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 北米における電気自動車の所有者は富裕層が中心といわれている。ガソリン車であれば、激安な低年式車や不人気車が存在するが、BEV(バッテリー電気自動車)は高額なリチウムイオンバッテリーを採用しているためにどうしても高額だ。

 そして北米において最もこれらBEVを見ることができるのが、カリフォルニア州だ。環境性能について全米一の厳しさを誇るうえに、富裕層が集まる地域があるためでもある。

 そんな北米の最新のEV事情をレポートしてもらった。

文/小林敦志、写真/小林敦志、メルセデス・ベンツ、Adobe Stock(トップ画像=Cavan@Adobe Stock)

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■“テスラ車だらけ”の南カリフォルニア

渋滞中のフリーウェイで左右に並んだテスラ車。南カリフォルニアでは「よくある光景」だ

 コロナ禍前より南カリフォルニアでレンタカーを運転していると、とにかくBEV(バッテリー電気自動車)となるテスラ車を多く見かけた。ただ、あくまで筆者の私見であるが富裕層の日常生活における“移動の足”としてファッション感覚で乗っているような印象を持っていた。

 そして今回久しぶりに南カリフォルニアを訪れると、“テスラ車だらけ”はさらに加速していた。

 BEVが増えているといっても、南カリフォルニア地域全体で見れば、単にテスラ車の台数が増えただけといってもいい状態であった。

 南カリフォルニアを3年ぶりに訪問する間に日系メーカーを除けば、世界的に主要メーカーやBEVベンチャー企業などからさまざまなBEVが市場に送り出されている割にはバリエーションが豊富になっているといった印象は受けない。

 なぜ、テスラ車ばかりなのかについては事情通が興味深い話を聞かせてくれた。「テスラのスーパーチャージャーによる充電時間の速さを一度体験すると病みつきになりますね」とのこと。

 BEVに乗り換える際に気になることのひとつが、充電インフラと充電にかかる時間。ちなみにBEV先進国ともいえる中国においても、中国メーカーは充電時間の速さを競っている。アメリカでも充電時間を重視してテスラ車を選んでいる人が多いのかもしれない。

 2021暦年締めにおけるPHEV(プラグインハイブリッド車)も含むアメリカでのEV(電動車)販売台数は約61.6万台となり、市場占有率は4%強となっている。1%未満ともいわれる日本に比べれば全米規模での普及率は高い。

 さらに全米で圧倒的にEV(電動車)が普及しているカリフォルニア州だけでみると、市場占有率は約10%となっている。

 もちろん、この約10%すべてがテスラ車というわけではない。アメリカンブランドでは、フォード・マスタング・マッハE(BEV)をチラチラと見かけることができる。またヒョンデや起亜といった韓国系のBEVも以前よりはよく見かけるようになっている。

■BEVは富裕層の「意識の高さ」を表現するアクセサリー

ショッピングモールの駐車場の一角には当たり前のように充電施設が用意されている

 さらに地域を絞ると、街なかを走っているBEVの車種が増えてくる。

 所得が豊かで“感度の良い”人たちが多く住む地域(富裕層居住地域)へ行くと、メルセデスEQ・EQSやフォルクスワーゲン・I.D.4、アメリカのBEVベンチャーのモデルなど多彩なBEVが道路を走っていたり、ショッピングモールの駐車場内にある充電施設で充電を行っていたりする光景を頻繁に見かけることができる。

 日本で例えるのなら、東京や大阪、福岡などの大都市ほど、ドイツ車に限らずさまざまな国々からの、珍しいものも含めた輸入車がたくさん走っているといった状況を想像してもらえば状況はわかりやすいかもしれない。

 つまり、南カリフォルニアとて、まだまだBEVに乗ることは所得の豊かな人たちがファッション感覚で乗っているといった様子が大きく変わっていないんだなと筆者は強く感じた。

メルセデスベンツEQS

 ジョー・バイデン大統領は2022年8月16日に“インフレ抑制法”に署名し、同法が成立した。この法律には2022年末まで選ばれた電動車につき、引き続き最大7500ドル(約112万円)の税額控除対象になるものとしている。

 対象車種選定に際して、アメリカ国内で車両組み立てを行っていることや、搭載される電池に使われる部品について制限が課され、アメリカ国内で販売されている電動車のうち7割が税額控除対象外となり問題となっている。報道のなかには、“中国排除”など経済安全保障が意識されたのではないかとも伝えている。

