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アルピーヌ初となる日本でのワールドプレミア

アルピーヌは10月4日、追加グレードとなる『アルピーヌA110R』を横浜の某倉庫を使用した特設会場でワールドプレミア、世界初公開した。アルピーヌが日本でワールドプレミアを行うのはもちろん初めてだが、実は同グループのルノーでもなかった快挙となる。

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10月17日から開催となるパリ・サロンでの初公開を予告されていたA110Rだが、それに先立つワールドプレミアの場は日本が選ばれた。日本におけるアルピーヌは販売台数こそ昨年モデルチェンジのタイミングで世界5位に落ち着いたものの、正規ディーラーネットワーク数は19あり、世界で第2位となっている。それだけ重要な市場なのだ。

もちろんこの週末にF1の日本グランプリが開催されるというタイミングもよかったのだろう。会場にはアルピーヌCEOであるロラン・ロッシ氏、アルピーヌF1チームドライバーのエステバン・オコン選手を始め、本国のアルピーヌ関係者がズラリ。しかもこのイベント、アルピーヌ・ジャポンでなく本国側が主導したイベントということもあり、会場内外には国産車のドリフトマシンが並ぶという、ある意味でワールドプレミアらしい異国の雰囲気が漂っていたのである。




サーキット走行を主眼としつつもナンバー取得可能

2017年3月のジュネーブ・ショーでワールドプレミアを果たしたアルピーヌA110は、2018年6月に日本でも正式デビュー。現在販売されているのは今年1月の東京オートサロンで日本導入が発表されたマイナーチェンジ版で、A110、A110GT、A110Sの3グレード体制となっている。順番に252psの標準モデル、300psの街乗り、ロングツーリングを意識したモデル、同じく300psのスポーツモデルとなっていて、A110Sにリアウイングなどを追加した限定車、A110Sアセンションの発売も記憶に新しいところだ。

しかし今回のA110Rは見た目のとおりさらにホットなモデルで、サーキット走行を主眼としつつもナンバー取得が可能な、週末をサーキットで楽しみたいサンデーレーサー向けと言える成り立ちとなっており、GT4とは異なり特にカテゴリーは想定されていない。車名の”R”は”過激な、徹底的な”という意味のラディカル(Radical)からとられた。

パワーユニットこそ300psのままだが、車両重量はA110Sの本国発表値1102~1140kgに対し1082kgと元々軽量なところをさらに絞り、パワーウェイトレシオがSの3.7から3.6kg/psに、0→100km/hも4.2から3.9秒へと向上している。

軽量化のため各部にカーボンが多用され、エアインテーク付きフロントボンネット、エンジンカバー、ホイール、サイドスカート、専用シートなどを採用。特徴的なリアウイングはステーがスワンネックタイプとなり、アセンションのそれよりもリアへ迫り出す形となった。それに伴い空気抵抗は5%削減され、最高速度もSの275km/hから285km/hへ到達している。

専用となるシャシーまわりでは、車高がSよりも10mm低下し、そこからさらに10mm低下の設定が可能ということで、写真からもわかるように実車はまさにレーシングカーの低さだった。足まわりはスプリング剛性がSよりも10%以上強化され、アンチロールバーも同じくSよりフロントを10%、リアを25%強化。ダンパーは減衰調整できるタイプで、ドライバーの好みやサーキットに合わせたセッティングが可能だ。

また3Dプリンターで製作されたというエキゾーストはダブルウォールと呼ばれる二重構造で、外側が低い温度を保つことで周囲のパーツを熱から保護する仕組みを採用。サウンドはより力強くなり、室内とエンジンルームのパーテーションをガラスからアルミに変更しタイロッドを追加することで、エンジンの防音加工を撤去。車内でサウンドを強烈に感じられるようになったという。

「こういうクルマも最初から考えていた」

さて、A110Rを見てまず思ったのは、これはアルピーヌらしくないのでは? ということだった。決して派手すぎない、ある意味で少し控え目なジェントルな雰囲気。個人的にそれがこれまでのアルピーヌへ抱いていたイメージだったからだ。そこで、過去何度か取材させて頂いているチーフデザイナーのアントニー・ヴィラン氏に、会場でストレートに聞いてみた。これってアルピーヌのイメージ転換なのですか?

