11月6日、栃木県のモビリティリゾートもてぎで開催されたスーパーGT第8戦『MOTEGI GT 300km RACE GRAND FINAL』の決勝レース。GT300クラスのチャンピオン争いは、41周目に右フロントタイヤが外れるトラブルに見舞われた56号車リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rの後退で、レース前にランキング3位につけていたTANAX GAINER GT-Rの大草りきに軍配が上がるかと思われたものの、終盤TANAX GAINER GT-Rも少しずつポジションを落とすことになってしまった。
■3人体制の10号車=チャンピオン?
ニッサンGT-RニスモGT3の2台体制で戦うGAINERは、今季10号車TANAX GAINER GT-Rに経験豊富な富田竜一郎をエースに据え、今季スーパーGTデビューイヤーの大草、そして第3ドライバーに塩津佑介を据えるラインアップで臨んでいた。
11号車GAINER TANAX GT-Rとは異なる攻めたセットアップが功を奏し、第2戦富士でハーフポイントながら優勝を飾ったTANAX GAINER GT-Rは、第5戦鈴鹿でも2位表彰台に。さらに第6戦SUGOでも3位に食い込むなど、チャンピオン争いを展開した。
そんななか、第7戦オートポリスでは富田がGTワールドチャレンジ・ヨーロッパ参戦のために欠場。その穴を塩津がしっかりと埋め7位に食い込み、第8戦は大草が単独でチャンピオンを争うことになった。2015年もGAINERは10号車がチャンピオンを獲得したが、そのときも3人体制で、アンドレ・クートがチャンピオンを獲得。奇しくもそのとき第3ドライバーだったのが富田だった。
3人体制の10号車はチャンピオンを獲る……そんなジンクスが生まれるのかと思われたのが、第8戦もてぎの決勝。41周目、リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rのタイヤが外れるトラブルが起きた瞬間、3番手につけていたTANAX GAINER GT-Rに、大草がチャンピオンを獲る可能性が大きく生まれていた。
しかし終盤、TANAX GAINER GT-Rは少しずつポジションを落としてしまう。52周目、後方から迫ったBamboo Airways Lamborghini GT3の松浦孝亮に先行を許すと、さらに太田格之進がドライブするUPGARAGE NSX GT3と熾烈なバトルを展開。ただこれも先行され、最後はweibo Primez Lamborghini GT3、K-tunes RC F GT3、グッドスマイル 初音ミク AMGにも抜かれ8位でフィニッシュすることになった。大草にチャンピオンをもたらしたい富田の思いが強烈に見えた走りは、ファンを釘付けにするものだった。
■「今日やれることはやり切ることができた」と富田
後半スティントを担当した富田はレース後、「悔しい以外ありませんが、自分たちとしては今日やれることは100パーセントやり切ることができました」とレースを振り返った。
「最後、96号車に抜かれたところは納得がいっておらず、押し出されるように抜かれてしまった。それがなければ4号車に抜かれなかったので、大草選手をシリーズランキング2位にすることができたはずでした。だから自分としてももっとタイトに守るべきでしたね」
「ヨコハマとのタイヤの差もあり、ピットストップのタイミングもタイヤのライフを考えると攻め過ぎたかもしれません。でも、そこまでしなければ56号車の前には出られなかった。戦略として採れるものはすべてやりましたが、手持ちの武器が足りなかったです」
そして、レース終盤の厳しい状況について原因を聞くと「タイヤです」と富田は答えた。
「残り12周の時点でタイヤがかなり厳しくて、87号車に追いつかれたときには守れるペースはなかったです。ただやれるだけのことをやらないと、もし何かあったときに……と耐えてはいましたが、抜かれてついていけるペースはありませんでした。その後の18号車とのバトルとの間も、できるだけタイヤを労りながら守っていたのですが、抜かれた後のパフォーマンスが本来のものでした」
「今だから言えるのですが、タイヤのコンパウンドを1種類しか持ってきていなかったんです。当たればオーケー、当たらなかったら残念と思っていた。今週の高温の路面と、300kmの実績がないタイヤだった。250kmレースだったらチャンピオンだったかもしれません。そのあたりのデータ不足、過信しすぎた部分、天候とすべてが良くない方向にいきましたね」
今季チャンピオンを争ったTANAX GAINER GT-Rだったが、無得点のレースもあった。それが予選でトップタイムを出しながらも予選後失格裁定が出てしまった第3戦鈴鹿、スターターのトラブルに見舞われた第4戦富士だった。一方のリアライズは、第7戦まで無得点は1レースしかない。
「今年頑張りはしましたが、シーズンを通じて56号車の方が強いレースをしていました。僕たちは富士でトラブルでレースを落としているので、それがありながら、ここまで残れたのは良かったです」と富田はシーズンを振り返った。
「悔いはないけど、すごく悔しいです」
■「僕も頑張らなければ」大草は来季に向け闘志
今回の8位という結果により、一時はチャンピオンの可能性もありながら、大草のランキングはSUBARU BRZ R&D SPORTの井口卓人/山内英輝にわずか0.5ポイント及ばない3位となった。
「夢を見させてもらいましたが、今年は富田さんが海外に行ったりと、ふたりで戦いきれないところもありましたしね。最後は56号車に敗れてはしまいましたが、今年一年、デビューイヤーで富田さんから学ばせていただくことも多かったので、来季に向けてすごくポジティブです。その点では今の現状を飲み込めるかな、と思います」と大草はシーズンを振り返った。
予選での切れ味鋭いスピード。そしてレースでの強力な戦いぶりと、今季は大草を高く評価する声が多く聞かれた。デビューイヤーでのチャンピオンという夢は絶たれたが、大草は来季のリベンジに早くも闘志をみせた。
「僕が言うのもなんですが、あそこまで熱くなっている富田さんの走りを今年初めて見ることができました。あそこまで相方が頑張ってくれるならば、僕も頑張らなければと思います。来季ああいう魅せる走りができるよう、頑張っていきたいです」
打倒リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rに向け、タイトルを争うライバルたちは予選でも、そして決勝でも限界を攻めた戦いをみせてくれた。もちろん悔しさはあれど、富田が言うとおり、限界を出し切った末での結末となったと言えるだろう。