2022年8月にスズキから登場した「スペーシアベース」。軽乗用車のスペーシアをベースに開発された軽商用車で、遊び、仕事、日常的な移動まで、さまざまな用途に使えると注目を集めている。
ところで、軽乗用車と軽商用車のいいとこどりをしたこのモデルにはデメリットが存在するのだろうか?
そこで、今回は新型スペーシアベースの魅力と欠点を探っていく。また、オススメグレード、納期や、ライバル車の情報についてもお届け。
文/渡辺陽一郎、写真/SUZUKI、ベストカーWeb編集部
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10年以上のモデルサイクルが当たり前!? ついに軽商車に最新モデル登場!!
今は軽自動車が売れ筋カテゴリーになり、日本国内で販売されるクルマの50%近くを占める。この内の約25%が、バンやトラックなどの軽商用車だ。
また国内で販売される商用車の中で、軽商用車が占める割合は約54%に達する。つまりトラックやバンは、小型/普通商用車よりも、軽商用車が多い。日本の物流を支えるうえで、軽商用車は欠かせない存在だ。
そのいっぽうで軽商用車は、新規車種の投入をほとんど行わない。フルモデルチェンジを実施する周期も長く、今は10~17年に達する。その理由は、軽商用車が軽乗用車以上に、薄利多売の商品になるからだ。メーカーや販売会社が受け取る1台当たりの利益が限られ、フルモデルチェンジを乗用車のように頻繁に行うことはできない。
薄利多売の商品だから、軽商用車ではOEMも多い。スズキの軽商用バンとなるエブリイは、日産NV100クリッパー、マツダスクラムバン、三菱ミニキャブバンとして各社に供給される。
乗用車メーカー8社のうち、4社が基本的に同じ軽商用車を販売している。ダイハツハイゼットカーゴも、トヨタピクシスバン、スバルサンバーバンとして供給される。フルモデルチェンジの周期を伸ばし、OEMを利用して同じクルマを大量生産することで、軽商用車のビジネスは成り立っている。
そこで注目されるのが、2022年8月にスズキが発売したスペーシアベースだ。軽乗用車のスペーシアをベースに開発された軽商用車で、このカテゴリーでは珍しい新規投入車種になる。
惜しい点もあるが…新型スペーシアベースは軽自動車と軽商用車のいいとこどり!?
軽乗用車のスペーシアは、内外装がシンプルで価格も割安な標準ボディ、エアロパーツを装着したスポーティなカスタム、内外装をSUV風に仕上げたギアの3種類をそろえる。そこに4つ目のスペーシアベースを加えた。
スペーシアベースは軽商用車だから、後席をコンパクトに格納できる。後席を格納したときの荷室長は1205mmで、荷室幅は1245mm、荷室高は1220mmだ。ボックス状の広い空間に変更できる。専用のマルチボードも用意され、これを上段(床からの高さは430mm)にセットするとテーブルとして使える。背もたれを倒した後席に腰掛けて、車内でデスクワークなどを行える。中段(290mm)にセットすると、リラックスした姿勢を取れる。
下段(165mm)の状態で、前席の背もたれを後方へリクライニングさせると、車内の大半がフラットな空間になる。ディーラーオプションのリラックスクッション(2万5850円)を上に敷くと、デコボコが吸収されて車中泊にも使いやすい。このほか、後席を格納してマルチボードを立てると、荷室を前後に分割できる。荷室長が805mmの前側にペットを乗せ、545mmの後ろ側には荷物を積むような使い方も可能だ。
外観は乗用車のスペーシアと基本的に同じだが、荷室の左右に装着されたサイドウィンドウの部分には、クォーターパネルが装着される。この内側にポケットが備わり、小物類の整理に役立つ。カラーコードを引っ掛けられるから、小物類を固定しやすい。
以上のようにスペーシアベースは、軽商用車でも大きな荷物を積むことは目的にしていない。車内でリモートワークをしたり、遊んだり、就寝するなど、小さな生活空間として活用できるように工夫した。
そして前席はスペーシアと基本的に同じだから、運転感覚はなじみやすい。装備が充実することも特徴だ。軽商用車で初採用の装備として、サイドエアバッグと2列目シートのロールサンシェードを全グレードに標準装着した。
エブリイのような従来のスズキの軽商用車に採用していない装備としては、キーレスプッシュスタート、エアコンのフルオート機能、運転姿勢を調節しやすいチルトステアリングと運転席シートリフターなども採用している。軽乗用車からエブリイに乗り替えると、運転感覚や装備に違和感が生じることもあるが、スペーシアベースなら不満はない。
このようにスペーシアベースは、前席は軽乗用車、後席と荷室はエブリイのような軽商用車に準じた造りにすることで、今までの軽自動車では得られなかったなじみやすさと便利な使い勝手を両立させている。
