する道への動機になったはずだ」とも述べている。
Twitterは、もし契約の完了を最優先に望むとなれば、マスク氏が提案した裁判の延期を認めるかもしれないものの、そうであれば買収の完了まで裁判所による監視を求めることが予想される。タリー教授は「訴訟は途中で終わることはなく、続くだろう」と予想している。
Washington Postは、マスク氏の書簡を受け取ったTwitterは現在、提案を受け入れるかどうかを検討しているものの、「双方に大きな不信感があるため、文章の行間に何らかの策略がないかを調べており、少なくともまる1日は行動しない」との見方を報じている。
- Source:The Verge
- Source:Ars Technica