先々代クラウンのイナズマグリルやレクサスのスピンドルグリルなど、攻めたデザインに挑戦し続けてきたトヨタ。
ところが新型クラウンの登場によって、そのデザイントレンドに変化が生じたように思える。新しいトヨタのデザインのキーワードとはなにか。自動車デザインにも詳しい清水草一氏に、その特徴や狙いを語ってもらった!
文/清水草一、写真/トヨタ自動車、ベストカーWeb編集部
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トヨタデザインはクルマ好きのリトマス試験紙
今を去ることちょうど10年前。トヨタの新型オーリスが発表された。これこそ、トヨタの新しいデザインコンセプト「キーンルック」の第一弾だった。
キーンルックとは、鋭敏で精悍な顔付きのこと。確かにオーリスの顔付きは、鋭いV字型のグリルと、それに続く鋭いヘッドライトが特徴的だった。
その後トヨタは、キーンルックを徐々に拡大していく。2012年、先々代クラウンに「イナズマグリル」を採用するも、賛否両論で、かなりの拒絶反応が出る。
2012年、レクサスGSから採用が始まったスピンドルグリルも、キーンルックの流れを汲んでいるが、登場当初の評判は「なんだこりゃ?」という感じでまったくイマイチ。2015年、現行プリウス(前期型)の「歌舞伎顔」は、全世界で大コケ。
トヨタのデザイン改革は、キーンルックから始まったが、正直、失敗の連続だった。特に、デザインに関して保守的になりがちなクルマ好きの間では、クラウンのイナズマグリルも、GSのスピンドルグリルも、プリウスの歌舞伎顔も、ケチョンケチョンだった。
あれから10年。近年トヨタは、「キーンルック」という言葉を使わなくなっているが、デザインに関しての攻めの姿勢はさらに顕著になり、我々ユーザーの想像をはるかに超えるようになった。
その典型が、アルファードの進撃の巨人顔(2015年)、ヤリスの毒虫顔(2020年)、ヴォクシーの超獣顔(2022年)である。
「まさか!」というようなエグいデザインで嫌悪感を誘いつつ、そのインパクトが麻薬的な効果を発揮し、いつのまにか大ヒットになっている。この、すさまじいまでの攻めの姿勢は、「炎上デザイン戦略」と言ってもいいだろう。
個人的には、ヤリスの毒虫顔とヴォクシーの超獣顔には拒絶反応が出たが、それは自分が保守的であるという証明のようなもの。今やトヨタ デザインは、クルマ好きのリトマス試験紙となっている。
トヨタは薄目にこだわってるわけじゃない
では、ごく最近のトヨタのデザイントレンドはというと、今年一挙にお披露目されたEVモデルたちや、新型クラウンに代表される「薄目顔」だろうか。LEDヘッドライトの小径を生かし、ヘッドライトを極限まで薄い形状にすることで、キーンルックを復活させていると言えなくもない。
この薄目を、新型クラウンに採用したのは象徴的だ。クラウンと言えば保守本流。厚めの顔に重厚なヘッドライト形状が伝統だった。それを薄目にすると、まったくイメージが変わって「キーン」になる。これこそがトヨタの狙い。これまでのクラウンのイメージから脱却するために、最も効果的だったのである。
北米向けのマイナーチェンジカローラも、バッジ位置やグリル形状の変更で、シャープな薄目感が強まっている。これまた明らかにキーン度が増していてカッコいい。次期プリウスやGR86も薄目顔になるのでは? と予測されている(あくまで予測です)。
ただ、この薄目顔は、前述のようにヘッドライトのLED化に伴うもので、今は斬新に感じても、近い将来、世界中のクルマが薄目になることは確実。これがトヨタの新しいデザイン戦略というわけではなく、あくまで通過点に過ぎないはずだ。
世のクルマが薄目だらけになれば、逆にパッチリと目の大きなクルマが注目を集める。新型シエンタはその典型。トヨタは決して薄目にこだわっているわけではない。常に斬新で大胆なデザインを取り入れようと貪欲なだけだ。
大径タイヤ装着の理由を「カッコです」と言い切るトヨタ
近年のトヨタの新型車は、どこかに必ず「おっ」と思わせる新しさを潜ませている。もはや驚きのないデザインは失格! という不文律が、社内で形成されつつあるようだ。
10年前、キーンルックが登場したあたりから、トヨタはクルマ作りにおけるデザインの重要性に気付き、それを前面に出すようになったわけだが、この10年間のデザイン改革で、その意識はもはや当たり前で自然なものになったようだ。そして仕上がりも、かつての「なんだこりゃ?」から、「こりゃ脱帽です」になった。
新型クラウンは21インチの大径タイヤを採用しているが、最大の理由は「カッコです」と、開発陣は明言した。
確かに、大きなタイヤをボディとツライチに装着すれば、クルマはそれだけで確実にカッコよく見える。「クルマのプロポーションはタイヤで決まる」と言われるほどだ。
多くの技術者は、タイヤ径やトレッドについて、走行性の向上など、常識的な理由を前面に出し、あえて「カッコのため」とは言わないものだが、それを素直に認めてしまうトヨタ恐るべし。今後もトヨタデザインを刮目して見守ろう。
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