建設業界に適したトラックとは、堅牢性や信頼性、そして効率性に加えて運転の快適性とボディの架装性が考慮されたトラックのことだ。
実際に建設現場には不整地が多く、細い道や限られたスペースでの操作が求められ、大型の機械や重量のある資材を運ぶ必要があるなど、トラックへの要求が多岐にわたる。
ダイムラー・トラック・グループは世界最大規模の建設機械の展示会「バウマ2022」で、建設セクター向けに多くのバッテリー電気(BEV)トラックを出展したが、同時にディーゼル車やディーゼルエンジンも数多くお披露目された。
ドライブトレーンの効率化や、世界中で深刻化するドライバーの人手不足への対応など、建設業の持続可能な未来に向けてディーゼル車が果たすべき役割は、まだたくさんあるようだ。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/ダイムラー・トラック
限定400台! 「ベンツ」トラックの最高峰
メルセデス・ベンツ・トラックスはバウマ2022において、電動車両だけでなく、ディーゼルエンジンの商用車も大量に出展した。特に建設用特装シャシーのアロクスにとってバウマは主戦場。ヒアブ、リープヘル、マイラー、パルフィンガー、プツマイスターなど大手架装メーカーのボディと共に登場した。
いっぽう「ベンツ」ブランドのトラックでフラッグシップを担う「アクトロス」の中でも、特別モデルとなる「アクトロスL・エディション3」もバウマに展示されていた。ベンツはそのほかに「アテーゴ」や「ウニモグ」などのディーゼル車も展示している。
建設現場での仕事は厳しいが、だからといって快適性を求めてはいけないわけではない。ベンツ・トラックの特別モデルとしてユニークなデザインと最大の快適性を追求したアクトロスL・エディション3は建設現場近くの道路上にあっても最高レベルの快適性を提供する。
メルセデス・ベンツ・トラックス自身が台数限定の特別モデルとして製造する「アクトロスL」もこれで3世代目となる。台数は(世界で)400台限定で、インテリア・エクステリアともに豪華な特別仕様を奢る。
車両は2軸車と3軸車で、キャブは「ギガ・スペース」と「ビッグ・スペース」。ちなみに右ハンドルも可能とのこと。
ディーゼル車のドライブトレーンも着実に進化
ドライブトレーンに関しては、ダイムラーが2022年4月に発表した第3世代OM471型エンジン(排気量12.8L)を10月より大型商用車に展開している。
対象のトラックは「アクトロス」シリーズと「アロクス」シリーズだ。特に燃費改善による総保有コスト(TCO)の低減とCO2排出量の削減、パフォーマンスや快適性を悪化させずに運用コストを下げることによる生産性の向上を謳っている。
最新のディーゼルエンジンにおける燃費効率の改善は、ターボチャージャーの最適化にかかっている。第3世代のOM471型エンジンでは、2種類のターボチャージャーを新たに開発した。
一つ目は長距離輸送を想定したもので、燃料消費量を最小化することを最大の焦点としたもの。もう一つはパフォーマンス向上とエンジンブレーキの制動力向上を主眼としたもので、建設セクター用のトラックを想定している。
排ガス後処理装置も刷新し、エンジン本体と合わせて燃費を最大で4%改善した。
また、高速でスムーズなシフトを実現する「パワーシフト・アドバンスト」機能をAMTに導入した。大型トラック用エンジンとしては、OM471型に加えて2023年4月よりOM470型(排気量10.6L)、OM473型(同15.6L)でもこの機能を利用できるようになる予定だ。
普段は舗装路を走りながら、時に未舗装の急坂などの不整地を走らなければならないアクトロスとアロクスのために、フロント軸を油圧で駆動する油圧補助ドライブ(HAD)も用意した。時速30kmまでの低速時に、必要に応じてHADがもたらす追加のトラクションにより悪路走破性を大幅に高める機構だ。
いっぽう、ターボリターダークラッチ(TRC)は重量物輸送用の装備だ。油圧式クラッチとリターダーを一体化することで低速・高負荷域での繊細な発進・操舵を可能にした。従来のクラッチと比べると摩耗がないのも特徴の一つとなっている。
変わらない存在感を放つウニモグ
バウマ2022でメルセデス・ベンツが展示したのはトラックだけではない。ベンツブランドには建設業界でも需要の多い多目的作業車「ウニモグ」がある。ウニモグの強みはたった1台の車両で、あらゆる仕事をこなすことができるという究極の効率性だ。
バウマ2022ではパワーリフトと平ボディを架装しつつ、ASバウゲレーテ製アスファルトフィニッシャーをフロントに、同社製アスファルト転圧機と清掃用のスイーパーをリアに、さらにホイールベース間に草刈り機を備えたウニモグU435が展示された。
ウニモグは最大4つの油圧システムを独立して制御するため、様々なアタッチメントを同時に取り付けることができる。このため一人のオペレーターが様々な作業をこなすことができ、建設業界で深刻化する人手不足解消に資するという触れ込みだ。
キャンターの欧州仕様も新型に
メルセデス・ベンツと同じくダイムラーグループに属する三菱ふそうは、BEVの「eキャンター」に加えて、ディーゼルエンジンの新型「キャンター」(欧州仕様)も展示した。
これでキャンターは欧州でも9代目に世代交代。製造はポルトガルのトラマガル工場で行なう。
どちらのキャンターも堅牢性、積載量、操作性、そして「ふそう」ブランドが欧州で培ってきた信頼性により小型トラックというセグメントの多様な要望に応え、バルク輸送から重機運搬まで、建設業で必要とされる様々なボディに対応する。
バウマ2022に登場したディーゼル車の新型キャンターはGVW7.49トンで、マイラー製の三転ダンプとアトラス製クレーンを架装する。ホイールベースは3400mmのコンフォート(2m幅)・シングルキャブだ。積載量は2850kg。
新型キャンターは2022年始めから量産を開始しているが、安全性、快適性、キャブデザインなどが前モデルから大きく進化した。
GVWは3.5トンから8.55トンまでの5種類、ホイールベースは2500mmから4750mmの6種類、エンジンラインナップは130から175hpの3種類、キャブは1.7m幅スタンダード、2m幅コンフォート、2m幅ダブルの3種類を用意する。eキャンターが車型を拡大したとはいえ、やはりディーゼル車の設定には及ばない。
特に欧州の建設セクターでは減速ギアボックスや自動デフロックなどの機構により、4×4駆動のキャンターがオールラウンダーとして人気のようだ。平ボディ、クレーン車、コンクリートポンプや特殊車両までどんな用途にも使える汎用性の高さを誇る。
シャシーは大型車と共通する高剛性ラダーフレームとなっている。油圧ポンプやコンプレッサー用のPTO、ボディへの電力供給用に24ボルトインターフェースを備えることも架装フレンドリーな理由の一つだ。もちろんエンジンは最新の欧州のユーロVIステップE規制に対応している。
新型キャンターはフロントデザインを刷新し、キャブ前面にふそうのデザインアイデンティティである「ブラックベルト」を反映する。全周囲の視認性向上によりドライバーにとっても運転しやすくなった。3.5トン車の最小回転半径10.2mは、このクラスで最小である。
三菱ふそうが「キャンター」(初代)を発売したのは1963年。ウニモグに至っては1947年の発売(ベンツ傘下になったのは1951年)から改良が続けられている。100年に一度の変革といわれる中、持続可能な未来のためにディーゼル車にできることもまだまだありそうだ。
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