そのいっぽうで、軽乗用車のスペーシアと比べたときの欠点もある。まずは後席が窮屈だ。身長170cmの大人4名が乗車したとき、乗用車のスペーシアなら、後席に座る乗員の膝先空間を握りコブシ3つ半まで広げられる。
それがスペーシアベースの後席は、足元空間が極端に狭く、乗員の足が前席の背面に触れてしまう。座面が低いから腰が落ち込んで膝は大きく持ち上がり、背もたれも直立している。商用車の規格に収めるには、後席よりも荷室面積を広く確保する必要があり、後席が狭くなった。荷室に装着された補助席と考えたい。
またスペーシアベースは、軽商用車では装備が充実しているが、軽乗用車のスペーシアカスアムやギアに比べると見劣りする。サイドエアバッグはスペーシアベースにも標準装着されるが、カーテンエアバッグは採用されない。ヘッドアップディスプレイも選べない。メカニズムでは、ターボエンジンやマイルドハイブリッドは設定されていない。
車検期間も異なる。軽乗用車は購入して最初に受ける車検は3年後だが、軽商用車は2年後だ。従って購入から約5年後に売却する場合、軽乗用車では2回目の車検を受ける直前に手放すが、軽商用車は2回目の車検を受けた翌年になる。つまり売却のタイミングによっては、車検を受ける回数が1回増える。それでも小型/普通乗用車と違って、毎年車検を受けることはない。2年ごとで続く。
保険会社によっては任意保険も異なる。軽商用車では、年齢条件や家族限定の内容が、軽乗用車とは異なる場合があるからだ。同じ条件で加入すると、軽乗用車のスペーシアより、軽商用車のスペーシアベースは任意保険料が高まることがある。
軽自動車税は、乗用車が年額1万800円、軽商用車は年額5000円と安いが、初回の車検期間が短い、任意保険料が高まる場合がある、後席の広さが制限されるなどの欠点を考えると、スペーシアベースは、軽乗用車のスペーシアに比べて不利が目立つ。
ライバル車はどれ?? 気になるスペーシアベースのオススメグレードと納期
スペーシアベースに似た軽商用車として、ホンダN-BOXをベースに開発されたN-VANもあるが、ホンダとスズキでは事情が違う。ホンダは以前、スズキエブリイに相当する荷室の広いアクティバンを自社生産していたが、今は終了した。
前述のとおり軽商用車は薄利多売だが、ホンダはスズキと違ってOEM関係を持たず、採算性が悪化するからだ。そこでアクティを廃止して、N-BOXをベースにしたN-VANを割安なコストで開発した。
その点でスズキには、軽商用バンのエブリイがある。エンジンを前席の下に搭載してボディの前側を短く抑え、積載容量も大きい。エブリイがあるのにスペーシアベースを開発した背景には、遊び、仕事、日常的な移動まで、さまざまな用途に使える軽自動車が求められたからだ。
スペーシアのような天井の高い軽乗用車は、ファミリーカーに適するが、実際には50~60%のユーザーが2名以内の乗車で使っている。スペーシアの後席を格納して荷物を積み、仕事で使うケースもあり、荷室の使いやすいスペーシアも必要とされていた。このニーズに応えたのがスペーシアベースだ。
先に挙げた欠点を理解して、試乗チェックも入念に行って納得したら、スペーシアベースは従来のクルマでは得られなかったカーライフを提供してくれる。装備を満載してキャンプに出かけるのではなく、近所の公園で散歩を楽しみ、駐車場に停車したスペーシアベースで本を読み、夕方になったら買い物をして帰宅する。のんびりした休日の過ごし方だ。
買い物や通勤に使うセカンドカーにもちょうど良い。日常的な移動に使いやすく、なおかつ従来の軽自動車とは違う価値を備える。
スペーシアベースのグレードは、GF(139万4800円/2WD)と上級のXF(154万7700円/2WD)になる。推奨されるのはXFだ。車間距離を自動制御できるアダプティブクルーズコントロール、右側スライドドアの電動機能、アルミホイールなど、GFに19万円相当の装備を加えて、価格アップは15万2900円に抑えた。スペーシアベースは実質的に2人乗りだから、スライドドアの電動機能は左側には用意されず、運転席と同じ右側のみになる。
納期にも注目したい。販売店によると「2022年9月下旬に契約した場合、スペーシアベースの納期は2~3か月に収まる。軽乗用車のスペーシアは3~4か月を要するが、スペーシアベースは新型車だから生産量を増やしており、納期が短い」という。購入しやすいこともメリットだ。
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投稿 軽自動車に革命を起こす!! 新型スペーシアベースが持つ「軽自×軽商用」の魅力と欠点 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。