北米の巨大なマーケットにおいて、日本メーカーは大きな利益を得てきた。かつてミドルクラスセダンのトヨタカムリが大ヒットしていたことがあるが、世界的なSUVブームもあり、売れる車種も様変わりしている。
もともと北米ではピックアップの人気が高いが、それに加えてSUVのニーズが高まっている。さらにはピックアップをベースとした大型の「フルサイズSUV」にも大きなマーケットが生まれている。
トヨタは北米でフルサイズSUVセコイアの新型を発表したが、そこに意外なライバルが登場したという!
北米市場をめぐる各メーカーの販売事情をレポートしてもらった。
文・写真/小林敦志
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■アメリカにおける自動車販売の動向
2021暦年締め(2021年1月~12月)での、アメリカ国内における年間新車販売台数は1508万1117台となっている。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響がより大きかった2020暦年比ではプラス3.4%となったものの、日本と同じく年後半になると半導体不足などによる生産遅延もあり販売台数は目立った落ち込みを見せていた。
それではメーカー別での販売台数ランキングに目を向けると、販売台数トップはトヨタとなり、233万2262台であった。以下2位はGM(ゼネラルモーターズ)で220万2582台、3位フォード(189万1753台)、4位ステランティス(178万5075台)、5位ホンダ(146万6630台)となっている。
トヨタのアメリカメディアサイトでの統計をみると、2021暦年締め年間販売台数におけるトヨタ車での販売数トップ3をみると、1位はRAV4で40万7739台、2位がカムリで31万3795台、そして3位がハイランダーで26万4128台であった。
アメリカ全体での新車販売台数におけるSUVの比率は2021年暦年締め年間販売台数で約53%、一方トヨタ内におけるトヨタブランドのみでのSUV販売比率は約46%となっている。いずれにしろSUVが新車販売の中心となっている。
実際南カリフォルニアで滞在期間中に4000kmほどレンタカーを運転したのだが、街なかで見かけるクルマはトヨタ車が目立っていた。筆者も日本で所有しているトヨタ カローラはアメリカではセダン、ハッチバック(スポーツ)、そしてクロスオーバーSUVとなるクロスがラインナップされている。
分類上クロスのみ別統計となるのだが、セダンとハッチバックを合わせた2021年の年間販売台数は24万8993台(月販平均は約2万台)と、アメリカ市場での販売主軸車種の1台となっており、とくにカローラセダンは、“コンパクトセダン=カローラ”といっていいほどカローラだらけとなっていた。
しかもボディカラーは日本では改良後廃止となったが、セレスタイトグレーメタリックばかりが走っていた。
日本やタイなどで爆発的にヒットしているカローラクロスだが、筆者は街なかで見かけることができなかった。2022年1月から9月の累計販売台数をみると3万7521台(月販平均4169台)となっており、日本市場での月販基準台数をほぼクリアしている。
現状アメリカでも新車の納期遅延は問題化しているが、日本ほどではない様子。納期遅延などを考慮しても、日本やタイに比べるとはるかに巨大市場となるアメリカでの販売には勢いがないようだ。
カローラクロス個体の問題というよりは、このサイズはアメリカでは日本におけるライズに近い印象もあり中途半端に見える。
そもそも高校生など若者を中心としたパーソナルユースでは日本ではボディサイズが大きいともいわれるRAV4がコンパクトSUVとしてニーズの中心となっている状況では、日本やタイほど存在感を見せられないという市場環境の特殊性も大きいと考えている。
■アメリカにおける人気車カテゴリーの推移
かつてステーションワゴンが“ママのクルマ”とされたアメリカだが、いまでは3列シートを備えるクロスオーバーSUVが“ママのクルマ”となっている。
ハイランダーは3列シートを備える仕様を用意し、“カムリのSUV版”ともいえる立ち位置でファミリーカーとして人気の高いモデルとなっており、街なかでもよく見かけることができた。
販売が激戦となっているクラスなので、他メーカーの同クラス車も多く見かけたが、やはりハイランダーを見かける機会が圧倒的に多かった。
ママのクルマが3列シートを備えるクロスオーバーSUVになる前は、日本同様にミニバン人気も高かった。
しかしその後“生活臭が強すぎる”として敬遠されるようになり、いまではミニバン自体はトヨタ シエナ、ホンダ オデッセイ、クライスラー パシフィカそして起亜 カーニバルとアメリカ国内でのラインナップ数も限られている。