「いえいえ、転換ではありません。こういうクルマも最初から考えていたのです」

詳しく聞くと、他とは違う”アルピーヌのDNAとは何か”というテーマへの答えとして、アルプスのヘアピンで遊べるようなクルマとして最初は2グレード(ピュア、リネージ)で始めたのだという。しかしA110というクルマのイメージ、ブランドが約5年で確立されてきた今だからこそ、ドイツ、イギリス、そして日本市場からの要求もあり、こういったクルマを出すべきタイミングがようやくやってきたというのだ。

デザインはライトウェイトとエアロダイナミクスという、アルピーヌにとって大事なふたつの柱を意識し機能優先で進める中、エンジンカバーに備わるエアインテークの形状がアルプスの雪山に由来する雪の結晶、スノーフレークをモチーフにされるといった遊び心も見られる。実はこれ、ル・マン24時間を走行したレースカーでも採用されているそう。

またボディカラーはレーシング・マットブルーと呼ばれる今年のF1マシン、A522と同じものを採用。マットカラーはアルピーヌの市販車初となり、なぜマットのままなのか聞いたところ、コーティングすると重くなるというレーシングの考え方をそのまま踏襲した結果だという。ジェントルに見えない要素であったマットカラーも、ちゃんと機能的な理由に基づいていたのだ。

ちなみに専門外ではあるが、もう試乗したかどうか聞いたところ、興奮気味にこう話してくれた。

「もちろん! 凄いシャープです! ハンドリング性能が高く、セミスリック(ミシュラン・パイロットスポーツカップ2)なのでグリップも高く、Sとは全く別物、全然タイプの違うクルマに仕上がっています!」

もしかしてデザイナーとして、A110でやり残したことはもうない?

「A110Rはシリーズの中で、ラディカルカーとして最高のものができました。A110のポテンシャルとしてはマックスですね。今後は各グレードに限定車のような形はあるかもしれませんが、A110R以上のものは考えていません」

モータースポーツの最前線とも堂々と連携

A110Rがシリーズ最強のパフォーマンスを持つモデルであることは間違いなく、恐らくは今後これ以上のモデルが登場しないことも、ヴィラン氏のコメントからわかったところで、最後にA110Rがこのパフォーマンスを実現できた背景を少し触れておきたい。

アルピーヌは現在ルノー・グループの中でスポーツ&レーシングカー部門を束ねていて、あのルノー・スポールを統合し、F1チームもルノーからアルピーヌに切り替わったことは記憶に新しい。元々はゴルディーニで、長年ルノーF1の拠点となってきたヴィリー・シャティヨンにある研究、開発施設の看板もアルピーヌに変わった。これは恐らく、アルピーヌA110がデビューした2017年には決まっていなかった話で、このような”過激な”モデルを想定はしても、まさか『F1マシンの開発に使用される最新の風洞実験技術や設備からもたらされたもの』などとプレスリリースに書かれる日が来るとは夢にも思わなかったはずだ。

個人的にA110というクルマはバランス命で、あまりの完成度に、セッティングを変えて違うクルマを作るのは難しいのではないかと思っていた。しかしルノー・スポールのトップガンたちが”表立って”開発に携わるようになり、モータースポーツの最前線とも堂々と連携。そうした進化のツールが圧倒的に厚く、強くなった結果、試乗前ではあるが、こちらが勝手に抱いていたイメージを吹き飛ばす新たなバランスを作り上げてきたのは確実で、そして”ラディカル=過激”であってもアルピーヌらしさをちゃんと維持していることもまた確信できるのだ。

なおA110Rは他の3グレード同様ディエップ工場でカタログモデルとして生産され、日本でも11月末から受注開始。2023年夏頃から納車開始となる。果たしてどんな過激な走りを見せてくれるのか? 期待して待ちたい。

  • アルピーヌA110Rスペックと概要 (全て欧州仕様値)

〇エンジン:1.8L 4気筒直噴ターボ
〇最高出力:300ps
〇最大トルク:340Nm/2400-6000rpm
〇車両重量:1082kg
〇パワーウェイトレシオ:3.6kg/ps
〇0-100km/h:3.9秒
〇最高速度:285km/h
〇シャシー:専用設定アンチロールスプリングとバー/専用アクスルジオメトリー
/車高調整機能、減衰力調整機能付ダンパー/コイルスプリング10%高剛性化/アンチカントバー
〇最低地上高:A110Sより10mm低下(さらに10mm低下設定可能)
〇エキゾースト:スポーツ排気システム
〇ブレーキ:ブレンボ製高性能ブレーキシステム
〇ブレーキディスク:320mm 複合素材(フロント&リア)
〇ホイール:18インチ100%カーボンファイバー(デュケインと共同開発)
〇セミスリックタイヤ:ミシュラン・パイロットスポーツカップ2
(フロント:215/40R18/リア:245/40R18)
〇シート:サベルト製シングルシェルカーボンファイバートラックシート

(運転席は上下左右調整可能、マイクロファイバー生地にグレーのステッチ入り)

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