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アウディのCMで話題!! 「ハンドルが引っ込むクルマ」は実現するのか?

 いまアウディがCM放映している、「Audiアーバンスフィアコンセプト」。自動運転モードになると、ハンドルやアクセルペダル、ブレーキペダルが格納され、さらにメーターフードが前進し、運転席の前も助手席と同じような広い空間となる。

 まるでSF映画のワンシーンのようなCMだが、アウディは「掲載されているシステムや機能はコンセプトカーの可能性を示すもの」しており、実現への期待は高まる。はたして、「ハンドルが引っ込むクルマ」は実現するのだろうか!??

文:吉川賢一
写真:Audi、TOYOTA、NISSAN

【画像ギャラリー】「ハンドルが引っ込む」クルマには欠かせない ステアバイワイヤを搭載する日産「スカイライン」と、世界初の自動運転レベル3を実現した、ホンダ「レジェンド」(20枚)画像ギャラリー

「ステアバイワイヤ」と「自動運転システム」が必須

 「ハンドルを格納する」ためには必要となる技術は大きく2つ、「ステアバイワイヤシステム」と、「高度な自動運転システム」だ。

 ステアバイワイヤは、2017年に登場した日産スカイライン(V37型)が、世界で初めて量産車として搭載した技術。ステアリングとタイヤを機械的に切り離し、電気信号でタイヤを操作するシステムで、ギア比を任意に可変させたり、路面外乱による振動をシャットアウトし、必要な反力のみをハンドルへ伝えることで、すっきりした操舵特性を狙うことができる。現在は採用が広がっており、スバル「ソルテラ」/トヨタ「bZ4X」のほか、2022年4月に世界初公開された、レクサス初のBEV専用モデル「RZ」にも搭載される。

 スカイラインでは、交通事故などでステアバイワイヤシステムが作動しなくなったときにも即時ハンドル操作ができるよう、クラッチを介したステアリング軸をバックアップとして用意していたが、ソルテラ/bZ4XやRZではフェイルセーフシステムを、独立したバックアップバッテリーによってステアリングシステム用の電源を確保する方式をとっている。

 このステアバイワイヤシステムがあれば、物理的につながっている必要はなくなるので、ハンドルを格納するギミックを搭載することも可能となる。ネックとなるのはステアバイワイヤシステムのコストの高さだが、ハンドルを引っ込めるには、欠かすことはできない技術だ。

Audiアーバンスフィアコンセプトは、通常のマニュアルドライビングモードのときには、ダッシュボードから、ステアリングホイールやデジタルメーターがせり出してくる構造

自動運転はレベル4以上、車-車間通信も必要

 「高度な自動運転技術」については、運転の主体がクルマ側となる「レベル4以上」が必要となる。

 2022年現在、市販車で実現された世界で最高レベルの自動運転技術は、2021年に登場したホンダ「レジェンド」の渋滞運転機能「トラフィックジャムパイロット」だ。日本の国土交通省が、世界で初めて自動運行装置として型式指定を行った、「自動運転レベル3(限定領域での条件付自動運転車)」に適合する先進技術であり、レジェンドが世界初の実用化となった。スカイラインやBMW、レヴォーグなどがアピールする手放し運転(自動運転レベル2)とは比べものにならないほど高度な技術だ。

 ただ、ステアリングを格納しての自動運転を実現させるには、システムの介入要求に、ドライバーが(ある程度の領域で)応答しなくてもよい状態にならなければならず、そうなると最低でも「レベル4(高度運転自動化)」が必要。現在の技術でも機能的には実現可能だろうが、あらゆる「万が一」に備えられる強固なシステムが必要となる。

 これら自動運転レベル4に必要な、クルマ側のセンシング技術向上は当然だが、自車だけが「完全自動運転」となっていても、安全確保は難しい。周囲を走るクルマと通信して安全確保する車-車間通信や、道路や信号といったインフラ側ともつながる路-車間通信など、周囲の環境も含め、自動運転に対応させる必要がある。

人工知能の搭載も必要か

 SF映画「アイロボット」(2004年公開)では、2035年を生きる主人公のスプーナー(ウィル・スミス)が、自動運転中のアウディの車内で眠っている最中に、トラックに乗ったロボットの集団が出現、異常な事態を予知したアウディがドライバーを起こし、マニュアル運転モードへと切り替える、というシーンがあった。

 クルマ自身がこうした「予知」をして、「判断」を下すには、人工知能の搭載も必要となるだろう。ただ、自動車メーカーとしても、こうした交通社会を想定して研究をしているはず。映画のように、2035年には「レベル4」クラスの自動運転が実用化され、ハンドルが格納されるのか!?? 今から楽しみだ。

 ※編集部注/自動運転を研究するメーカー開発者と話すと、「自動運転」という言葉の奥深さを実感します。現在自動運転は国際規格として「レベル0」(自動運転なし)から「レベル5」(完全自動運転)まで段階付けされていますが、その境目はくっきり分かれているわけではなく、たとえば現在日本国内一部で実用化されている「レベル3」技術搭載車両での走行は、周囲の状況やドライバーの意図によって0~3へ行き来することが前提とされています。高速道路を走る場合でも、「レベル3」状態で走れるのは行程の1/3程度でした。

 「ハンドルが引っ込むクルマ」には本文内にあるとおり「レベル4」(ブレインオフ/運転意識の除外が可能)技術が必要ですが、引っ込んでいる状態はクルマとドライバーが「レベル3」(アイズオフ/視線解放)や「レベル2」(ハンズオフ/ハンドルからの手放し)状態へ復帰するまでタイムラグが発生することを示しており、その点をどのようにフォローするかが鍵となるでしょう。あと数年で中国で「レベル4」が一部都市で実現化すると言われていますが、おそらく閉鎖空間での走行(「レベル4」以外の車両が走行していない状況)になると思われます。

 「レベル4技術がどう成立するか/成立したら何が出来るか」だけでなく、「そのレベル4車両は、どのレベルの車両と混じって走ることができるか」というポイントもあり、(期待が大きいものの)ハードルはまだまだ高いな…と実感する次第です。)

【画像ギャラリー】「ハンドルが引っ込む」クルマには欠かせない ステアバイワイヤを搭載する日産「スカイライン」と、世界初の自動運転レベル3を実現した、ホンダ「レジェンド」(20枚)画像ギャラリー

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