これまで多くのCGアニメーションを作成してきたドリームワークス・アニメーションが手掛ける新作『バッドガイズ』がいよいよ公開される。
カーアクション満載の最新作は、鳥山明や宮崎駿といった日本のクリエーターからも大きな影響を受けたものとなっている。
高いクオリティの映像は、ぜひとも劇場でみたい仕上がりとなっているのだ!
文/渡辺麻紀、写真/東宝東和 ギャガ
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■主人公は「悪者たち」! アニメ=ファミリー向けのアメリカでは異色の一作
『頭文字D』シリーズや、宮崎駿の車LOVEが滲む『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)を筆頭に、アニメーションでカーアクションする作品は実は多い。
ところがこれ、アニメ作品が大充実している日本だからこその現象で、欧米系のアニメーションになると途端、寂しい結果になる。
米国ではアニメはファミリームービーのカテゴリー。幼い子どもと一緒に観るのが前提となっていて、アクションに注力するとレイティングが上がってしまう可能性が高いからとも言える。
そんな米国のアニメ事情のなか、珍しくカーアクションに特化した新作が公開される。ドリームワークス・アニメーションの『バッドガイズ』だ。オーストラリアのクリエーター、アーロン・ブレイビーの同名コミックのアニメ化になる。
タイトルからも判るように、主人公は「悪い奴ら」。オオカミ、ヘビ、サメ、ピラニア、そしてクモの5人組。要するに、嫌われる動物たちだけでチームを組んだ強盗団だ。
これが初長編作品になる監督のピエール・ペリフェルは映画好きで、冒頭からクエンティン・タランティーノの『パルプ・フィクション』へのオマージュが炸裂。
“バッドガイズ”のふたり、オオカミのミスター・ウルフとヘビのスネークがダイナーで悪だくみをディスカッションから幕を開けるのだ。しかも2分25秒、ワンカット! ここから、このアニメは「ちょっと違う」と思わせてくれる。
監督のペリフェルはそれについてこう語っている。
「僕が好きなアニメーションは動物キャラクター。そして、好きな実写映画は、アクションとハイスト(強盗)ムービー、『ミッション:インポッシブル』シリーズのようなスパイもの。デビュー作はそういう要素を入れたものにしたかった」
だから『パルプ・フィクション』が出てくるのも納得だったりするのだ。
■なんとなく見たことある!? 監督こだわりの車たち
そのペリフェルがもうひとつこだわったのが“車”だったりする。
曰く「脚本を初めて読んだとき、頭に浮かんだ最初の映像は、バッドガイズたちが黒いアメリカン・マッスルカーで逃走している姿だった。
車が地面から浮き上がり、周囲にはドル札が舞っている。そのイメージはまんま本作のポスターパターンにもなっている。僕はこの車をもうひとりの“バッドガイズ”のつもりで描いた。車はただの乗り物ではなく、とても重要なキャラクターだったんだ」。
ブレイビーの原作に登場する車は、オーストラリア出身の作家だからなのか『マッドマックス』のようなごっつい車。
だが、このアニメーションでは、ちょっと古めのマスタングっぽいというかカマロっぽいというかシェビーっぽいというか、いわゆるヴィンテージな感じのアメリカンな黒いマッスルカーになっている。舞台はロスなので、確かにそういう車のほうがいい。
「車種については、敢えて特定しないようにした。でも、頭にあったのは1970年代くらいのマスタングやカマロ、シェビーであったことは間違いない。何というか、ハイスト・ムービーに似合っている感じだったんだよね。
プロダクションデザイナーのスタッフにも、週末はラリーに出ているくらいの車好きがいて、彼のアイデアも投入してこのスタイルにしたんだ」
もちろん、車のみならずカーアクションにもこだわり、数々の実写映画を始め、あのケン・ブロックのドライビングも参考にしたという。
「カーアクションの演出に関しては『ベイビー・ドライバー』(2017)や『ブリット』(1968)等のカーアクション映画、アニメーションでは、大好きな『ルパン三世 カリオストロの城』も参考にした。
もうひとつ、大きな影響を受けたのはケン・ブロックのドリフトしている映像。これもかなり観まくってカーアクションの作画に活かしたんだ。
また、彼が乗っている黒のマスタング。でっかいタイヤを使い、車高もギリギリまで低くしていて、自分流にカスタマイズしている車がとてもクールなので、そこからもたくさんのヒントをもらったんだ」。
本作にはもう一台、気になる車が登場している。バッドガイズを改心させようとする女性知事、キツネのダイアンの愛車である。オレンジ色の小さな車は、どう見ても『ルパン三世』の愛車フィアットっぽいのだが。
「これもまた特定しなかったんだけど、そのつもりだったんだよ。『カリ城』が大好きなので、実は最初、バッドガイズの車をフィアットぽいヨーロッパ車にしようと考えていた。
でも、こちらのチームは5名で、しかもそのなかにはサメのシャークもいる。彼のでかい身体を収めるとなると、やはりフィアットじゃあ難しい。だから女性のダイアンの車にしたんだ。
デザイン的にはフィアットでありビートルの要素もあるBV車というイメージ。これは明らかに『カリ城』へのオマージュだよ(笑)」
■監督の「好き!」が詰まった快作
本作には3回、大きなカーチェイスシーンがあるのだが、バッドガイズを大量のパトカーが追いかけるシーンは、あのジョン・ランディスの傑作『ブルース・ブラザース』を思い出させる。
「『ブルース・ブラザース』(1980)も影響を受けた作品なんだ。おまぬけでチャーミング。非現実的でやりすぎなところがとにかく楽しいよ。パトカーが追いかけ、重なり合って、宙を舞うところは確かに影響を受けている(笑)」
またペリフェルは、こうも言っている。
「僕はアニメーターでもあるので、まずは自分でカーアクションシーンを描き始めた。するとスタジオのみんながノッてくれて、素晴らしいコラボレーションになったんだ。
僕は常々、もし自分で監督をするなら、好きなものばかりを詰め込みたいと思っていた。その好きなものを実際に詰め込んだから、スタッフからそういう反応を得られたのかもしれない」
ということは、彼の「好きな気持ち」がみんなに伝染したということ。それがよーくわかるアニメーションであり、カーアクションなのである。
●解説●
オオカミのウルフ、ヘビのスネーク、サメのシャーク、ピラニアのピラニア、そしてクモのタランチュラ。その姿だけで嫌悪感を抱かれてしまう動物たちが集まった犯罪グループ、バッドガイズ。
彼らの次なる目標は、誰も奪えなかった伝説のお宝、黄金のイルカ像だったのだが、そこには思わぬ罠が仕掛けられていた!?
『ボス・ベイビー』シリーズ等で知られる米国のアニメーションスタジオ、ドリームワークス・アニメーションの最新作。全米で大ヒットし、2週連続首位をキープした。ペリフェル監督にとっては、好きなものを詰め込んだ上に興行的にも記録を残し、見事なデビュー作となった。
そのペリフェルが本作の製作にかけた時間は何と6年間。映画好きの彼らしく、コスチュームデザインには『ベイビー・ドライバー』や、タランティーノの『ヘイトフル・エイト』(15)を手掛けたコートニー・ホフマンに依頼するあたり、かなりのこだわりを感じる。
声の出演はウルフに『スリービルボード』(1917)でアカデミー助演男優賞を受賞したサム・ロックウェル。日本語吹き替え版では尾上松也が担当している。
『バッドガイズ』
10月7日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
配給:東宝東和 ギャガ
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