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 2022年7月25日、フォルクスワーゲン(VW)ジャパンは、コンパクトSUV「T-Roc」のマイナーチェンジを発表、同時にT-Rocに、最高出力300psのハイパフォーマンスエンジンを積んだ「R」を設定することを発表した。

 VWの「R」シリーズといえば、ゴルフRやティグアンRなど、メーカー純正カスタムのハイパフォーマンスモデルとして、世界的に評価が高いシリーズ。今回、日本導入となった「T-Roc R」も同様で、欧州デビューした2021年11月から大いに話題となっていた。

 そのT-Roc Rの試乗会が先日開催され、ステアリングを存分に握ることができた。筆者が感じた、「T-Roc R」の実力をご紹介するとともに、コンパクトSUVと300psの組み合わせについても、考えていく。

文/吉川賢一、写真/中野幸次

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ノーマルT-ROCとはまったくの別物!!

2022年7月にマイナーチェンジして登場したVW T-Roc。同時に新設定されたT-Roc R(写真)は最高出力300psのハイパフォーマンスエンジンを搭載するなどの高性能化が施されている

 VWジャパンがT-Rocを日本市場へ導入したのは、2020年7月のこと。「Tiguan(ティグアン)」の弟分、「T-Cross(ティークロス)」の兄貴分にあたるT-Rocは、ドイツではVWブランドにおいてゴルフに続く2番手の人気を誇る。

 2021年の販売台数は、ゴルフが21万4千台(JATOデータベース)、T-Rocは18万1千台(同)となっており、T-Rocの4年間の全世界累計販売台数は100万台を突破している。日本市場では、2021年の登録台数は7241台、輸入車SUVカテゴリ内で、T-Crossに続いて2番手だ。

 T-Roc Rの最大のウリはパワートレインにある。

 排気量1984ccの直列4気筒インタークーラー付ターボのTSIガソリンは、最高出力が221kW(300ps)にもなり、最大トルク400Nmを2000rpmから発生、これに7速DSGと、フルタイム4輪駆動の「4MOTION」を組み合わせ、0-100km/h加速はなんと4.9秒(欧州仕様)。

 リアサスペンションも、標準車のトーションビーム式からマルチリンク式へと換装し、さらにR専用スポーツサスと電制ダンパー(DCC)を標準装備。タイヤは235/40R19サイズのハンコック製Ventus S1 evo2を装着する。

 車両重量は1540kgと、基準のT-Roc(1320kg)に対し220kgほど重くなる。T-Rocの皮を被ってはいるが、中身はまったくの別物だ。

 そんなT-Roc Rの車両本体価格は税込626万6千円、ベースのT-Roc(ガソリン車、417万9千円)よりも210万円も高額だ。

 ちなみに、異母兄弟のアウディSQ2は620万円とほぼ同等だが、T-Roc Rには純正インフォテイメントシステム(Discover Proナビ、コネクト機能)込みとなるため、T-Roc Rの方が若干割安となる。

緩加速は標準のT-Rocと同じだがアクセルを踏み込むと一変!

左右4本出しのマフラーエンドや、19インチの大径ホイール、その内側に見えるブレーキキャリパーなど、T-Roc Rの本気度がうかがえる

 目の前に現れたT-Roc Rの試乗車は、鮮やかなラピスブルーメタリック色。左右4本出しのマフラーエンドや19インチの大径ホイール、ホイールの内側で光る青いブレーキキャリパーなど、ぱっと見でも「T-Roc R」の高いポテンシャルがうかがえる。

 剛性感と重量感のある運転席ドアを開けると、R専用のナパレザー製ドライバーズシートが目に入る。程よく腰回りをサポートしてくれ、シートクッションも柔らかくて程良い硬さだ。

 R専用の本革ステアリングホイールには、左手の位置に「R」の文字が記された静電タッチ式のスイッチがあり、ステアリングから手を離すことなくモードチェンジが可能だ。

 エンジンをかけると、一瞬、野太いサウンドが聞こえるが、その後は静かに。発進させると、ステアリング特性が軽めで、実に扱いやすいことに気づく。

 T-Roc Rは、ステアリングシステムに、プログレッシブステアリング(操舵角が増えるとギヤレシオがダイレクトに変化する機構)を標準装備するので、駐車場などの小回り性能も良い(Rの最小回転半径は不明だが、標準T-Rocの5.0mに近いはず)。