 バイデン大統領はすでに、2030年までに販売される新車のうち50%以上をBEV、PHEV、FCEV(燃料電池車)にする大統領令を発令している。しかし、残念ながら電動車普及の最前線をいっているカリフォルニア州でもBEVだけ見ても全体の10%弱にとどまっている。

 筆者は南カリフォルニアを訪れる前に、ミシガン州デトロイト市周辺を訪れていた。冬季は厳寒な気候になることもあるのか、BEVなどはほとんど見かけることがなかった。

 ただフォードの地元でデトロイト市近郊のディアボーン市近くを走っていると、フォード・マスタング・マッハEをパラパラ見かけることができた(フォード関係者?)。

 また郊外のいわゆる富裕層居住地域に行くと、テスラが結構走っていた。南カリフォルニアに比べれば少ないものの、デトロイトあたりでも着実にBEVが増えているんだなあと感じた。

■カリフォルニア州政府の準備は着々と進む

カリフォルニア州では州内の電力供給のほとんどをクリーン発電で賄い、BEVの充電設備を完備。インフラ整備は着実に進んでいる

 カリフォルニア州大気資源局は2022年8月25日に、2035年までに販売される新車をすべてZEV(ゼロエミッション車)にするという規制を承認したことを発表した。

 「さすがにこれは難しいし、“言うだけタダ”なのでは?」と筆者は思ったのだが、南カリフォルニア在住の事情通は、「いえいえ州は本気ですよ。2035年にZEV以外乗ることができなくなるわけではなく、新車として販売することができなくなるだけですしね」と語ってくれた。

 事情通氏はさらに、「カリフォルニア州はすでに州内の電力供給のほとんどを、太陽光や風力などのクリーン発電で賄っていますし、住宅の新築に際しては太陽光パネルの装着義務化を行っております。

 多くの戸建て住宅には補助金を活用してもらい、BEVの充電設備を完備しています。すでにZEVを受け入れるインフラ整備ができているのです」とも話してくれた。

 砂漠の真ん中を走るフリーウェイのレストエリア(日本でのサービス&パーキングエリアのようなもの)が新設されたり、全面リニューアルが進んでおり、その際には急速充電施設が整備されている。

 日本も日産サクラが大人気となっており、遅ればせながらZEVに注目が集まっているが、いくらBEVが普及しても日本はおもな電力供給を火力発電に頼っている。

 いくらBEVが増えたとしても、二酸化炭素を排出する出口が異なるだけなので、それなら日本車のICE(内燃エンジン)は燃費や環境性能に優れ、HEV(ハイブリッド車)も普及しているので、そのままのほうが結果的に環境負荷は少なく済むかもしれない。

 カリフォルニアの内陸は不毛の砂漠地帯ばかりで、そこにはまさに巨大なメガソーラーや、何百基も置かれた風力発電所がいたるところに存在する。

 しかし、国土が狭く、自然災害も多い日本ではメガソーラーや風力発電では効率が悪すぎる。現実的な選択肢としては原子力発電があるが、新設どころか再稼働もままならない状況が続いている。

■日本政府のZEV普及への取り組みは

1035年までに電動車以外の新車販売を禁止する予定だが……(kichigin19@Adobe Stock)

 日本政府も2035年あたりまでに、HEVも含むものの電動車以外の新車販売を禁止する予定のようだ。

 しかし、国内の発電バランスがいまのままでは、消費者は多少の政府補助はあるだろうが、割高な電動車しか新車として買えなくなるだけで、環境負荷低減に大きく貢献することなく世界から失笑されて終わりになるだろう。

 日本でZEVが普及しないのは、日本メーカーにおけるラインナップが少なすぎる(つまり開発に出遅れている)ことが大きいが、発電は火力メインでZEV普及のためのインフラ整備やロードマップなど、一貫してほぼ何も政府が示せないなかではメーカーとしてもなかなか本腰をあげることができないのも事実だろう。

 筆者の私見だが、日本では“ICE(内燃エンジン)から電動になった”と、ZEVを自動車の進化版と捉える傾向が強いが、諸外国では社会インフラも激変させる“新たな乗り物”と捉え普及を進めているように見える。

 諸外国へ出かけ、ZEVの普及の様子を見ると、ワクワクしてしまうのだが、日本国内ではなかなかワクワクすることができないのである。

 この感覚の違いが日本メーカー及び日本国内でZEVの普及及び関連インフラの整備がなかなか進まない背景のひとつなのではないかと考えている。

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