そのなかでシエナは約5万台(2022年1月から9月)販売し、2位のオデッセイに2万台ほど差をつけ圧勝状態でトップとなっている。そのため、南カリフォルニアの街なかでもミニバンといえばシエナばかりである。
とくに2020年にデビューした現行型シエナを見かける機会が多い。見た目もさることながら、ハイブリッドのみのラインナップというのもエコ志向の高い南カリフォルニアでは受けているのかもしれない。
■アメリカのお家芸「フルサイズピックアップトラック」に斬り込む日本車
アメリカ国内でトヨタが販売ナンバー1なのだから、街なかで見かけるのもトヨタ車ばかりというのは当たり前といえば当たり前なのだが、そのトヨタでもなかなか攻略できないカテゴリーがある。それがフルサイズピックアップトラックである。
その下となるコンパクトピックアップトラッククラスでは、南カリフォルニアで見る限りはトヨタ タコマや日産 フロンティアなど日本勢の存在感がより強い。
だが、フルサイズピックアップトラックは、クルマの優劣という前に“アメリカの魂”などともいわれるクラスなので、シボレー・シルバラードやフォードFシリーズ、ラム・ピックアップトラックなどとの間には“越えられない大きな壁”があるといった話も聞いた。
トヨタは2022年にフルサイズピックアップトラックの“タンドラ”の新型を発表した。それまでラインナップしていたV8を廃止し、3.5LV6ツインターボと3.5LV6ツインターボベースのハイブリッドユニットをラインナップした。
すでに街なかでも新型は走っているのだが、バックミラーやドアミラー越しに見えるタンドラは、アメリカンブランドの同クラスピックアップ並みかそれ以上の存在感を見せている。
ハイブリッドをラインナップするあたりも、東西、とくに西海岸地域ではウケも良さそうなので、販売面での期待値は高まっているといえよう。
ただ、このフルサイズピックアップトラックより難関なカテゴリーがある。それがフルサイズピックアップトラックベースとなる、伝統的なフルサイズSUVクラスである。
シボレー タホ(サバーバン)、フォード エクスペディション、そしてピックアップトラックベースではないものの、ジープ グランドチェロキー、同ワゴニアなどが該当するといえよう。
トヨタもタンドラベースのセコイアというモデルのラインナップを続けており、新型タンドラベースの新型セコイアもすでに発表している(滞在中はまだ未発売)。
日産もアルマーダというフルサイズSUVをラインナップしている。アルマーダは2021年に大幅改良を行い、モデル自体は古いものの人気が出てきている様子。
■アメリカでも「韓国系モデル」の台頭が
しかし、このクラスでいま注目されているのは韓国系モデルなのである。ヒョンデブランドでパリセード、そしてその兄弟車の起亜テルライドがラインナップされているのだが、南カリフォルニアでまさに大ブレイクしているのである。
2022年1月から9月までの累計販売台数をみると、セコイアは先代のモデルレンジが長く、新型への移行期だったので489台、よく見たというアルマーダでも8629台なのに対し、テルライドは7万2296台、パリセードは6万3756台販売しており、まさに桁違いなセールスとなっている。
日本勢がなかなか食い込めなかったクラスに、韓国勢はまさに“爪痕”を残しているのである。
韓国系2車はボディサイズがやや小さく、セコイアやタンドラ、そしてアメリカンブランドのフルサイズSUVとキャラが完全に被るとは言えない。
だが、ここ数年でタホやサバーバン、グランドチェロキーは新型となり、ワゴニアも復活しており、これらに合わせたモデル投入のタイミングで相乗効果にうまく乗ったことも大きかったのかもしれない。
韓国系ではパリセードやテルライドのような、“高付加価値車”がここまでアメリカで売れることはおそらく初めてであり、その面では日本メーカーにもプレッシャーになっているようである。
新型セコイアはハイブリッドのみを搭載するので、今後本格的に販売されていくなかで、どこまで先行する韓国勢を追撃できるのかはアメリカ新車販売での見もののひとつかもしれない。
日本では、“鎖国”を強化してきたコロナ禍だが、韓国勢は筆者がASEAN諸国でも見てきたように、新しいリーダーの下、各市場でのモデルラインナップや販売方針の再構築をアメリカでも進めていた。
この動きが日本メーカーにも今後いい刺激となり、韓国メーカーと切磋琢磨し、コロナ禍の3年を後々“失われた3年”などと言われないようにしてもらいたい。
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