 また、19インチ40扁平という薄いタイヤにも関わらず、乗り心地に硬さを感じない。段差のショックをフワりと受け止めていなし、まるで17インチタイヤを履いている感覚だ。ダンピングが効いているので、うねりがあるようなシーンでも、ボディモーションがフワつくことがなく、安心感が抜群に高い。

 緩加速で流すようなシーンでは、ベースのT-Rocと同じような加速フィールなので、せっかく210万円も上乗せしたのに、有難みがないような気がさえしてしまうほど、ナチュラルで優しい乗り味であった。

 だが、アクセルを踏み込んでエンジン回転が2500rpmにもなると、様子は一変。「街中では無理」と感じるような加速をする。排気サウンドも変わり、荒々しく太い音質となる。高速道路での合流シーンや料金所ダッシュも、とてつもなく速く、刺激的だ。

 しかも、スポーツカーにありがちな上下に跳ねる嫌な動きがないため、恐怖を感じない。パドルシフトでのシフトダウン時には「ボボボ」というブリッピング音も聞こえ、いかにもスポーツモデルらしい雰囲気に包まれる。走り好きには、これだけでも十分に面白い。

 またドライブモードを最も過激な「レース」にすると、エンジンレスポンスは高まり、シフトチェンジも速まり、可変式ダンパーを最大限に引き締めるモードに。走りを味わおうとしても、速度が出過ぎてしまい、一般道では難しいほど。

 とはいえ、ハイパフォーマンスカーに乗って、涼しい顔して街を流すような使い方だって十分に満足できるだろう。

VWならではのシャシーの造りこみがあってこそ

リアサスを左右剛性の高いマルチリンク式に変更し、300psのパワーに見合うこだわりのシャシー性能を手に入れている

 クルマをハイパフォーマンスにするには、過大なパワーに見合うだけのシャシー性能をセットで考える必要がある。

 ハイパフォーマンスを想定していない、一般的なコンパクトSUVをそのままハイパフォーマンスにしてしまうと、シャシー性能が追い付かず、上下方向にフワついたり、小さな段差で跳ねたり、ハイグリップタイヤが発生するコーナリングGにサスが追い付かずにスピンしたりと、不具合が如実に現れてしまう。

 昨今は、ヤリスクロスやキックス、ヴェゼルなど、国産車のコンパクトSUVにも4WDが当たり前になってきたが、シャシーへの対策がおろそかになっている気配が強い。

 横剛性のポテンシャルが低いビーム式リアサスが前提の4WDシステムでは、駆動トルク制御はできても、コーナリング時の横方向の踏ん張りはマルチリンク式リアサスには及ばない。

 その点、T-Roc Rでは、左右剛性の高いマルチリンク式リアサスへと変更し、加えて、上屋の動きを抑える電制ダンパーとハイグリップタイヤ、フルタイム全輪駆動を採用し、対策は万全。制動性能も素晴らしく、安心してブレーキを踏み込める。

 T-Roc Rは、性能にゆとりがあるぶん、ドライバーもゆとりをもってドライビングを楽しむことができる。このようなシャシー性能へのこだわりは、VWの特徴であり、最大の魅力だ。

デジタル化したインターフェイスは課題

静電タッチ式スイッチやステアリングホイール上にあるスイッチ類もやや作り込みが甘いか。慣れの問題もあるかもしれないが、操作は停車中だけではないということを考えると少し気になる部分だ

 価格に見合う性能で、走りも十分に楽しめるT-Rocだが、唯一気になったのが、静電タッチ式スイッチの扱いにくさだ。やはりエアコンの操作スイッチなどは、走行中にも操作がしやすいよう、物理ボタンが欲しくなる。

 また、ステアリングホイール上にあるドライブモード切替や音量調節、クルーズコントロールなどの操作も、指が引っかかる段差が小さく、指の腹が触れて反応してしまうことが数度あった。

 通常のT-Rocは物理ボタンで使いやすかったのに、静電タッチ式となると途端に扱いにくくなる。VWは「慣れの問題では」とするが、便利になるはずのデジタル化で、扱いにくくなるのはどうかと思う。

 デジタル化を否定しているわけではなく、いまはデジタルに移行する過渡期であり、しょうがない面もあるのかもしれないが、今後なんらかの解決策が登場することを期待したい。

 とはいえ、T-Roc は、パフォーマンス、デザイン、あらゆる面で特別感があり、乗れば誰でも楽しくなれる出来といえる。コンパクトSUVで600万円代前半は高額ではあるが、クルマ好きであれば満足しない人はいないだろう。

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